※現パロ

私の兄、鉢屋三郎の友だちに竹谷八左ヱ門という人がいる。
いとこの雷蔵ちゃんやお兄ちゃんの友だちの兵助くん、勘ちゃんと五人でよく遊んでいて、我が家にもよくやってくるそのひとを私ははっちゃんと呼んでいた。
はっちゃんはお兄ちゃんなんかよりお兄ちゃんらしく、昔からひとつ年下の私をよく構ってくれた。
家に遊びにくれば一緒に遊ぶか?と言ってくれたり、お土産と言ってお菓子をくれたり。
たぶん本人は何も意識してないんだろうけど、私がはっちゃんを好きになるのはなんにも不思議な事じゃなかったのだ。

そうしてはっちゃんを好きになってはや三年。
はっちゃんは高校二年生になり、私は高校一年生になった。
相変わらずはっちゃんを好きな私はそのうちはっちゃんが彼女を作ってしまうんじゃないかとびくびくしていたのだけど…。

「彼女が欲しい」
「無茶を言うな八左ヱ門」
「何で無茶だよ!無茶じゃねえよ!」
「ああじゃあ無謀…かな?」
「無謀でもない!」
「無駄な希望は捨てるのが身のためだと思うよー?」
「だから!無駄じゃ!ないっ!」
「人間は諦めが肝心だと人は言う」
「兵助だけは信じてたのに!」

うわあああ!と叫んで髪の毛を振り乱しているはっちゃんを見ると、何だか安心してしまうのであった。
いかんいかん、こんな風に油断してるからいつまでたっても進展が望めないんだ!
やっぱりここらでじゃあ私はどう?とか軽く言えるようじゃないとどうあがいても友だちの妹ポジションから脱出出来ない!
リビングで騒ぐはっちゃんたちをキッチンから見ながらそんな事を考えてうむむ、と眉を寄せる。
悩むまでもなく今すぐ告白してしまえばはっちゃんは大喜びで食いついてくる気がするけど、そんな勇気があったら未だに片思いなんかしていない。

「ああ…もうこうなったら男でもいいや…。恋人が欲しい…」
「うわ、モテなすぎて八左ヱ門が変な事言い出した」
「そのうち獣でもいいとか言いだしそうだよね」
「そしてダッチワイフでもよくなって」
「結局独り身に戻る、と」
「お前らほんと容赦ねえな!」

…これは何というか、聞いてはいけない会話を聞いてる気が…。
ていうか勘ちゃん、私とはいえ女の子がいるところでダッチワイフとか言うなよ。
別に気にするような性格じゃないけどさあ。
ふう、とため息をついてから飲んでいた牛乳をしまって、どうしたものか考える。
大人しく部屋に戻るべきか、少しでもはっちゃんに絡むべきか。
でも話題的に入らない方がいい…かな。
気になる女の子の話とかされたら私は爆発するだろう。
最悪の想定をして自分の心を自分で折った私は無表情になりながらキッチンをあとにする。
が、すぐに勘ちゃんに声をかけられ無表情のままリビングに引き返すはめに。
空気読めよ尾浜この野郎。

「何?」
「顔が冷たいよ名前」
「何?」
「もしかして反抗期?」
「何?」
「そんな怒んないでよう!」

わざとらしくぶりっこしてくる勘ちゃんにため息をつけば、勘ちゃんは名前ってかわいいよね!などと意味不明な返しをしてきて頭を抱えたくなる。
昔から思ってたけど勘ちゃんの思考回路ショートしてんじゃないの?

「で?何の用?」
「八左ヱ門がモテないのは何でだろうね、っていう検討会してるから参加して!」
「………」

そんなにはっちゃんを痛めつけて楽しいのかこいつら。
しかも会の主催者絶対にお兄ちゃんだよマジ最悪だな!
思わずゴミを見る目でお兄ちゃんを見たらお兄ちゃんはびくりと体を震わせてぶんぶん頭を振った。

「ち、違うぞ!私じゃない!確かに以前開催した八左ヱ門がバイト先の女の子に振られた理由検討会は私が主催者だったが、今回の主催者は雷蔵だ!」
「………」
「えっ、いや、違うよ名前!僕たちは八左ヱ門の未来を憂いて話し合いをしてるんだよ!?」
「その割にはっちゃんいじめで盛り上がってたように感じるけど」
「えー?でも俺たち事実しかもがっ!?」
「黙れ勘右衛門。名前、俺たちは八左ヱ門に幸せになって欲しくてだな、」
「黙れ兵助くん。下手な言い訳は自分の首を絞めるだけだからね?」

笑顔で言ってやれば四人は揃ってすみませんでしたと頭を下げ、はっちゃんからは感謝の視線を送られた。
まったく、仕方のない連中だ。

「だいたい、はっちゃんて言うほどモテてない訳じゃないと思うけど」
「えっ!?そうなのか!?」
「実際私の友だちにはっちゃんをかっこいいって言ってる子もいるし」
「紹介してくれ!」
「…あー、うん」

しまった、はっちゃんにこう言えばそうなるって何で分からなかったよ私…。
バカなんじゃないの?
なんて後悔してももう遅い。
はっちゃんはきらきらした目で私の方を見てるし、これは紹介するしかなさそうだ。
嫌だなあ、ここで私だってはっちゃんをかっこいいと思ってるよ!とか言えたらいいんだけど。
私に出来るのは半笑いでいつがいいか尋ねるぐらいだ。

「いつでも、」
「いい訳あるか!八左ヱ門、お前私のかわいい妹を泣かせるような真似をして!殺すぞ蓑虫!」
「まったく同感だね。くっつくなんて言語道断だけど、悲しませるのはそれ以前の問題だよ」
「ワン公のくせに舐めた真似してると痛い目見るって覚えて貰わないとねー?」
「同情の余地なし。大人しく制裁を受けるんだな」
「えっ!?えっ!?」

妙に優しい笑顔の四人と動揺するはっちゃん、そして何だか私の恋心がバレているようなセリフ。
…え、ちょ、あれっ?

「な、何で!」

そう叫んだ私の事なんか構わず、はっちゃんを締め上げる四人はバレバレだよ!と爽やかに言い放った。

「い、いやあああ!!!」
「うぎゃあああああ!!!!!」

私とはっちゃんの叫びが我が家にこだまして、消えた。


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