最近、くのいち教室の三年生の名字名前という子が気になっている。
名前はいつも明るく元気で、廊下ですれ違うとおはようございます!と必ず挨拶をしてくれるし、怪我をしてりゃ心配して駆け寄ってきてくれるし、荷物を運んでりゃ手伝ってくれて…まあとにかくいい子って事だ。
そんな名前が何で気になるかっていうと、そもそもは名前がかなりのドジって事がきっかけだった。
おはようと言ったあと、駆け寄ってくる途中、荷物を運んでる時…毎回と言っていいほどこける。
それはもう盛大にこける。
わざとなのか?と疑ってしまうくらい、何もないところでこける。
そんな名前の様子を見ているうちに助けてやらなきゃと思うようになって、それから助けたいと思うようになって…気付いたら恋をしていた。

「はああ…」
「あれ、八左ヱ門、ため息なんてついてどうしたの?」
「勘右衛門…いや、実は…」
「知ってるよ」
「えっ!?」
「くのいち教室三年生の名字名前が気になってるんだろ?」
「な、何で!?」
「八左ヱ門がモノローグを口に出してたから!」

にこーと輝くような笑顔で言われてずっこける。
そ、そんな、今までの全部口に出してたのか!?

「まあまあそれは置いといて!」
「う…捨て置けない話な気がするけどな…」
「いいから!それで、八左ヱ門は名前ちゃんと恋人同士になりたいの?」
「恋人!?いや別にそこまでは!」
「じゃあ見つめてるだけで満足?」
「………」
「もっと仲良くなりたいなら積極的にいかなきゃ!俺がキューピッドになってあげるからさ!」

やっぱり輝くような笑顔でにこー!と笑う勘右衛門に後光が差してみえる。
さすがは勘右衛門、忍術学園一リア充と言われるだけはある。
そんな頼りになる勘右衛門をきらきらと見つめ、感謝していると曲がり角から名前がやってくるのが目に入った。

「あっ!名前ちゃーん!」
「尾浜先輩!それに竹谷先輩も!こんにちはー!」
「名前、走らなくていいから気をつけろよ!」
「はーい!っわあっ!?」
「おわっ危ねえ…!大丈夫か?」
「う、は、はい…」

言ったそばから途中で石につまずいて転びそうになる名前を慌てて支える。
間に合った事にほっとしながら気をつけろよと笑いかけてやれば、名前は転んだ事が恥ずかしいのかちょっと顔を赤くして頷いた。
そんな名前をかわいいなあと和んでいたら勘右衛門がはっはーん、と意地の悪い声を出す。
…何だ、何か嫌な感じだぞ。

「俺が協力する必要ないみたいじゃない?」
「は?何が?」
「だってさあ、こんな純情なカップルみたいな顔をお互いにしてるんなら答えはひとつでしょ」
「お、尾浜先輩!?」
「二人は両思い。これで決まり!」

おめでとーう!とからから笑った勘右衛門はさっさとその場から立ち去ってあっという間に姿を消してしまう。
対してその場に残された俺と名前はぽかんとしたまま動かない。
…えーと、両思い、なのか?

「名前、あの、さ…」
「はい…」
「両思いとか、勘右衛門が言ってたけど…」
「…わ、私、あの、」
「お、おう」
「好き、です…竹谷先輩の事…」
「…俺も、お前の事、好きだ」

お互いに照れながらそう言えば何だか気恥ずかしくなって、でも嬉しくて、笑ってしまう。
名前もきょとんとしたあと、そんな俺がおかしかったのかふふふと笑いだした。

「両思い、だな」
「両思い、ですね」

そんな風に確認し合って、ぎゅっと手を握る。
そっとかわしたキスは今まで食べた何よりも甘かった。


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