8000hitキリリク(蒼威様へ)
※又兵衛が先生の現パロです
「あ!」
午後6時
部活もそこそこに生徒たちが次々と下校していく
私もその中の一人だったが、うっかり忘れ物をしてしまったことを思い出す
仕方なく来た道を戻り教室へ向かうと、その途中のあまり使われていない教室に、よく見慣れた人物がいるのに気付いた
「又兵衛先生」
「おわぁ!なんだぁ、如月さんじゃないですかぁ…驚かさないでくださいよぉ」
ガラガラと教室のドアを開けて中に入ると、肩をビクッとさせて又兵衛先生が驚いた
振り返った先生の右手には火のついた煙草が挟まれていた
「教育者がこんなところでそんなもの吸ってていいんですかぁ?」
「オレ様は立派な大人ですから吸ってもいいんですよぉ」
ケラケラと笑いながら、先生はまた煙草を一口吸い、窓の外へ煙を吐く
「煙草吸ってるところ初めて見ました」
「んーまぁ、今まで止めてましたからねぇ…」
「煙草吸ってる先生も様になっててカッコイイですよ?」
「…そりゃどーもぉ」
私の言葉に平然とした顔で先生は返すが、ほんのりと耳が赤い
思わず私はクスクスと笑ってしまう
「なぁーに笑ってんですかぁ?ねぇ?」
「いえ、なんでもないですよ」
「まぁいいですけどぉ…それでぇ?如月さんはなんでこんなところにぃ?もう部活組も下校時間ですよねぇ?」
窓の外を見下ろしながら又兵衛先生が言う
すっかり夕暮れになった校門周りには生徒の姿は見えなくなっていた
「ちょっと忘れ物を取りに、その途中で先生を見かけたから…それより、名前で呼んでくれないんですか?…今は二人だけなのに」
「用心しておくに越したことはないでしょう?まぁ、本当に近くにはいなさそうですし、大丈夫ですかねぇ?だからぁ、拗ねないでくださいよぉ…弥生」
又兵衛先生と私は付き合っている
だけど『卒業するまで手を出さない』という条件付き
だから手も繋いでないし、キスもしていない
二人きりの時に名前で呼んでくれることが唯一の特別なこと
最初はそれだけでも、すごく嬉しかったし、幸せだった
でも日がたてばたつほど、先生が私のことを本当に好きなのか不安で不安で押し潰されそうになる
先生はこのままで平気なの…?私は先生ともっと色んなところに行きたいし、色んなことがしたい…
「なんですかぁ?まぁーだ拗ねてんですかぁ?」
わたしの顔が暗いままだったようで、まだ拗ねてると思った先生が顔を覗き込んできた
「…先生」
「??…どぉーしましたぁ?」
「キスしてくれませんか?」
「っはぁ!?何ですかいきなりぃ!?」
この感情に耐えきれなくなった私は先生に問いかける
先生は私の突然の申し出に驚いていた
「キスが駄目なら手を繋ぐだけでもいいですから!!先生、お願いです…」
「だから駄目ですって、見つかったらヤバイってのはわかってますよねぇ?」
私たちは教師と生徒
この関係は絶対バレてはいけない
だから危険なことは避けるべきなんだとはわかってる、わかってるんだけど…
「私、不安で…不安でしょうがないんです…私みたいな子どもなんて、もう飽きられちゃってるんじゃないかって…だから恋人っぽいこと全然してくれないんじゃないかって…」
話しているうちに目尻がじわっと熱くなり、涙が滲む
そんな私を見て、先生は目を見開いて驚いた
「ちょ、ちょっと、泣かないでくださいよぉ」
「っう、だって…」
「あぁ、もう…わかりましたよぉ!えぇ〜っと、確かポケットに…」
そう言って先生が自分のスーツのポケットをゴソゴソと探すと、中から一本の棒付きキャンディを取り出した
「飴!?いくら子どもだからって、そんなので気がすむわけないですよ!」
「いいから黙って待ってろってぇ」
「?」
飴の袋を取り、先生が飴を見つめて固まる
食べるのかと思ったけど、先生は目をつぶり、自分の口に飴を押し当てると、その飴を今度は私の口に押し当てた
「…今はこれで我慢してくださいよぉ」
「っ〜〜〜!?」
急な出来事に今度は私が固まった
だってだって!これはいわゆる間接キ…ス…
何が起こったのか自覚したとたん、ボンッと私の顔が赤くなる
涙なんか引っ込んでしまった
「おいおいぃ、間接キスでそんなになるのかよぉ」
「だだだって!何も言わずに急にするからぁ!!」
「恋人らしいことして欲しいって言ったのは、弥生じゃないですかぁ〜」
「そ、そうですけど…」
ニヤニヤと笑いながら「ねぇ?ドキドキしましたぁ?」なんて、私の顔を覗き込みながら言うもんだから、ますます私の顔が赤くなる
先生のイジワル!嬉しそうな顔しちゃって!
