君を想い、時は流れ



貴方がくれた勿忘草、

ならば、私は敦盛草を贈りましょう。



君を忘れない、と。






 * * * 




ミ〜ンミンミンミ〜ン…と蝉が鳴くその騒がしいその音をBGMに家までの道を歩く。

じんわりと汗が滲むように出てくるムシムシとした日本特有の湿気が多い夏の暑さに辟易しながらも、歩は止まらない。

既に夕暮れに差し掛かる時間帯だと言うのにべたつくような暑さは全く改善されない。

むしろ、舗装されたコンクリートの歩道は昼間の太陽の熱を残しているのか、下から上へと熱気が上がって来ているかのようにムワムワする。

ふと、見えた茜色の夕日に彼等の事を思い出した。
右手には鳶色の目付きがキツい彼、左手には無口だけど優しかった鮮やかな赤色の髪の彼。

少し先を歩くのは長い白髪を結わえて私から荷物を持っていってしまった彼。

少し遠くに居るのは追い駆けっこをしながら走っている黄色のTシャツ姿の3人、それを追いかけているのは左目に眼帯をした癖のある白髪の彼。

その4人を必死に追いかけて叱っているのは頬に傷がある青年と橙色の髪の彼。

そんな彼等を呆れたように本を片手に眺めているのはふわふわとした白髪に紫色の縁の伊達眼鏡を掛けた彼。


でも皆が笑っていて、そんな彼等を見て私も自然と微笑を浮かべていた。

皆で歩いた帰り道、酷く優しく穏やかな時間。

笑って、泣いて、怒って、また笑い合う。


そんな暖かい時はもう流れ過ぎてしまったけれど、今も色鮮やかに私の中に残っている大切な記憶。


大丈夫、彼等は彼等が在るべき場所に帰っただけ。
私は私の在るべき此の世界であの時訪れた奇跡の出会いと非日常を思い出にして、明日を歩んでいく。

本当に奇跡のような夏だった。

今あの時の選択を後悔していないのかと聞かれたら、後悔はしていないと嘘偽り無く言えるだろう。

少なくとも、私の首に掛かっているこの彼等がくれた鉱石の欠片、パワーストーンと言われている石がある限り、彼等は確かにこの世界に存在していたのだ。

寂しいし、悲しいけれど私は後悔してはいない。

彼等には彼等にしか出来ない事があって、それは私にはきっと出来ない事。誰も代わりなんて出来ない事。

だから、私は幸せだったから、後悔はしていない。



ねぇ…皆は幸せだったかな?
私は幸せだったよ。


夕日が完全に沈んだ空を見上げる。
空はどこまでも繋がっていると言うけれど、君達のいる場所にも繋がっているのだろうか?


『叶うなら───』




私は止めていた足を再び動かして、家までの道のりをまた歩き出す。


夏の初めに訪れた、あの奇跡の出会いを思い出しながら───・・・・…








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