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突然ですが寝坊しました!!
いや、正しくは学校には全然間に合うんだけど、後藤くんとの約束ではもう家を出ていなければならない時間です


とにかく、急いで準備を終えて家を出る
幸い、体力は割りとある方なので約束の場所まで全力で走って向かった
予定の時間までだいぶ過ぎてしまっているので、もういないかもしれないが、走り続けていたら追い付けるかもしれない
という希望を持って今は走る


ヤバいヤバいヤバいぃぃぃぃ!!
さっそく初日からこんなんじゃ、一緒に登校とか話にならないじゃないか私!!
それに、後藤くんの思い付きで決まったペナルティもある…
私のシャー芯終わった…あぁ、私の反応を見ながら、生き生きとした顔でポキポキしてる彼の顔が思い浮かぶ…


なんて考えながら走っていたら、約束の場所の近くまできた
まぁ、いないだろうなぁ…という予想とは反して、後藤くんは待っていた
…ものっすごく不機嫌な顔をして


「おっっっそいですよぉ!!!今、何時だと思ってんですかぁ!?ねぇ!?見てくださいよぉ?こぉーんなに木偶どもがわらわらとわいてくる時間ですよぉ?わかってますかぁ!?ねぇぇぇ!?」

「うわぁん、ごめんなさーーーい!!」


私に気付き、ズカズカと私のところへきて大きく息を吸い込んだかと思うと、第一声からおもいっきり怒られた
しかも、一息でこの台詞を全て言いきった
とにかく迫力がヤバい
私も第一声はまず全力で謝った


「本当に初日から遅れるとかさぁ、やる気あるんですかぁ?ねぇ?」

「やる気はありました、本当です」

「じゃあ、ただの馬鹿なんですかぁ?阿呆なんですかぁ?」

「はい、その通りでございます」


後藤くんからの罵倒の雨が降り注ぐが何も言い返せない…
最終的には「まぁ、もともと最初から出来るとか期待してませんでしたから、いいですけどぉ」ということで許してもらえた
ていうか、もとから期待してなかったとか、失礼発言に一言言い返したいとこだが、遅刻したのは事実なので、グッと言葉を飲み込んだ


「次こそは…次こそはちゃんと起きてみせます」

「やっぱりさぁ、いつもと同じ時間の方がよかったんじゃないですかぁ?」

「今日はダメだったけど明日からは出来るかもしれないじゃん!諦めないよ!」


馬鹿で阿呆でダメダメかもしれないけど、諦めの悪さなら負けない!
寧ろ、ここで諦めたらさらにへなちょこじゃないか!


「そ、そうですかぁ…まぁ頑張るのはおまえですしぃ、好きにすればぁ〜」

「うん、頑張る!それより、待っててくれてありがとう!てっきりもう行っちゃってるんじゃないかと思ったよー」


人混みが好きそうではなさそうな後藤くんなら、こんな時間になるまで待ってなさそうだと思っていたので意外だった
現に周りは昨日会ったときとは打って変わって、登校する学生で溢れかえっている
私がいつも登校する風景だ


「…ただの気まぐれですよぉ。あー、それより何で遅れたんですかぁ?」


なんか話をそらされた気がするけど…まぁ、しかし後藤くん。理由を聞いちゃいますか、そうですか…


「えと、寝坊しました」

「そんなことは大体わかんだよぉ、寝坊した理由はぁ?」

「う、寝るのが遅くなっちゃって…」

「はぁ?早起きしようってやつが何で夜ふかししてんだよぉ!」

「いやー、後藤くんのことで考え事をしてたら、気が付いたらすごい時間になってて…」

「はぁ!?オレ様のことぉ!?」


遅れた理由に突然自分の話が出てきたのだ
もしも私が逆の立場なら気にならないわけがない…


「どんなことを考えてたんですかぁ?ねぇ?まさか、今さら友だちをやめたいなんて考えてませんよねぇ?言い出したりしませんよねぇ?ねぇ!?」

「違う違う!!そんなんじゃないって!!」

案の定、後藤くんからの質問攻め
しかも、全然違う方に勝手に勘違いされちゃったみたいで、半ばキレ気味で詰め寄られる
焦った私は急いで否定するが、「じゃあ、どういう内容か話せ」という視線が痛い
この流れであの話をするのか…


「えっとですね…せっかくちゃんと友だちになったんだし、何かいいあだ名とか呼び方ないかなーっていろいろ考えてました!ほら、後藤くんって呼んでる人たくさんいるし!でも、そういえば私、後藤くんの下の名前を聞いたことがないじゃない!ってなって…じゃあ、どんな名前だろう?とか色々考えてました!」

