※虫料理が出てきますので、苦手な方はご注意下さい。


「生物委員会でキャンプをやるから名前も参加しないか?」

そんな誘いを八左ヱ門から受けた私は当然、二つ返事で了承した。
八左ヱ門に片思いをしている私が断る筈がない。
ない、のだけど…。

「悪い事は言わない、止めておけ」

三郎に険しい表情でそう言われたかと思えば、その隣にいる雷蔵は悲しげな表情で目を伏せる。

「名前ちゃん…僕たち、待ってるから…名前ちゃんが帰ってくるって信じて待ってるから…」

悲痛な様子に戸惑っているうちに更に勘ちゃんが困ったような笑顔で続ける。

「名前ちゃん、何かあったらすぐに言って。…助けに、行くよ」

何から?と聞こうとした言葉は締めくくるような兵助の言葉によって遮られた。

「どうしても行くと言うならこれを持っていけ…きっと役に立つ筈だ」

すっと差し出されたそれを受け取ると、四人は健闘を祈る!と敬礼をしてシュバッ!と姿を消した。
…生物委員会のキャンプに何があるの?

凄まじい不安を抱えながらそれでも恋する八左ヱ門のため、キャンプを止めるなんてかけらも考える事なく私はキャンプ当日を迎えた。
何も持たずに参加でいいから!と八左ヱ門に言われていた私は本当に何も持たずに来たのだけど、集合した生物委員会の面々はやけに軽装で更に不安になる。

「…八左ヱ門、あの、荷物とか本当に何もないけど大丈夫?」
「ん?大丈夫大丈夫!」
「そう…?」

まあ忍者のキャンプだし、寝るのはそこら辺で雑魚寝なのかもしれない。
…だとしてもほとんどの子たちが手ぶらなのが気になる。
私が三郎たちに不安をあおられた後だからかもしれないけど…ううん、八左ヱ門が大丈夫って言ってるんだ!
大丈夫だって信じよう!
キリッと表情を引き締めて決意すれば、もう気にならない。
せっかく八左ヱ門とキャンプなんだし、楽しまなきゃ損だぞ私!

「よーし、いっくぞー!」
「おー!」

きゃいきゃいとはしゃぐ生物委員会の一年生たちと手を繋ぎ、四方八方肘鉄砲を歌えば明るい気持ちでいっぱいになる。
生物委員会の子たちってみんな素直でかわいいなあ。
それになんかこうしてるとまるで八左ヱ門と大家族になったかのような気分に!
きゃー!なんちゃってー!
などと一人ではしゃいでいるうちに、本日キャンプをする場所にたどり着いたらしい。
一年生の面々が口々にここですよー、到着でーす!と教えてくれた。

「裏山だからあっという間だね」
「まあなー。よし、それじゃしばらく各自自由行動な!あんま遠くまで行くなよ!」
「はーい!」
「向こうの川に行こう!」
「ジュンコ、散歩しようか」

八左ヱ門が声をかけるとみんなそれぞれ山の中へ姿を消していく。
何回かキャンプをしてるらしいから慣れてるんだろうなあ。
さて、そうなると私はどうしようか。
そんな事を考えていると八左ヱ門に名前、と声をかけられた。

「なに?」
「悪いんだけど、夕飯の準備手伝ってくれねえかな?」
「いいよ。あ、もしかしてその要員で呼ばれたとか?」
「ばれたか。実は一人で生物委員会の奴ら全員分は大変でさ」
「委員長代理も大変だね。それで私は何をすればいいの?」

内心八左ヱ門が頼ってくれた事を嬉しく思いながらそう言えば、ありがとなーと満面の笑みで竹串を差し出された。

「これにこいつを刺してくれ!」
「………」
「名前?」
「え、あ、こ、これ…夕食の、準備なんだよ、ね…?」
「そうだけど?」
「…む、虫…?」
「おう、お前もいっしょにカブトムシの幼虫食おう!特別にお前のは俺が焼いてやるからさ!」

やっぱり満面の笑みで言われて私は思い出す。
三郎の険しい顔、雷蔵の悲痛な表情、勘ちゃんの困ったような笑顔、そして兵助に渡された薬。
あ、あいつら…知ってて黙ってやがった…!

