君の幸せだけを祈る




 * * * 



四年前の出来事を思い出していると…
今はすくすくと成長している愛娘、刹那の自分を呼ぶ声が聞こえた。あの時、生まれた我が子の片割れ男の子。名を千夜と付けた。こちらは普通の子供だった。

あの時、庭にある桜は三日三晩咲き乱れ、三日目に2人を連れて桜に近付いた。

千夜は眠ったまま何の反応も示さず居たが刹那はすぐに反応した。
そのままゆっくりと手の届く距離まで近付くと、その小さな手を伸ばして桜の幹にそっと触れた。

その瞬間風が吹き、桜が風に乗り刹那を守るかのように渦巻いて散って行った。

そして、キャッキャッと笑い声をあげる娘を見た後、



「ありがとう」



そっと桜に礼を言った。

その時から、刹那が桜の木に近付いたりすると必ず、季節に関係無く桜が狂い咲く事から歴代最強の鬼姫として刹那は

《狂桜鬼》
─狂い咲く桜の鬼姫─

として鬼達に知れ渡った。


貴重な女鬼、だがそんな事は関係無い。
歴代最強の力を持つ鬼姫、そんなものもどうでも良い。
千晃は唯、その力を持って生まれた刹那の幸せを願った。
だからこそ二つの名を付けた。

刹那、そしてもう一つの名を千幸。
≪永久の幸せ≫という意味の名を。
そして、桜に祝福を受けた刹那は元気に育った。子供ながらにして不思議な雰囲気を持っており、自分の立場も理解していて決して曲がらない芯の強さがある。

我が子ながらクセが強いが、優しい子だ。

双子だと言うのに、弟とは容姿以外まったく似ておらず、弟が子供っぽ過ぎるように見えていた。幼いのに既に鬼の力を完璧に制御していた。



そんな事を考えながら歩いていると、



『お父さーん!』



また、自分を呼ぶ声が聞こえ、庭に面した廊下に出た。すると、自分を見つけた刹那が前に挨拶に来て以来、よく来るようになった風間家の息子と刹那が拾って来た匡という子の手を引いて走って来る所だった。

後ろからは一生懸命に刹那達を追って走る双子の片割れ、千夜をその後ろから刹那が懐いている九寿という少年が抜かして刹那に追い付き、千夜は悔しそうに走っていた。

その様子に苦笑しつつも、眺めていると刹那が千夜に気付き、2人の手を離して千夜に駆け寄った。そして、刹那が笑顔で手を差し出すと途端に千夜は嬉しそうに笑みを浮かべその手を取った。

そして、風間、不知火、天霧はそれを不機嫌そうな様子で見る。



(刹那…今からこんなにモテて……お父さん色んな意味で心配だよ…)



皆から愛されている刹那を見て複雑な心境になる千晃だった。
そして2人が3人の元に着くと千晃は問い掛けた。



「どうした刹那」



すると、刹那は子供らしからぬ苦笑いを浮かべた。しかしその蒼の瞳は悪戯を思いついた時のような光をたたえている。そしてちらりと九寿に視線をやった。

すると、それだけで何か通じたらしく、九寿は嫌そうに顔を歪め説明を始めた。



「刹那様を誰がお嫁さんにするかで揉めているのです」



その言葉で大体の事情が掴めた千晃は眉間に皺を寄せた。



『私はまだそんなのしないのに…』

「「千晃様!俺に刹那を下さい!!」」



どうやら、本人の了解の前に親の承諾が必要だと言った所、ならばと承諾を得に来たらしい。千晃は刹那を抱き上げるとギュッと抱き締めて、



刹那は誰にもあげません!



と言い切った。



「何故ですかお義父さん?!」

「えぇい!気安くお義父さんと呼ぶな!」






「千晃…?子供相手に何をやっているのですか?…」



千晃が子供相手に漫才のような事をやっていると、後ろから呆れたような声が聞こえた。刹那はその声の方へ千晃の腕を抜け出して駆け寄った。

声の主、千優は駆け寄って来た刹那の頭を撫でると再度問うた。



「で?何を揉めているのですか?」



そして説明を聞くとしゃがみこみ、刹那と視線を合わせ問い掛けた。



「刹那は罪な女子になりそうですね…
今はまだ、刹那には早いでしょう。くだらないことをしている暇があるのなら自分を磨く努力でもなさい」



千優がそう言うと皆渋々頷いた。

風間達が居なくなると、千優は刹那に問い掛けた。



「刹那、貴女はどんな人と一緒に居たいですか?」

『一緒に…?』

「そう。一緒に。ずぅっと一緒に居たい人はいますか?」

『…私は、皆と笑い合って、たまに喧嘩して、仲直りして、また笑い合いながら、皆とずぅっと一緒に居たい』



その答えに千優は優しく微笑むとその話はそれまでになった。



そして、また仲良く庭で遊び始めた4人を縁側に腰を下ろして千晃と千優は眺めていた。

そして、胸の中で呟き願っていた。



((唯、幸せに…))



刹那は先程の問いに子供らしく無い答えをした。

この聡い子供はこれから訪れるであろう動乱で聡いからこそ様々な経験をする。

人の汚い欲望や野望の為に歴代最強の鬼の力が狙われる可能性もある。


そんな世の中でも幸せになって欲しい。
そんな儚い願いは叶うのか…

誰にも分からない。

けれど2人は願わずにはいられなかった。

優しい刹那だからこそ苦しむだろうから、器用なのにとても不器用な子だから…




─君る─

(((愛しい君を幸せにしたい……)))

(優しい片割れの幸せを…)





 *   *   * 

(愛しい君が風間達、優しい片割れは千夜の想い)




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