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* * *
咲ちゃんと一悶着あったが何とか説得(だよな?)に成功し、少々疲労の色が濃いものの、何とか試衛館についた。
その頃には咲ちゃんと正面から向き合う事を余儀無くされていた近藤さんと土方さんが疲労困憊、あれだけ言い合っていたのに平常通りの宗次郎にはちょっと吃驚だ。
「さて、とりあえず部屋に荷物を置いてこようか」
部屋に案内しよう、と近藤さんが先導してくれる。大した荷物も無いので今日から試衛館にお世話になるのだ。
「ところで蒼君、君はここで食客という扱いになるのだが、君の他にも食客が居てね。後で紹介するから荷を解いたら、広間に来てくれないか?」
『分かりました』
食客か…妥当な感じだな。いざという時に一番“動き易い”立場だ。門下生になるように言われたら色々と面倒だしな。
…それに、幾ら見えなかろうと私は【女】
それだけならば、問題は無いように見えるが、今は幕末。女は家を守るものであり、剣術なんて以ての外!…という考え方が当たり前だ。
だからこその男装だ。この時代を生きるのには男に見られた方が良い。
動き易いし、刀を持ってして不自然に見られない。それでも性別は女である事に変わりは無いのだから、それが何処から伝わって近藤さん達に迷惑を掛ける訳にはいかない。
そんな事を考えている間に、どうやら着いたようだ。
さして多くない荷物を持って掃除はされてるけどすこし埃っぽい空き部屋に通された。
6畳半くらいだろうか…
「さて、此処だ。この部屋を自由に使ってくれて構わないからな!」
そう言い人好きのする笑みを浮かべる近藤さん。に自然と笑みが浮かぶ。
『はい、ありがとうございます』
「うむ!ではまた後で」
そう言って近藤さんは去って行った。
大した荷物では無いにしろ片付けておこう…
それに掃除も必要だな。
『寝れるくらいにまでは綺麗しなければ』
あまり埃が溜まっていると咳が止まらなくなる。
『晩ご飯までに広間に来るようにとは言っていたから、それまでには終わらせなければな…』
掃除なんて自分の部屋でも滅多にしないが、やる時は徹底的に私はやってしまうからかなり疲れそうだ…
『頑張るか…』
袖を捲って掃除開始。
* * *
掃除と荷解きを開始から半刻。畳は新品並に綺麗になった。
(TVで見た掃除の仕方がこんな所で役立つとは…)
人生分からないものだ。
そんなに塵が積もっておらず、持ってきた荷物も大方片付いた。因みに荷物の七割が暗器。いまも袖の陰や懐、部屋の死角などの目立たない場所に隠してある。
幾ら化け物並の腕力や脚力、体力があろうと力を過信してはならない。用心しておいて損は無いだろうし、こうした方が気分的に楽しいのだ。
(さて、そろそろ広間に向かうか)
近藤さんの言葉を思い出し、立ち上がって襖を開けようとしてから、気が付いた。
あれ?広間って何処か聞いて無い…
数秒黙考する。
結論、
(ま、何とかなるだろう)
いざとなったら誰かに聞けばいいし。
『時間もまだあるし、散策ついでに広間を探そう』
決めたら即行動。部屋を出てすぐの角を曲がったら……
「ぅおっ!?」
『…てて』
誰かと衝突。でも大体誰なのかはぶつかったときの声で予想がついた。
「悪いな、大丈夫か?」
『ああ、すいません』
立ち上がって相手を見れば短い髪に碧色の布を額に巻いた筋骨隆々な男…永倉新八、その人だった。
(この時から筋肉質なのか…)
広間の場所を聞こうとして、
「っと、本当に悪かったな。じゃあな」
『あ…』
行ってしまった。反射的に上がった右手が行き場をなくしてゆるゆると下がった。
『早い…』
(新ぱっつあんのくせに…!)
少々理不尽な苛立つを今度新ぱっつあんに稽古の時ぶつけてやる…!
と決意すれば少し苛立つも収まった。
兎に角、
『散策再開』
広間は…まあ、どうにかなるだろう。廊下を右に左に数回曲がったりまっすぐ突き進む。
同じ場所を回っているわけではなさそうだからいいんだけど、
(此処はどの辺りなんだろうか…)
無闇に歩き回らない方が良かったか?