「は、八左ヱ門…私…」
「下ごしらえは済んでるんだ。タレに漬け込んで臭みを取ってあるからあとは串に刺して炙るだけで出来上がり。クワガタの幼虫もあるから食べ比べできるぞ!」
「…あ、あの、」
「カミキリムシも持ってきたんだ。こっちは生のままで美味いからそのまま食べような」
「………」
「あいつらが帰ってくる時にカマキリ捕ってくるだろうから、それは素揚げにするか…って名前?どうかしたか?」
「う、ううん…」

私の顔はおそらく真っ青になっているだろう。
けれど八左ヱ門には何で私がそうなってるかまったく分からないらしい。
まさかこんな一面が八左ヱ門にあっただなんて…!
やけに荷物が少なかったのは食料品はほぼ現地調達だからだったなんてまさか過ぎる。
ていうか生物委員会は全員虫食べるの?
あ、ありえねえ…!

「名前?顔色悪いぞ?」
「う…だ、大丈夫…串に刺すんだよね、これ…」
「ほんとに大丈夫か?無理すんなよ?」
「うん…ありがとう…」

なんとか答えてカブトムシの幼虫をつまみ上げる。
ぶ、ぶよぶよしてる…これ本気で食べるの?
感触にドン引きながらそれでもなんとか串をそれに刺すと、ぶちゅ、というなんとも言えない音がしてぞわっと寒気が走る。
い、いや、真面目にこれ無理!

「おい、ほんとに大丈夫か?」
「…無理」
「えっ!?」
「もうだめ…」
「名前ー!?」

八左ヱ門の声を最後に私の意識はゆっくり落ちていく。
ああ、これはだめだ…終わった…この恋は終了しましたまた次回のご利用をお待ちしております…。

「…はっ!?」
「お?目ぇ覚めたか」
「八左ヱ門…?」
「急に倒れるからびっくりしたぜ。体調悪かったのに無理させちまってごめんな」
「う、ううん…大丈夫」
「無理すんな、寝てろ」

にっと笑って言う八左ヱ門に小さく頷きながら思う。
やっぱり八左ヱ門かっこいい…!
胸のときめきを抑えられなくて、ぎゅっと服を握りしめる。

「八左ヱ門…」
「よしっ、焼けた!」
「え?」
「ほら名前、これ食って元気だせ!」

ときめきも束の間、笑顔で差し出されたのは気絶する原因になったカブトムシ。
絶対に食べたくない。
でも八左ヱ門と結ばれるためにはこれを乗り越えなきゃならない。

「は、ははは…」
「名前?」
「いっ…頂きます!」

女は度胸!
そんな意気込みで八左ヱ門から渡されたカブトムシの幼虫に食らいつく。
な、何…!?これは…!

「うま…!」
「お、だろ?」
「うん、え、やば、めっちゃ美味しい!何これ!」
「よし、こっちも食え!」
「カミキリムシうまー!」
「これも揚げたてだぞ!」
「カマキリやばー!」

意外過ぎる虫料理の美味さに舌鼓を打ったキャンプから数日後、私はめでたく八左ヱ門とお付き合いをする事になった。
そして今や私と八左ヱ門は忍術学園の名物カップルとなっている。

「八左ヱ門!はいお待たせ!」
「お、今日はなめくじパスタかあ。これ美味いんだよなー」
「えへへー、八左ヱ門がそう言ってくれるから得意料理になったんだよー」

そう、私と八左ヱ門は忍術学園一、虫料理を愛するカップルとして有名なのだ!

「うわ、見ろよあれ…またやっているぞ」
「名前ちゃん八左ヱ門に毒されちゃって…かわいそうに…」
「俺は名前ちゃんが幸せならそれでいいと思う。…たぶん」
「うう…虫地獄怖いのだ…」

外野のそんな声なんてまったく気にならない!

「はい、あーん!」
「あーん!」

だって私は八左ヱ門と虫料理を心から愛してるんだもの!


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