※ヤンデレ苦手な方はご注意を!


俺は籠の中で懸命に生きる虫が好きだ。
人に飼われて、飢えを知らず、野に放たれてしまえばすぐに死んでしまう虫が好きだ。
俺の手にすべてを委ねて生きるしかない虫が、好きだ。
これってたぶん異常なんだろうな。
分かってんだよ、そんなのさ。
でも昔からそうなんだから仕方ない。
まあさすがに誰にも言えずに黙ってるけど。

「竹谷くん、なにしてるの?」
「お、名字。ちょっと虫の様子を見にな。お前は?」
「わたしも虫をみにきたの」
「そっか、お前も虫好きだよなあ」

自分の虫好きについて考えているところにひょっこり現れたのは同じ五年生のくのたま、名字名前だ。
こいつはくのたまらしくないくのたまで、他のくのたまが着飾ったり甘味を食べたりしていても興味がないようだった。
いつもどこかぼんやりしてるし、忍たまの間でも生きてるか死んでるか分からない、見た目が綺麗なせいで余計に幽霊みたいだと言われる程だけど、俺は割と仲良くしていたりする。
別に大した理由がある訳じゃなく、ただ単に名字が虫好きだから飼育小屋に入り浸ってるってだけだ。
お互い虫が好きで、一緒に虫の世話をする。
特別な何かがある訳じゃなく、ただそれだけの関係。

「竹谷くん、あした新しい虫がくるって木下せんせいがおっしゃってたんだけど」
「ああ、この間そう言ってなあ。虫籠用意しないとな」
「みにきてもいい?」
「おう、ついでに手伝ってくれると助かるよ」

俺の様子を伺うようにことりと首を傾げた名字に笑顔で言えば、少しだけ口元を緩ませてうん、と答えた。
あ、なんか懐かれてる気がする。
そう気付くと何だか嬉しい気持ちになって、無意識に名字の頭を撫でてしまった。
嫌がるかも、そう思ったけど名字は口元を緩ませたまま俺の手を受け入れている。
目を閉じて、大人しく、従順に。

「…名字」
「うん」

他の男には見せないだろうその態度を認識してしまえば、ぞくぞくと背中に何か得体の知れない感情が走った。
まるで虫籠で生きる虫たちを見ている時のような、だけどそれ以上の。
ごく、と唾を飲み込む。

「お前の事」
「うん」
「………首輪付けて、籠に入れて、飼い殺しにしたい」

言ってしまった。
女の子に対して言うべきじゃない言葉を名字に言ってしまった。
いくら名字でもそんな言葉を流してくれる筈がない。
そう、思ってたのに。

「…いいよ」

ふわり、名字が笑う。
焦る俺になんか気付いた様子もなく心から嬉しそうに。

「わたし、ずっと竹谷くんにそうしてほしいって思ってた」
「…本気、で?」

信じられない気持ちで聞けば名字は見た事がないほど明るい表情で綺麗に笑って頷く。
だって、首輪を付けたいなんて、籠に入れたいなんて、飼い殺しにしたいなんて、普通は言わない。
普通の男ならそりゃ少しは自分だけのものにしたいと思うだろうけど、まるで動物と同じように言う事なんて絶対にないだろう。
なのに名字はそうしてほしいだなんて言う。
自分から言い出したとはいえ、それを受け入れる名字が理解が出来ない。

「あのね、わたしが虫を好きなのはなかまだからなの。こうやって虫かごで飼われて生きて、それがしあわせなのよ」
「幸せ…?」
「好きなひとのためだけに生きれたらきっととってもしあわせよ」
「そう、なのか?」
「うん。わたし、竹谷くんに飼われたい」

顔を赤くしてそんな事を言う名字はすごく綺麗でかあっと体が熱くなる。
ああ綺麗だ、本当に。
俺だけのかわいい名字。

「卒業したら、竹谷くんの虫かごにいれてくれる?」
「お前のためだけの首輪を作るよ」

楽しみだね、そう言って笑い合う俺たちはきっと異常なんだろう。
だけどそれでもいい。
誰にも理解されなくても、俺と名字の虫籠は暖かで幸せなんだから。


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