「は?あだ名ぁ?ってゆーか、今までフルネームも知らねぇやつと一緒にいたのかよぉ!」


昨日の考えていた内容を簡潔に話すと、さっきまでの後藤くんの怒りが消えたかわりに、今度は呆れ顔で言われてしまった


「だって私、初日の自己紹介休んでていなかったし、みんなは後藤くんのこと、名字でしか呼ばないんだもん」

「じゃあ、オレ様とか周りのやつとかに聞けばよかったじゃねーかぁ」

「私もそう思ってたんだけどタイミングがわかんなくて…あ!でも今が聞くチャンスだよね!フルネーム教えて!」


やっと巡ってきたチャンス
後藤くんを凝視しながら、キラキラとした表情で次の言葉を待つ


何かを言おうと後藤くんが口を動かしかけたがすぐにやめ、ふいっと私からそっぽを向くと「そんな簡単に教えてなんてあげませんよぉ」と言った


「えー!?そんな!?けちーー!!」

「ケケケ、聞こえませんねぇー?」

「じゃあ、いいもん!昨日考えたあだ名で呼ぶからぁ」


昨日のあだ名候補うち、どれもしっくりこなかったが1つだけ気に入ったものがあったのだ
後藤くんが「どんなのだよぉ?」と聞いてきたので、ここで発表してみよう!


「うふふ、それはね…『ごっちゃん』でーす!」

「ふざけんなぁ!!!」


私が発表するや否や、却下される


「えー!?いいじゃん、ごっちゃん!語呂がめっちゃいいじゃない!」

「語呂とかぁどぉーでもいいんですよぉ!!次にその呼び方で呼んだら殴りますからねぇ!!」

「怖いって!!ごっ「あぁん?何ですかぁ?何を言おうとしてるんですかぁ、ねぇ?」


駄目だ…謎の殺気がビリビリ伝わってきそうなくらい、何でかこのあだ名は大変お気に召さないらしい
取り敢えず何でしょう?
いつの間にかその手に持ってる三角定規は何処から出したんですかね?
というか、何に使う気ですか!?
身の危険を感じたので、本当に諦めるしかなさそうである


「しょうがないから、ごっちゃんは諦めるよ…じゃあ、なんて呼ぶのならいい?」

「ケケケ、後藤くんがいやならぁ、後藤様でいいじゃねぇかぁ」

「やだよ!!呼んだときに、全国の後藤さんが近くにいたらどうするのさ!恥ずかしいわ!!」

「心配するとこおかしくねぇ?」


いやいや、周りに関係性が変な感じに思われるのも勿論いやですよ?
でも、後藤くんなら違和感がないのがこれがまた凄い


「もうどれも駄目だったんだから、やっぱ下の名前教えてよー」

「っち、しょうがないですねぇ…又兵衛ですよぉ、後藤又兵衛」

「じゃあ、『又兵衛』ってこれから呼ぶね!」

「結局呼び捨てかよぉ」

「又兵衛ちゃんがいい?…て、ウソウソ!冗談ですって!!」


冗談で言ってみたら、ギロリと睨まれた
だって、『くん』も『ちゃん』も『様』もなしなら呼び捨てしかないじゃない


「しょうがないから呼び捨てでもいいですよぉ」

「私も飛鳥って呼んでもいいのよ?」

「神田でぇ」

「何で!?」


まぁ、素直に呼んでくれるとは思ってなかったけど、内心は私も名前で呼んで欲しかったなぁ
いつか、もう一度頼んでみよう


「又兵衛、又兵衛、又兵衛」

「何、人の名前を連呼してんだよぉ?」

「今日初めて聞いた名前だからねー、慣れるため慣れるため!又兵衛、又兵衛……」

「あぁもう、うるせーなぁ!」


練習は怒られてとめられてしまったが、一緒にまた登校出来たし、フルネーム聞けたし、新しい呼び方が決まったしで朝から嬉しいことだらけだ!
だから、私はすっかり忘れていた


「あーそうそう、今日遅刻したから約束通り『シャー芯ボキボキにしてシャーペンに詰め込むの刑』なぁ」


そう、ペナルティのことを…


「なんか地味度が上がってる!?シャーペンに詰めるのは聞いてないよ!?代わりに飲み物奢るから、その刑は勘弁して!!」

「…2本なら手を打ってやるよぉ」


本気でその刑とやらを実行するつもりらしい又兵衛への交渉が成立し、私のシャー芯は事なきことを得た
あとからリクエストのあった飲み物が、オレンジジュースとメロンソーダっていうのが可愛すぎて、吹き出しそうになったのは又兵衛には秘密である



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