誰かいれば……
『───あ…、』
見覚えのある後ろ姿。まさか、あの人?
『……あの、すみません』
兎に角、折角人が居るのだから声を掛けよう。そして広間の場所を聞かねば、別人だったとしても、別に構わない訳だし。
「なんだい?」
ああ、やはり…源さんこと、井上源三郎だった。
『聞きたいことがありまして、広間はどちらでしょうか?』
「それならそこの突き当たりを右に曲がってすぐの場所だ。襖が大きいからすぐ分かるよ」
『ありがとうございます』
源さんはにっこりと目尻を下げて笑った。広間の場所は分かった。後の時間は試衛館探検でもしようか、有名な歴史的場所だし。
『──はあ…』
歩いた、結構歩き回った。こんなに歩いたのは久し振りだ。なんせ、現代では交通機関はあまり利用しないものの、主に自転車で移動していたのだから。
思ったより広くて部屋もたくさんあるもんだから迷いそうだ。
『夕刻、か…』
ちょうど夕餉時だし、広間に行ってみるか。
偶々源さんと会った場所に向かって歩き出す。
一度行った場所ならば、来た道を戻れば直ぐに辿り着く。
そこから源さんに教えて貰った通り歩き着いた。
襖に手をかける
『…………』
何故だろう。
(…開けにくい)
何だか知らないけど開けづらい。柄にもなく緊張でもしてるのか?
ここで立ち止まってても通行人の邪魔だな…
昔やった力の抜き方をそっとやってから、襖を開ける。
「おお、来たか!」
近藤さんが手を振っていた。
「丁度、君の事を話していたところだ」
『そうでしたか』
近藤さんの向かい合って座る人物たち。土方さんと宗次郎。
そして、
「あ!おまえさっきの…」
「君が新しく住むことになった子だったのか」
永倉新八と井上源三郎だった。
『今日からお世話になります、時環 蒼です』
「そうか!俺は永倉新八だ、宜しくな。堅っ苦しいのは苦手だからよ、止めようぜ」
「私は井上源三郎だ。みんな源さんと呼ぶが好きに呼んでくれて構わないよ」
各々自己紹介をして近藤さんがきょろきょろしだす。
『どうかしたんですか?』
「もう一人いるんだが、まだ帰ってないようだな」
もう一人?と首を傾げていると襖が開いた。
「すみません、遅れました」
「これで全員だな」
入ってきたのは眼鏡がよく似合うあの人、その瞳にはゲームで見たような上手く隠された敵意の色は無く、本当に穏やかだった。
山南敬助、左腕の負傷によって変若水に手を出し、その効果に魅せられたその人だった。
彼が羅刹になった時の言い様の無い感情が溢れ出てきそうになる。
その全てを押し込めて、何とか平静を保つ。
「おや、君は?」
『時環 蒼です。今日からお世話になります』
「初めまして、私は山南敬助と申します」
その人は、穏やかな声音でそう言った。穏やかな微笑、
「…………」
山南さんが見て…いや、凝視してくる。
なにかついているのだろうか…?
「これは不躾ですみません。ちょっとお聞きしたいのですが」
『なんでしょう?』
「あなたは女子ですか?」
『…あ、はい。その通りです』
「山南さん、よく分かったな。蒼は女だ」
「は…?」
「でも、僕と手合わせして勝ったよ」
「宗次郎に勝つなんて凄いねぇ…」
一瞬目を丸くしたものの源さんはそう言い微笑んだ。
「え?は?どっ、どういう…女?」
かなり混乱気味な新八。
「俺はまったく気が付かなかったからなぁ」
と豪快に笑う近藤さん。
その後、やっと理解したらしい新八…念の為耳を塞いどこう。
新八の叫びと土方さんの怒鳴り声が試衛館に響き渡り、新八の頭に土方さんの鉄拳によって3段重ねのアイスクリームが作られた。
─色々決まった日─
(本当に女なのかよ…)
(そうだって言ってんだろうが!耳が可笑しいんなら、もう一度殴ってやろうか?!)
(なんなら脱ぐが…)
((止めなさい))
(駄目に決まってんだろう(咲とか言う女に殺される))
(〜っっ?!////)
((面白い…)←)
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