「出番が欲しいっ!」

ぐっと握り拳で言うハチを見ない振りしてずずっとお茶をすすり、雷蔵が出してくれたお煎餅に手を伸ばす。
ほどよく塩気が利いたお煎餅は絶品だ。
しかし私にはどうしても気になる事がある。

「…ねえ、勘ちゃん…美味しいのは確かだけどサラダ味って何だよって思わない?」
「名前ちゃん…分かる!分かるよそれ!」
「実は僕もずっと疑問に思ってた!何でもサラダ味なんだろう…塩味と何が違うのかな?」
「言われてみれば確かに…塩味と言われれば塩味だと思うな。三郎、知ってるか?」
「サラダ味というのはサラダ油を使用した塩味の煎餅の事だ」
「えっそうなんだ!?さすが三郎!」

わー!とみんなで盛り上がる。
中在ペディア並みに知識あるね!
よっ!天才!なんて口々に言い、バリバリモリモリお煎餅を食べる。
いやしかしほんと美味しいわこのお煎餅。
勘ちゃんも大人買いしてるらしいし、私も一緒に買っちゃおうかな。

「…お前ら聞けよっ!俺の話を!」
「いやあー、しかし兵助はお茶淹れるの上手いね。いいお嫁さんになるよー」
「まったくだな。兵助はとても丁寧に淹れるから。私でもかなわない」
「そうか?俺は普通に淹れてるつもりだけどなあ」
「全然違うよー。僕なんて大ざっぱだから六つも淹れたら濃さがバラバラになっちゃうし」
「俺は食べる専門だから無理だなー。出してもらう係!」

ははははは!とみんなで笑い合えば、ハチがぐすっと鼻をすする音が聞こえてきた。
おや、と思いながら振り返れば隅っこで小さくなって頭を抱えている。

「みんなして俺を無視しやがって…俺が虫野郎だからか!?だからみんな無視するのか!?虫野郎なだけに無視なのか…っく…」
「つまんない冗談言うとアイデンティティむしるよ?」
「なるほど、虫だけに?」
「上手いぞ名前!」
「いやあそれほどでも!」

勘ちゃんと三郎の合いの手にてへっと笑顔を浮かべてみせればどっとわくハチ以外のメンバーたち。
一方のハチといえば黙り込み涙目だ。
いかんいかん、ハチいじめは楽しいけど、これ以上やれば本格的に拗ねてしまいそうだ。

「まあまあ、ちょっとこっちに来てお煎餅でも食べなさいよ」
「………」
「そんな怒んないでよー。だいたい、出番ならあったじゃない。しかもメインで!二本も!生物委員会委員長代理の段と、豆腐地獄の段!」
「まあ、確かにあったけどよー、でもほら!もっと竹谷くんかっこいー!って言われそうな感じでさ!」
「まあ確かに私のリサーチによれば豆腐地獄は竹谷くんかわいー!お子さまランチで喜ぶ系の14歳!という意見多数だったな」

ああ…確かにうん、私もお子さまランチ好きそうだな…って思ったなあ。
雷蔵と勘ちゃんもうんうんと頷いている。
兵助だけは何がだめなんだ?と不思議そうだけど。

「違うんだよ!俺はいわゆるタケメンをめざしたい!」
「タケメン?はははそんな空想上の生物の話されてもねえ」
「ひでえ!」
「八左ヱ門…高望みはよくないよ?」
「雷蔵が妙に気を使った表情を!」
「俺が七松先輩みたいな性格になるぐらいありえないよ」
「勘右衛門はまだ可能性が無限大だからあるかもしれないだろ!」
「どうでもいい」
「せめてコメントしろ三郎!」
「だめなのか…あの豆腐…」
「最高でしたまた作って下さい!」

怒涛の突っ込みをするハチに思わず拍手。
立派に突っ込みキャラとしてキャラ立ちして…お母さん嬉しい!
なんていうボケは置いといて、そろそろハチの悩み相談に本格的に乗ってやろう。

「ハチ、あのね、出番の件は忍たまなら誰しも悩むものだと思うの」
「…おう」
「でもね、それでもめげずに頑張ってきたからハチのメイン回が今期で用意されたんだよ?」
「………」
「だからこれからも頑張ればきっと報われる時が来るよ!」
「名前…!」
「頑張ろう!ハチ!」
「おう!」

がしっと手と手を握り合って、微笑み合う。
しばらく見つめ合ったあと、私はちょっと頬を染めて顔をそむけ、さっと手を離す。

「止めてよ…そんな見つめられると照れるよ…」
「えっ、」
「ハチ…」
「っ、お、おう!」
「こうやって恋が始まったんだね!って腐女子の皆さん狂喜!って意見も多数あったらしいから気をつけてね!」

@豆腐地獄の段!
そう言ってにっこり笑えば、三郎を筆頭に雷蔵、勘ちゃんが爆笑。
兵助は我関せずという顔でいつの間にか取り出した冷や奴をぱくついている。
そして当のハチと言えば…

「そういう人気が欲しい訳じゃないんだああああああ!!!!!」

涙目で叫んで、雷蔵の部屋を飛び出していくのであった。
ご愁傷様でーす!


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