01「又兵衛誕生日記念」


「まったべーー!帰るよーー!」


放課後、教室のドアから叫ぶ女
オレ様の幼馴染みの夢野優菜が「早く早く」と、このオレ様をせかす
そこらの奴だったらブチ切れるところだぁ


「はいはい、今行くから少し待ってろってぇ」


だが、優菜は別だぁ
まぁ、惚れた弱味ってやつですかねぇ
小さいころからずっと一緒にいるがぁ、気が付いたときには好きになってた
もう何年間片思いしてんでしょうねぇ…


帰り支度を済ませて廊下で待つ優菜のもとへ向かう
「帰りますよぉ〜」と声をかければ嬉しそうに後からついてくる優菜
あぁ、超可愛いぃ


家がお互い近所だから、学校から家までほぼずっと一緒だぁ
毎日、学校であったことやテレビのことなど雑談ばかりしながら帰る
この二人きりの時間がいとおしい


「あ、みてみて又兵衛!鯉のぼりがもう出てるよ!」

「もうそんな季節ですかぁ〜」

「明日はこどもの日だもんねぇ〜、又兵衛の誕生日だね!!」

「そうですねぇ〜」


こどもの日、5月5日はオレ様の誕生日だ
優菜は毎年祝ってくれている…あ、あと阿呆官も


「ねぇねぇ、何か今欲しいものとかない?プレゼントしたげる!」

「別にありませんけどぉ?ていうか、そういうのは普通は聞かないでさぁ、サプライズで渡したりするもんじゃないんですかぁ?」

「だって、やっぱり又兵衛が貰って嬉しいものあげたいじゃない?それなら、本人に聞いた方がいいでしょ?」


確かにそっちの方が高確率で相手が喜ぶだろうが、オレ様の場合は優菜からの物だったら何でも嬉しいんですよぉ


「何かないー?欲しいものないなら、して欲しいことでもいいよー?」

「して欲しいことですかぁ…………彼女が欲しい」

「っえ!?」

「っんなぁ!?」


オレ様、今なんていった?
考えてたことが口から出てしまったってかぁ!?
頭をよぎった願いは『優菜がオレ様の彼女になって欲しい』だった
そんなこと言えねぇーと、無意識に出たかわりの言葉が『彼女が欲しい』だった
本音を丸々言ってしまわなかっただけ救いかぁ
にしても、色々はしょり過ぎだろ、オレ様ぁ!!


「なんで、言った本人が驚いてるのさ!ってか又兵衛、彼女とか欲しい人だったの!?」

「おまえはオレ様をなんだと思ってたんだよぉ!?」

「恋愛とか彼女とか興味ないかと思ってた」


気持ちがバレないように興味ないふりをしてたんだよぉ!
なのに今の一言で全部パァだ
オレ様の馬鹿やろぉ!!


「あー…オレ様だって男ですしぃ、女に興味がないわけじゃないんですよぉ」

「そっかぁ……」


言っちまったもんはしょうがねぇ
下手に誤魔化そうとすると、余計に墓穴を掘りそうな予感がしたので、いっそもう開き直ってみる
まぁ、俺の場合は興味があるのは優菜だけにですけどぉ


「好きなタイプはどんな人?」

「タイプですかぁ……黒髪ロングの身長は160センチくらいでぇ、元気があり余ってて、オレ様のことよくわかってくれる、ちょっと馬鹿なやつ…」


しまったぁ…具体的に言い過ぎたかぁ?
色々あげてみたが、全部優菜に当てはまることばかりだ
さすがにバレてしまうかと思ったが


「どんな女の子よ!?希望設定が細かいわ!!…うーん、探すの大変そー」


いや、目の前にいますからぁ!
どうやら、バレてないようだぁ
鈍くて助かったのやら、よくないのやら
ん?てゆーかぁ、探すってぇ?


「又兵衛って好きな人いるの?」

「っはぁ!?い、いませんよぉ!!」

「ふぅん、そっかー」


直球な質問に不意をつかれ、思わず焦る
慌てて否定をしてみたがぁ、バレてない?バレてないですよねぇ!?


