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「……」

『……』

「……おい」



鈴を追い掛けて見つけたのはいいが、転びそうになったところを助けてくれた黒髪の青年…おそらく、土方歳三だろう、菫色の瞳に原作よりは短い髪、そして整った綺麗な顔立ち…薄桜鬼の原作の頃と違い、狂い咲きの桜を思わせる雰囲気は無いが…やはり、そんな感じがした。



(やれやれ、まさか薄桜鬼だなんて…自称神は私の趣向をよく御存じなようだ)



そんな事を考えながら、



『ありがとう、助かった。少年、その鈴は私のだ』


返してもらえるか?と言いながら礼を言って青年から離れ未だに座り込んでいる茶髪の少年──宗次郎とやらに手を伸ばす。

宗次郎…沖田総司の幼名だ。

それに翡翠色の瞳なんて薄桜鬼の腹黒ドS属性なあいつしか思いつかない。


もしかしたら返して貰えないか…と思っていると、彼は立ち上がって鈴を渡してくれた。

リー…ン…と音が鳴る。

彼が目を丸くしていたが…まぁ良いか(面倒だし)



「あんた、時環 蒼か?」



黒髪の青年…面倒臭いから土方で良いか、に聞かれて其方に向く。



『そうだが、なぜ名を?』

「最近じゃあんたの名前は有名だ。ごろつきや、食い逃げする奴らを捕まえる正義ってな」



いつの間に、と驚く。といっても驚かされる事には妹の所為で慣れている為表情にあまり出ていないが。
そう言われて見れば町の人達はやけに親切だし、よくおまけしてくれる。


だが…正義、ね。



『別に正義の為にやっているわけではない。単なる気まぐれ、それと実力試しだよ』



私が正義ならば世も末だな…



「実力試し?」

『これでも、刀を使うんでね』



左腰の刀に手をおく。
店に行った時見つけた業物…銀色の鍔に白の鞘中の刀身は漆黒。店の主人がくれたものだ。

路地裏の入り組んだ道を通り、何かに導かれるように歩いた場所にその店はあった。
その店に入るときちんと綺麗に置いてある刀達。その奥にひっそりとあったのがこの刀だった。

その刀を手にとると、何時から居たのか主人が、抜いて見てくれと言った。言われた通り抜けば美しい曲線を描く漆黒の逆刃刀。

何でも美しい刀なのに誰も目を留めず、誰にも抜けなかった刀らしい。その上素晴らしい刀とはいえ逆刃刀…誰も買おうとはしない。
だから私が選ばれたのだろうから持っていて欲しいと。

一度も使われていないのだろう真新しい太刀の鍔が陽の光を受けて鈍く煌めいた。



「──だったらさ」



その時の事を思い出していると宗次郎が口元を吊り上げながら言った。



「僕と手合わせしてよ」

『……?』



あれ?どうしてそうなるんだ?



「宗次郎!」



私は訳が分からないと言うように、(いや実際訳が分からなかったのだが…)自分の肩くらいにある宗次郎の方を見た。
土方が咎めるような声を上げたが、宗次郎はお構いなしに言葉を続けた。



「強いんでしょ?この間、浪士10人を相手にしてお役所送りにしたって聞いたよ、しかも刀を抜かずに」



それは一昨日の話だった気がする。習っていた合気道の技を使って見たから刀は使う機会も無く倒せてしまった。
この身体は身体能力向上どころか化け物並の腕力や体力、脚力を有しているらしい。

…合気道じゃない技を使っていたら殺してしまっていたんじゃないかとゾッとした。



『確かにそうだが、あれくらいなら君でも戦えるぞ』

「無理だよ、多勢に無勢だからね」



そんな事は無いと思う。所謂あいつ等は雑魚キャラ、モ武将だ。
それにこんな化け物を相手にしたいという君はなら勝てると思う。



『そんな奴と手合わせしたいとは、物好きな子供だ』

「それは褒め言葉として受け取っておくよ。こっち、早く手合わせしよう」



蒼は薄く笑い、宗次郎に手を引かれるままに歩いた。
その後を青年が深く溜め息をつきながら追ってくるのを視界の隅で見、苦笑した。



(苦労人だな…)




