※現パロ


「…ヤバい」

返却されたテスト用紙を両手で握り締め、ぽつりと呟く。
もちろん呟いたところで私のテスト用紙は消えてなくならないし、なくなったとしても結果は変わらない。
返ってきたテストは世界史の問題が並んでいて、更には赤字でナイキのマークがいくつも重ねられている。
申し訳程度に添えられた丸印がむしろ哀愁をそそるそのテスト用紙は紛れもなく赤点だった。
ちなみに14点…何これ笑える。

「名前…お前笑ってるバヤイか!何でこの私が面倒を見てやったのにそうなるんだ!」
「うわちょっと、勝手に人のテスト覗かないでよね!三郎のえっち!」
「冗談言ってる余裕があったら追試の心配しなよ。最悪夏休み潰れるよ」
「うっ…それはイヤだ…でも追試で挽回する未来が見えない」

冷静に私を諭す雷蔵と勉強を見てくれた三郎には悪いけど、きっと私には無理だ。
もう私には分かっている。
木下先生と過ごす地獄の夏休みが待ち受けている事が…。

「…ところでハチはどうだったの…ってうわっ、結果聞かなくても答え分かったわ…でも一応聞く。何点だった?」
「…20」
「うわー…」
「お前もひどいな…」
「雷蔵も三郎もそんな言い方しなくても!ほらハチ、私も赤点仲間だよ!しかも私なんか14だし!さすがに一桁は免れたけどヤバいよね!こりゃ死ぬしかないわ。へこむなー」

あまりにも落ち込むハチにヤケクソ気味にテストを見せれば涙目ではははと笑われる。
でもまったく精気がない笑いは明らかに空元気で楽しそうな感じは一切ない。

「大丈夫大丈夫!お前はヤバいの世界史だけだろ?俺数Cも35点だから!w大丈夫ちゃうけどなw」
「うっ、うわあああ大変だあああ!点数悪すぎてハチのキャラが迷子になってるううううう!」
「目を覚ませハチ!大丈夫だから!私が数学教えてやるから!」
「かわいそうに…ハチの目が死んでる…」

くっ、と涙をこらえるように言った雷蔵の言う通りハチの目は死んでいるし、セリフに草まで生やす始末。
これはヤバい。
さすがに2教科も追試はなあ…。
それにもし夏休み補習になったらハチの在籍してるバレー部の七松先輩がめっちゃ怒りそう。
いけいけどんどんでぼこられるんじゃないだろうか。
ううむ、想像するだけで恐ろしいわ。
七松先輩は勉強苦手だけど三択とかほぼ百発百中だからそこで点を稼いできて毎回追試から逃れてるんだよね…。
野生の勘ってすごい。
いやいや七松先輩が野生の獣とかいう話はどうだっていいんだった。
今大事なのはハチの目が死んでる事!

「ハチ!元気出して!一緒に追試で挽回しよう?」
「そうだな、まだ夏休みが潰れると決まった訳ではないし」
「僕も勉強付き合うから頑張ろう!」
「名前、三郎、雷蔵…ありがとう…!お前ら良い奴だなあ…!」
「何言ってんの、友達でしょ!」
「ふん、感謝しろよ」
「ハチは大袈裟なんだから」
「あ、ありがとううううう!」

みんなの友情に男泣きしたハチがぐずりと泣いて、私たちまったく仕方ないなあと笑い合う。
ハチってばほんとに大げさなんだから。

…なんて、笑ってたのは今ではいい思い出。
現在夏休み真っ最中な筈の私は学校で木下先生と仲良く補習をしていた。
ハチこの野郎は見事に補習を免れて元気に夏休みを謳歌している。

「なんでだあああああああ!!!」
「うるさい!黙ってやらんか!」

叫ぶ私に木下先生が怒鳴り声をぶつけるのは毎日の恒例である。


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