「本当に弥生はバカですねぇ。こんなに楽しいのに飽きるわけないでしぉ?ていうかぁ、弥生が嫌だって言っても、もう手放すつもりなんて絶対にありませんからねぇ?」
「いいかぁ?よぉく聞けよぉ?」と真面目な顔に戻った又兵衛先生が話し始めた
「ここでちょぉーっとでもヘマやらかしちまうだけでなぁ…ずぅっとこの先の弥生との時間が全部ぱぁになっちまうんですよぉ?オレ様がそんなこと耐えられねぇ!!だから、弥生も卒業するまでは全力で隠せ!」
「わかりましたかぁ!?」と最後に言われ、又兵衛先生の鬼気迫る迫力に、思わず私は「は、はい!!」っと返事をした
「わかればいいんですよぉ…あとぉ、この際だからついでに言っておきますがねぇ…」
先生は片手で顔を覆い隠し「はぁ〜」っとため息を一つして、続けてまた話し始める
「弥生が思っている以上にオレ様は弥生のことが、だぁ〜いすきなんですからねぇ?内心は弥生に触れたくて触れたくてしょうがないのを我慢してるんですからぁ…それで代わりにまたタバコを吸い始めちゃったんですよぉ…ったく、弥生が卒業するまでは禁煙出来ねぇなぁ…」
先生はまた「はぁ〜」っとため息をつく
顔は隠されていて表情は見えないけど、隠しきれない耳は真っ赤に染まっている
まさか先生がそんなに想っていてくれたなんて気付かなかった…
「…でぇ、オレ様にここまで恥ずかしいこと言わせておいてぇ、まぁだ不安なことでもありますかぁ?」
「…いえ、もう大丈夫です…もう聞いてるこっちまで恥ずかしいくらい充分過ぎて、顔の熱が全然下がらないくらいです…ありがとうございます」
「あぁ〜ったく!オレ様普段こんなあっまいこと言わないんですからねぇ?今日は特別サービスですからぁ!満足したなら暗くなるまでに帰るんですよぉ?」
「はい、わかりました!」
もう不安なことはない
というか、これ以上は私も恥ずかしくて耐えられないし
あ、でも私も一言だけ…
私は満足気な笑顔でドアに向かって歩き始めたが、途中で止まって振り返り、又兵衛先生の目を真っ直ぐ見つめた
「私も又兵衛先生のこと、だぁ〜いすきです!!卒業までも卒業後もずぅ〜っと、よろしくお願いします!!」
っと言うとまた満足気にドアに向かって私は歩き出した
「…可愛すぎかよぉ」
「っえ?」
後ろで先生が何が呟いた気がしたかと思うと、グイッと後ろから手を掴まれ引き止められた
「いいかぁ?卒業した後は我慢しないから覚悟…しておけよぉ?」
私の耳もとで一言そう呟やけば、ぱっと手を離し「じゃ、気をつけて帰りなさぁい」っとニヤニヤした笑顔を浮かべて先生は手を振る
「っ〜〜〜!!さ、さよなら!!」
私は先生に呟かれた耳を抑えながらダッシュで教室を出ていった
どうやら思ってた以上にこういうことに耐性が自分にはなかったらしい
恥ずかしさで爆発しそうだ!!
甘い先生は甘い先生で心臓に悪すぎる!!
もう!もう!ニヤニヤ楽しそうにしちゃってぇ!!
だけどそんなことを思いつつも、今日のことを思い出すと私もニヤニヤとした笑顔が浮かぶのだった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…流石に授業中はそのニヤニヤ顔やめなさい
by又兵衛
あとがき
初めてのリクエスト小説です
蒼威様リクエストで又兵衛先生でほのぼのでした
…が、せっかくなので甘め成分も入れてみようとしたら途中修羅場っぽくなり、あれ?ほのぼの出来てるの?状態に…
もし、お気に召さなければ書き直し受け付けます
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