※現パロ。


八左ヱ門が記念すべき20回の恋をした。
私や雷蔵などの親しい友人はまたかとあきれ、どうせすぐに振られてしまうだろうと笑い、いったいその恋が何日もつかとかけてみたりしたのだけど、とうとう今回は本気なのだと八左ヱ門は言う。
その上、いつもなら1ヶ月あまりで散る八左ヱ門の恋はすでに3ヶ月目を迎えていた。
どうやら今回の本気は本物らしい。

好きになったら速攻が売りだった筈の八左ヱ門だが、そんな恋の仕方はなりをひそめ、話しかける事すらままならないウブな恋をしている。
好きな食べ物はなんだろうと考えたり、彼女の癖を発見したり、そんな事をひとりでにやにやとしては私たちに語ってくるのだ。
あーうざったい。
そうぼやけば雷蔵は苦笑いをこぼし、兵助はこくりと頷き、勘右衛門はだよねえと同意した。
八左ヱ門はそんな私たちを気にした様子もなく妄想の世界に浸っている。

「なあなあ、名前って呼ぶのと名前ちゃんって呼ぶのはどっちがいいと思う?」
「このうざったさは滝夜叉丸並みだと思うのだがどう思う、勘右衛門」
「そうだねえ、滝夜叉丸の方が質問形式じゃない分、まだましじゃないかなあ。雷蔵は?」
「えっ、僕!?う、うーん…ど、どっちかなあ…」
「うざったいというのは否定しないんだな、雷蔵。俺は八左ヱ門の方がうざったいと思うが」

などと言っている間にも八左ヱ門は気にした様子もなくやっぱり名前ちゃん…かな…などとぼんやりした面持ちで呟いている。
まったく、幸せそうな事だ、と笑ってしまうが、実際のところ八左ヱ門と名字名前は接点など何もなく、八左ヱ門が名前ちゃんなどと呼ぶ機会はほぼないというのが現状だ。

そもそも私たちの中で名字と話した事があるのは雷蔵ぐらいなもので、それも図書当番の時に本の貸し借りをするための事務的なもののみ。
いつもなら接点などなくともさっさと告白してさっさと振られてくるのだが…それをせず、まずは仲良くなりたいと言っている辺り、八左ヱ門は本気で名字と付き合いたいと思っているんだろう。

「雷蔵、名字が図書室に来る曜日は決まっているか?」
「確か、月曜日と金曜日は必ず来るよ」
「あれー?三郎ってばなんだかんだ言って協力するつもりなんだ?」
「放っておくとウザったいだろう」
「…まあ、本気らしいし協力してやらなければな」

真面目な顔で兵助が頷けば、雷蔵も勘右衛門も笑みを浮かべて同意する。
どうやら考えは一致したらしい。

「我々が協力するからには何としても八左ヱ門の恋を成就させなければ!」
「よーし!頑張ろーう!」
「どんな作戦で行こうか?」
「図書室で話をするきっかけになりそうな事は…」

惚けたままの八左ヱ門を尻目に、私たちは名字名前攻略作戦会議を行い、八左ヱ門が自然に接触する方法を考えだした。
そして、作戦決行当日。
雷蔵が図書当番の月曜日、その日も名字は図書室にやってきた。
そして本の返却をしてから新たな本の物色をし、図書室の奥の席に座る。
雷蔵の話ではこれから二時間あまり本を読んだあと、本を借りて帰るのだそうだ。

「いいか、八左ヱ門。二時間後が勝負だぞ」
「お、おう…!」

緊張した面持ちの八左ヱ門に声をかけ、雷蔵に目で合図を送る。
頷いた雷蔵も少し緊張した表情だ。
ちなみに勘右衛門と兵助はお腹が空いたと言ってコンビニに行ってしまった。
友だちがいのない奴らめ!

「…ヤバい、緊張で腹下しそう…」
「虫を食べても平気な奴が何を言う」
「精神的なのとは違うだろ!」
「虫の方が精神的に辛いだろうが!」

こそこそとそんなくだらないやり取りをしつつ名字の様子を伺っていたが、どうも名字の様子がおかしい。
読んでいた本をぱたりと閉じ、荷物を片付け始めている。
何だ?帰宅は二時間後じゃないのか?

「お、おい!どうする!?」
「どうするもこうするも、時間が早まっただけだ!作戦の変更はない!」
「ま、まじかよ…」

ごくり、八左ヱ門が唾を飲み込んでいる間に名字は立ち上がり雷蔵の所まで行く。
それから貸し出しを申し出て、貸し出しカードを受け取った。
今だ!行け!
固まる八左ヱ門の背中を押して八左ヱ門をカウンターへ向かわせると、そこでは作戦通り上手くインクが出ない備品のボールペンに苦労する名字の姿が。

「あ、あの、これ…よかったら使ってくれ!」
「え?あ、貸してくれるの?ありがとう!」
「い、いや、別に」

顔を赤くしながらボールペンを渡し、でれっと顔を緩ませる八左ヱ門。
まったく、あんな顔では名字を好きな事がバレバレなんじゃないか?
やきもきしながら八左ヱ門を見守っていると、貸し出しカードを書き終えた名字が八左ヱ門にボールペンを返し、また微笑む。

「ありがとね、竹谷くん」
「えっ、俺の名前知ってんの?」
「うん、中等部の生物委員に伊賀崎孫兵っているでしょ?私のいとこなんだけど、竹谷くんの話よくしてるから」
「お、俺の話?」
「尊敬してるって言ってたよ」
「へ、へえ…そうなんだ」
「あ、ごめんね、私もう行かないと。ボールペンありがとね!」
「うん、じゃあ、また!」

図書室に似つかわしくない大きな声でぶんぶん手を振って、八左ヱ門はまたでれっと顔を緩ませる。

「俺の名前…知ってた…!」
「しかもかなり好印象のようだな」
「良かったね、八左ヱ門」
「うん、うん…!」

嬉しそうに何度も頷く八左ヱ門に、やれやれと苦笑い。
まあだがしかし、この感じなら名字と仲良くなれる日もそう遠くないに違いないだろう。
そうなるまで仕方ないから協力してやろうじゃないか。
雷蔵と二人、目配せでそう頷きあって今日のところは作戦成功のお祝いをしてやろうと思考を巡らせた。


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