などと、話しているうちに気がつけば優菜の家の前まできたようだ
助かった、これ以上追求されたらたまらねぇ


「じ、じゃあ、また明日学校でなぁ」

「うん、又兵衛のタイプにあう女の子いないか周りに聞いておくね。それじゃ、また明日」

「っへ?」


最後にそう言って、優菜は家の中へ入っていった
あれ?もしかして、これってさぁ…
ふとよぎる不安にオレ様はポケットの中の携帯を取り出した




………………



「ってことがあったんですけどぉ…どうしましょぉ〜!?」

「珍しく先輩が俺に話があるなんて言うから、何だと思えばそんなことがあったんすか」


先輩から「さこぉん!!今すぐオレ様の家までこい」と電話で呼び出しがあったのが数十分くらい前
正直、ものっすごくめんどくさそうだし行きたくなかったけど「来なかったら閻魔帳に書いてやる」なんてそっちの方が100倍面倒だ
仕方がないから来てみれば、まさか先輩に恋愛相談をされるなんて…


「これってさぁ、他の女紹介されたりするパターンじゃないですかぁ!?んなことされたらマジで凹む」

「そんときゃ、脈なしってことですもんねー」


凹んでこんなに弱々しい先輩なんて超珍しい
日頃のお返しにと、ケラケラと笑いながら軽く追い討ちをかけてみた
怒られるかと思ったが、予想外にさらに衝撃を受けて凹んじまった
あちゃー、これはそうとうヤバいっすねー…


「そんな凹むくらいならもういっそ告っちゃえばいいじゃないっすか」

「それが出来たら苦労しねぇんだよ!」


まぁ、そりゃそうだ
しかし、気に食わないやつがいれば『又兵衛閻魔帳』に名前を書いてはネチネチと追いかけまわすくせに、恋愛沙汰はこうも奥手だったとはねぇ…
あれくらい積極的になってみればとも思ったが、そんなことになったら今度はもれなくストーカーと呼ばれることになりそうなので、この案は俺の中で密かに却下した


「ってか、俺からしたら『先輩方って付き合ってなかったのか!?』って感じで逆にビックリなんすけど」

「はぁ?なにいっちゃてんのぉ?そうだったらどれだけいいとオレ様が思ってると思ってんですかぁ?」

「だって友達にしたって、すげー仲良すぎじゃありません?」


いつも見かけるたびに一緒にいるし、勝家はこの間、優菜先輩たちが腕組みながら歩いてるの見かけたらしくて「羨ましい…私も市様と(以下略」って言ってたっけ
優菜先輩も先輩と一緒にいて楽しそうだし
先輩は先輩で優菜先輩の前では隠してるつもりかもしれないけど、優菜先輩にデレデレなのは周りからみたらモロバレだしさぁ


「そりゃ、付き合ってんじゃね?って思うっしょ」

「うるっせーなぁ、別にオレ様たちにはそれが普通なんだよぉ!昔からなぁ!」

「好きな人目の前にそんなことされて、先輩よく耐えれますね色々と」

「馬鹿やろぉ!平気なわけあるかぁ!!毎日が幸せと同時に戦いだよぉ、自分とのなぁ!!」

一番ヤバかったのは、自分の部屋で遊んでたときに無防備に寝落ちされていた時らしい
ものすごい理性と本能との葛藤だったそうで…
すごい、俺なら耐えられない
たぶんすぐに飛び付く自信しかねぇわぁ


