終わりは始まりに過ぎず
* * *
次に意識が浮上したのは光に包まれた世界で大きな泣き声が自分の意志に反して喉から出た時だった。
(何だ…これ?)
息が苦しくて、死ぬ時と同じくらい痛い…
少々混乱しつつもいつも通りに目を開けると外の世界が見える。
そして、自分を見つめる人に気付く。
その優しく愛しげな視線と、その瞳に映る自分を見て理解する。
(赤ん坊…転生ってやつか…)
特に何の感情も沸かず妙に冷静に周囲を見渡した。
「……いゎよ?………ゃく。」
「……ぃ!」
とぎれとぎれ聞こえてくる会話。
全てが薄い膜を通しているかのように不鮮明な世界で誰かが息を呑むような音がやけにハッキリと聞こえた。
そして、白黒に近かった視界に鮮やかな薄紅色の花弁が一片ふわりと入って来た。それに手を伸ばせば花弁はふわりと手に収まった。
少し嬉しくて笑った。
* * *
その三日後まだ不鮮明な世界でこの世界に来た時から感じていた温かい存在の気配の側に連れて行かれた。
新しい父と母で在ろう人に共に生まれた片割れと共に抱かれ、庭に出てその気配に手が届く場所まで近付く。
片割れはその気配を知らないのかずっと眠ったままだ。
父が母から私を受け取り何の反応も示さず眠る片割れを連れて下がった。
私はその様子を見た後気配の方見た。
(すっげ…綺麗な桜…)
最初に瞳に映ったのは鮮やかな薄紅色。
桜の大木、満開の花を咲かせているその桜からあの温かい気配はしていた。
私がその桜の幹にそっと触れた瞬間、暖かい風が吹き、その風に乗り桜吹雪が私を囲むように渦巻いて散って行った。
その瞬間不鮮明な世界が急速に色付き、鮮明になった。
そして、私は美しく映り変わる世界に歓喜の声をあげる代わりに笑った。
そしてその桜に心の中で礼を言うのと同時に
「ありがとう(ありがとう)」
その思いは父の声と重なった。
―終わりは始まりに過ぎず―
(世界の終焉は、)
(新しい世界の始まりだった)
(終わりゆく世界に別れを告げて、)
(初めまして、こんにちは新しい世界)
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