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* * *
『すまない。私の物だ』
「やっぱりそうか。焦ったぜ、いきなり荷物が飛んでくるんだからよ」
どうやら、放り投げてしまった荷物をこの男が取ってくれたらしい。
再度すまないと頭を下げ、
『ありがとう』
礼を言うと、男は少しだけ驚いて、良いんだよ。と笑った。
「これ、どうすんだ?」
男が聞いてくる。
私は千鶴を抱いている。この上に荷物を持てるだろうか?
重さは全く問題無いが……、
悩んでいると、
「…俺が持ってやるよ。家、何処だ?」
と荷物持ちを買って出てくれた。
『ありがとう。助かる』
試衛館まで荷物を持っていってくれる事になった彼と、並んで石段を上がりながら私は聞いてみた。
『名乗るのを忘れていたな。私は時環 蒼だ』
「俺は原田佐之助だ」
……やはり、そうか。
赤髪に長身。しかも槍を持っているとなれば、彼で決まりだろう。
互いに名乗っている間に試衛館が見えてきた。
『ありがとう。助かった』
「気にするな。中まで運んでやるよ」
流石、気が利く。お言葉に甘えて中まで運んで貰う。
「お?蒼じゃねぇか。帰ってきたのか……子供攫って」
『
一回沈むか?新八、前に話しただろう。千鶴だ』
あぁこの子が。納得する馬鹿…もとい新八。
「何か失礼な事思わなかったか?」
『…野生の勘か』
「思ったのかよ!」
『誰も、そんな事は言っていない』
「…そんで、そいつは……って、佐之!?」
「気付くの遅ぇよ。新八」
『知り合いか?』
飲み仲間だ!と新八が言う。そうだったのか……
『私は千鶴を部屋に連れていくから、荷物を頼んだ』
新八は馬鹿だが佐之が居るから大丈夫だろう。
千鶴をさっさと自室に連れて行き、捻った足を冷やす。
いくら鬼でも、痛いものは痛いだろうから。
治りが遅いのは、おそらく命に関わるような怪我では無いからだ。
ただの推測だが、多分命に関わるような怪我や切り傷などは治りが更に速くなるのだろう。
暫く経つと、腫れが引いたので再び千鶴を連れ大広間に行く。
『入るよ』
「お、丁度良かった」
襖を開ければ皆が勢揃いしていて、勇さんが手招きをしていた。
歩いて行き彼の隣に腰を下ろす。
千鶴が入れるようなスペースはなかったので膝の上に乗せた。
「今日から原田君も試衛館の食客として住まうことになったんだ」
聞けば、佐之さんは宛がなくて困っていたところに蒼と出会ったということだった。
『そうだったのか。原田さん、さっきは助かった。これから宜しく』
「ああ、よろしくな。あと、佐之で良いぜ」
これで、主要キャラがまた1人集まったな。
「ところで、蒼君その子は?」
『千鶴だ。前からお世話になっている剛道さんの所の子だ』
興味津々で千鶴ちゃんを覗き込む宗次郎とその他の面々。
それに吃驚したのか千鶴が、ひしっと抱きついて来る。
『千鶴、大丈夫だ。怖くないから』
「…ゆ、雪村ちづるです」
おっかなびっくりに名乗る千鶴。小動物のようでとても可愛いらしい。
無意識に手が伸びて頭を撫でてしまったのは仕方ないと思う。
* * *
最初は、ただ荷物を返してやろう。
それだけだった。
俺は隣りを千鶴という子供を抱き抱えて歩いている蒼を見る。
烏の濡れ羽色の漆黒の瞳と髪。
気怠そうに細められている瞳は、千鶴に向けられる時に酷く柔らかな暖かさを帯びる。
最初に会った瞬間、その漆黒に思わず目を奪われてしまった。あまりにも優しい目をしていたから。
蒼は変わった奴だったが、優しいのだと言う事はすぐに分かった。
荷物を拾い届けた時に、
『すまない。助かった、ありがとう』
普通の奴じゃあ、謝り倒してさっさと居なくなるが、蒼は謝った後に礼を言った。
そんな所に人格が現れている。
そのまま、荷物持ちを買って出て一緒に歩いていても思う。
新八を見た時は驚いたが、試衛館に迎えてくれたのは助かった。
近藤さんにも感謝だ。
それに…蒼、アイツに少し興味が湧いた。
気怠そうなのに、優しい眼をしているアイツが気になったんだ。
(これから、楽しみだな)
(千鶴は可愛いな)
(蒼お姉ちゃんは綺麗です!)
((もしかして、蒼を狙う敵?))
(ハハハ!仲が良いな!)
((気の所為か?どこと無くあの千鶴ってガキの笑顔が山南さんと被るのは))
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