「なおさら、なんで付き合ってないのかわからないんですけど」

「だからうるせぇって!いったろうが、昔からこうだから気にしてねぇんだよ、優菜は…だから、下手に行動にうつして今の関係壊れんのも恐いんだよぉ…」


先輩…いつもジメッとヌルッとしてて、ウゼェと思うこと多々ありますけど、その一途さは尊敬しますわ


「なんていうか、先輩も大変なんすね…俺、応援します!!」

「お、おう、サンキュー」

「取り敢えず、優菜先輩がどういう行動してくるかですよねぇ…なんで、そんな中途半端なこと言っちゃったんすか」

「知るか!口が滑っちまったんだよ!!そろそろ隠すのも限界きてんのかぁ!?あぁぁぁぁぁ、考えたくねぇ……他の女なんてどーでもいいんだよぉ優菜!!…」


その日は先輩の話をずっと聞きながら、凹み嘆く先輩を励ましたりして終えたのだった




………………



又兵衛が彼女が欲しいと思ってたなんて
いつもそういう話題には反応薄かったから興味ないと思ってたのに


「いつも一緒にいたのにわかんなかったなー…」


取り敢えず、して欲しいことをしてあげるといってしまったのだ
好きな人はいないらしいので、なるべく条件にあう、又兵衛のことが好きな子を探せばいいのかな


妙なモヤッとしたものが私を襲う
胸がチクチクと痛い


「なんだこれ…あーもう、又兵衛の好きなタイプが細かすぎるせいよ!」


これ、見つからないんじゃないかな…
そうだ、探すだけ探して見つからなかったのならしょうがないよね、うん!
その時は駄目だったって謝ればいいよね!


そう考えたら、スッと胸が軽くなった
取り敢えず、学校内をうろうろしてみる
外見の特徴があう人はたくさんいるけど、元気な子っていったら、スポーツする人とかかな…


でも、まずは又兵衛に好意を持ってくれている人を探さなければ、付き合うなんてことにはならないだろう
私はそんな人知らないので、友達に聞いたことがないか聞いてみることにした


「又兵衛のこと良いって言ってる黒髪で(以下略)な女の子って聞いたことない?」

「又兵衛を?うーん、聞いたことないなぁ…」

「そっか!ありがとう!」


色々な友達に聞いてみたが、見つからない
やっぱりあの条件ピッタリなんていないかと思っていたら、ある友達から「そうゆうのなら、佐助先輩が詳しいんじゃない?」と言われた


そう言えばすっかり忘れてたけど、佐助先輩は学校一の情報屋だった
彼に聞いても駄目なら、もう本当にいないのだろう
最後に聞いてみようと佐助先輩を探すと、案外あっさりと会うことができた


「せんぱーーい!すみません、聞きたいことがあるんですけど」

「ん?お仕事かい?高いよー?」

「あ、やっぱり取りますか」

「そうだなー、優菜ちゃんだし内容によってはサービスしてあげよう」

「本当ですか!」


まぁ、取り敢えず話をということなので、かくかくしかじかと依頼内容を説明する


「まー、ずいぶんと条件が細かいねぇ」

「やっぱりこんな子いないですよねぇ…?」

「いや、それなら二人知ってるな」

「っえ!?」


まさか、あんな条件でいるなんて…しかも二人も!?
さすが佐助先輩…


「あ、ほらほら、丁度あそこにいる子が一人目」


見た目…オッケー
佐助先輩の話を聞くかぎり他の条件にもほぼあってる
なにより、又兵衛のファンらしい


「あと一人いるけど聞きたい?」

「あー…お願いします」


又兵衛さえオッケーすれば、きっとあの子かもう一人と付き合うことになるんだろうか
そう考えたらまた胸が痛くなってきた
本当なんだこれ…見つかったんだから喜んであげるべきなのに…
じくじくと痛む胸をおさえながら佐助先輩の話を聞く


「その条件なら優菜ちゃんもあてはまってるんだよねー」

「っへ?」

「条件にあう、もう一人は優菜ちゃん」

「私!?」


いや、言われてみれば見た目中身とあってるかもしれないけど…


「ってかさー、ひょっとして優菜ちゃん自分で気付いてないの?」

「え?何がです?」

「んー…じゃあさ、又兵衛が他の子と付き合うってことはさ、優菜ちゃんは又兵衛と二人で帰ったり、遊んだり出来なくなるわけだけど、どうする?」

「え…そんなのやだ!!」


そんなこと考えてなかった
すごくやだ!又兵衛とはずっと一緒にいられると思ってたから


「あ、そっか、そうだったんだ…」

「ん、もう大丈夫かい?」

「はい!ありがとうございます!私、頑張ってみますね!」

「そりゃよかった、頑張ってねー…まー、優菜ちゃんなら絶対大丈夫だと思うけど」


佐助先輩にお礼を言って別れて、又兵衛を探す
学校内を探すと、遠くの方で珍しく左近くんと一緒にいる又兵衛を発見した
そっちへ向かうと、二人も私に気が付いたようで、こちらを見てきた


「き、きたっすよ!?あ、ちょ、先輩!逃げるのは不味いですって!」

「嫌だぁぁぁぁ、聞きたくないぃぃぃぃ」


なんだか二人でもみあってるけどどうしたんだろう?
またケンカでもしてるのかな?