 * * * 





連れてこられたのは古い道場のような場所。いや道場なのだろう。試衛館時代にトリップしたのだと思うから。
読みにくい文字で"試衛館"と書いてある札が門に掛かっているのを見たし、
ここが……後の新選組となる出発点か。
にしても読みにくい文字をよく読めたものだ。



『この世界で生きていくには、この時代の文字を覚えなくては駄目だな』



咲ちゃんに少しくらい教えてもらえばよかった。咲ちゃんは読み書き出来るらしいし…等と考えていれば一つの部屋に通らさせれた。
壁に掛けてある竹刀や木刀等を見る限り、稽古場のようだ。



「はい」



宗次郎に手渡されたのは木刀。資料で見た通り、かなり太い。



『…………』

「どうしたの?」

『いや、普通の木刀より重いなと』



多分…ね、今の腕力ならばかなり軽い気がする…扱い難い。木刀を上げ下げしながら手に馴らす。



『まあいい。では、やるか?』



互いに構えて…といっても自分の構えはかなり独特だが…。


一拍後、

同時に踏み出した。




 * * * 





「お、やってるなあ」

「近藤さん」



用があるとかで外出していた近藤さんが帰ってきて気付いたのは土方。



「トシ、あの子は…」



近藤さんの視線の先にいるのは宗次郎をあしらう蒼の姿がある。



「あの有名な時環 蒼だ」

「蒼君じゃないか…」

「知り合いなのか?」

「いやな、吉田屋を知っているだろう?あそこの甘味処の子で働いていたのを見た事があってな、他にも老人が重い荷物を持っている所を助けたり、としてたな」

「へぇ…」



とても良い子なんだと笑う近藤に土方は軽く相槌を打つ。

その時、


カンッと木刀が弾かれる音がした。


蒼が持つ竹刀の先が宗次郎の眉間に突き付ける形で両者が止まっていた。
勝敗が決したようだ。



『楽しかったよ宗次郎君』



蒼が肩に竹刀を担いで綺麗な笑みを浮かべていた。



「君が蒼君だそうだね」



近藤さんが手を叩きながら蒼に近寄っていく。



『あなたは…』

「ここの責任者の近藤勇だ。どうだね、ここに住まないか?」



その発言に蒼だけでなく土方も目を見開き、宗次郎は理由は分からないがニコニコと笑っていた。




 * * * 





この"試衛館"の責任者らしい近藤さんに住まないかと聞かれた蒼は驚いて動作が停止していたが、ふと思う。

何故…そんな話に、
宗次郎にも思った事だが…一応ここは遠慮して、



『いえ、ご迷惑でしょうから…』

「迷惑なものか!こちらは君のように強い者は大歓迎だ!あ、でも親御さんの了承を得なければならないか……」



この言葉にふと思う。あの世界の両親は好きじゃなかったが、嫌いでは無かったな…
多分、悪い親では無かったのだろう。
しかし、この世界には居ない。



『私の親は(この世界には)居ないんです』



嘘は吐いて居ない、親がこの世界に居ない事は確かだ。ただ、本当のことを言わないだけ。
居なきゃ居ないで別に良かったし。そう言えば近藤さんは物凄い勢いで私の肩を掴んだ。



「そうなのか?だったら尚更ここに住みたまえ!なに、ここの奴は皆良い奴ばかりだ!」



至近距離で言われて少し顔が引きつる。



(近い…!)



何とか平静を保ちつつ、涙ぐみながらそう言う近藤さんに少し考える。
ここにいれば、何かと未来のために都合が良いかもしれない。
何時までも咲ちゃんの所にお世話になる訳にもいかないし…



(良い機会かもしれない)



私は頭を下げた。



『宜しくお願いします』

「うむ!」

「はぁ〜…」

「宜しくね」



3人の反応を見てからふと思う。



(女だってこと言わなくてよかったのか?)







(やれやれ、)

(これからどうなるか)


(楽しくて仕方が無いよ)







おまけ


「近藤さんが決めたなら文句は無ぇが、良いのか?そいつ女だぞ」

「何?!」

『あぁ、なんだ分かってたんですか』

「あぁ、さっき受け止めた時にな」

「僕はさっき手を掴んだ時」


どうやら土方と宗次郎にはバレていたらしい





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