「またべー!左近くーん!」

「あ、優菜先輩こんにちはっす…」

「左近くん、ごめんね?ちょっと又兵衛借りていい?」

「あ!はい!どうぞどうぞ!!」

「あ、左近てめぇ!」

「こういうのは二人の方がいいっしょ!?じゃ、そうゆうことなんで頑張ってください」


ビュンっと風のように左近くんは去っていった
又兵衛と私の二人だけになる


「話の途中にごめんね?昨日話してたことなんだけど…」

「あー、別にあんな細けぇ条件のやついなかったろぉ!?いいんだ別に気にすんなぁ!じゃあ、この話は終わり!」

「や、それが二人いまして…」

「っはぁ!?」


案の定、私が佐助先輩から聞いたときと同じように、又兵衛も驚く


「佐助先輩に聞いてさ」

「っち、あんの先輩ぃ…余計なことぉ」

「でね、そのうちの一人がね…」


あぁ、怖いなぁ…でもようやく自分の気持ちに気付いたんだ
ぐっと勇気をふりしぼる


「わ、私だったの!だから、私じゃ駄目かな!?」

「…え?」

「か、彼女欲しいなら…私がなってあげる!!」

「なななな!?それ本気で言ってんのかぁ!?」

「私、気付いたの!又兵衛が他の子と一緒にいるなんてやだ!一緒いられなくなるなんてやだ!私…又兵衛のことが好き!」


言った…言ってしまった…もう、後には引けない
又兵衛といえば、私の言葉に驚いて放心している
少しして、ハッと我に帰った又兵衛が口を開いた


「お、おまえってやつはぁ…人が何年も言えなかったことをこうもあっさりとぉ…」

「やっぱり私が彼女じゃいや…かな?」

「んなわけあるかぁ!あぁ、もう…オレ様も優菜が好きなんだよ!こっちは何年待ったと思ってんですかぁ?むしろ、優菜以外は断固拒否しますからねぇ」

「ほ、本当に!?でも好きな人いないって…」


「嘘なんかつくかよぉ…」っと呟いて、グイっと引き寄せられたかと思うと、又兵衛に抱きしめられた
又兵衛も私が好き!?全然そんなのわかんなかった…でも、すごく嬉しい!
私もギュッと又兵衛を抱きしめ返す


「オレ様の彼女になったら絶対にもう離しませんからねぇ」

「うん!」

「夢じゃねぇんだよなぁ?」

「夢じゃないよ!」

「てゆーか、おまえ気付くの遅すぎ」

「ごめんね?」

「あぁもう、大好きだよぉ…」

「私も大好き!」


体を離してお互いに笑いあう
又兵衛の顔は真っ赤でほんのり涙目だ
思わず胸がきゅんっとして、つられて私も赤くなる


「あー、取り敢えず帰りますかぁ…」

「そ、そうだね…」

「……ん」


歩き出した又兵衛が私に手をさしのべる
その手を私は掴んだ、もちろん恋人繋ぎで


「えへへ、又兵衛誕生日おめでとう!」

「ありがとうございますぅ」

「結局プレゼントどうしよう…」

「…もうこれで充分ですよぉ」


と、握っている手の力をギュッと強くする
していることは普段とあまり変わらないはずなのに、いつも以上に幸せだった



………………

おまけ


後日、佐助先輩にお礼を持って会いにいった


「佐助先輩のおかげです、ありがとうございました!」

「やー、うまくいったみたいでよかったよ」

「でも、又兵衛のファンのあの子には悪いことしちゃったかな…」

「あー、大丈夫大丈夫。ファンってのは嘘だから」

「え?」

「ん?」


ニコニコと笑う佐助先輩
全てをわかった上であんなことを言ったのか
この人は本当にすごいと思うのと同時に、絶対に敵に回してはいけないと思った



………………


さらに、おまけ



「でさぁ、優菜が本当に可愛くってさぁ…」

「先輩、本当におめでとうございます…嬉しいのは充分わかりましたから、もう切っていいですか…?」


その後の報告に電話してきた又兵衛に、延々とのろけ話をされてぐったりしてる左近がいたのでした


(あぁもぉ!!やっぱりこの先輩うっぜぇぇぇぇぇぇぇ!!)

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