私とはっちゃんは幼なじみで、小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。
泣き虫だった私ははっちゃんのそばから離れなくて、何かある事にはっちゃんに泣きついては助けてもらっていたのだ。
はっちゃんは仕方ないなあって笑っていつだって頭を撫でて慰めてくれた。
お前の面倒は俺が最後まで見てやる、なんて言って。

だというのに、そんな私とはっちゃんの関係は忍術学園に入ってから少しずつ変わってしまった。
忍たまになったはっちゃんとくのたまになった私では生活が違いすぎたのだ。
授業の時間だって合わないし、宿題は忙しいし、はっちゃんは委員会の仕事もあるし。
それに、村にいた頃には同じ年頃の子どもは私とはっちゃんしかいなかったけれど、ここでは同じ年頃の友だちがたくさん出来た。

そんな風に年月を重ねていくうち、私とはっちゃんは昔のように話をする事はなくなっていって、今では村に帰った時でさえ顔を合わせる事はほとんどない。
そもそも生物委員会で飼育している虫や獣の世話で忙しく、休みになっても村に帰って来ない事が多いのだ。
少しだけ寂しいと思うけれど、しょうがない。
幼なじみなんてきっとそういうものなのだろう。

長期休みを利用して帰って来た村でぼんやりそんな事を考えながら洗濯物をばしゃばしゃ洗う。
働かざる者食うべからず、そう言われてお母さんに渡された山積みの洗濯物はなかなか減らない。
昔はこんな風に洗濯物を洗ってるとはっちゃんがやってきて手伝ってくれたなあと思い出す。
洗い方が雑なはっちゃんはよく手伝うならきっちりやりなさい!なんて私のお母さんに怒られてたっけ。

「…懐かしい」

そう思うとまたなんとも言えない寂しさを感じるけど、それもきっと忍術学園を卒業してしまえばなくなるんだと思う。
私はお城に就職したいと思っているから就職すればはっちゃんと会う機会はまったくと言っていいほどなくなる。
そうすれば幼い頃の思い出なんてきっと忙しさであっという間に忘れてしまうんだろう。

今のむずがゆい感覚を考えれば早くそうなって欲しいと思う。
忍術学園ではっちゃんを見かける度に悲しくなるとか、村に帰ってもはっちゃんがいない事に苦しくなるとか、そういうのはもう嫌なのだ。
近くにいるのが当たり前じゃない事がこんなに寂しいだなんて思いもしなかった。

はあ、とため息をついて最後の一枚を洗い終える。
村に帰る度こんなセンチメンタルに浸るなんてあまりにもばからしいと思いながら洗い済みの洗濯物の桶にそれを放り込んだら、ひょいと伸びてきた腕にその桶が持ち上げられた。

「よっ!大丈夫か?」
「あ、はっちゃん…?どうしたの?」
「たまには帰って来いって母ちゃんに言われたからさ。それよりお前、流石に積み過ぎだろ。分けなきゃ名前じゃ運べねえって」

からりと笑いながら桶を持って物干しの方へ歩き出すはっちゃんへ慌ててついていく。
昔は二人で分け合って運んだ洗濯物を軽々運ぶはっちゃんにまたむずがゆい寂しさを感じた。
私が知らないはっちゃんだなあ、と思う。
私の知ってるはっちゃんはこんなに逞しくない。
もちろん、頼りがいがあるところは変わってないけれど。

「ここでいいか?」
「うん、ありがとう」
「気にすんな。それより、この洗濯物終わったら時間あるか?」
「大丈夫だけど…どうかしたの?」
「土産に団子買って来たから食べようぜ!」

にっと笑みを浮かべるはっちゃんに頷けば、はっちゃんはよしっと気合いを入れて洗濯物を干し始める。
ああ、こんな干し方じゃまたお母さんに怒られるんじゃないかなあ。
そう思うとつい笑みがもれてくすくす笑ってしまう。
はっちゃんは不思議そうな顔をしていたけど、私は黙っておくことにした。
あとで一緒にお母さんに怒られよう。
きっと懐かしい気持ちになるに違いない。
はっちゃんもそうだといいな、そう思いながら洗濯物を次々に干していく。
ぴしりと干された洗濯物と、シワが残る洗濯物。
並んだその洗濯物を満足げに見たはっちゃんはすぐに行こう、と私の手をひいて歩き出した。

「どこに行くの?」
「いつものとこでいいだろ」
「…村長さんの家の裏?」
「おう」
「あそこ、畑になっちゃったよ」
「えっ!?知らなかった…」
「川にでも行く?」
「ん、そうだな」

そっかー、と呟きながら川へ進路変更して歩き出すはっちゃんについて行きながら思う。
いつも、と呼べるほど遊びに行っていたのはもう何年も前で、はっちゃんはその場所が三年前に畑になっちゃった事すら知らないんだなあ。
きっとはっちゃんにとってはその程度の些細な事なんだろう。
それってすごく、寂しい、な。

「ん?名前、どうかしたのか?」
「んーん、何でもない」
「嘘つけ、顔が悲しい!って言ってるぞ」
「えー何それ」
「お前は分かりやすいの。どうしたんだよ、言ってみろ」

そう言ってはっちゃんに頭を撫でられると昔に戻ったみたいで何とも言えない気持ちになる。
もう昔と同じようににはいられないのに。

「何でもないよ」
「何でもあるだろ」
「何でもないってば」
「何でもある!」
「ない!」
「ある!」
「ない!」
「ある!」
「…しつこいよ、はっちゃん」
「言うまで聞く」

むうっと顔をしかめたはっちゃんがあんまりにも昔のまんまで笑みがもれる。
そのままくすくす笑い続ければ、はっちゃんは困った表情でなんだよ、と拗ねた顔をした。
なんだかかわいい。

「はっちゃん、あのね」
「うん」
「私、はっちゃんがいなくて寂しいなあって考えてて」
「俺?」
「うん。はっちゃんと、卒業したらもう会う事はないのかなとか、よく一緒に遊んでた頃が懐かしいなとか、そんな事を考えたら寂しくて」
「…なんだよそれ」

むっとした表情のままはっちゃんが呟いて、それから私をぐっと引き寄せる。
その力がすごく強くて、私はあっさりはっちゃんの腕の中に収まってしまった。

「何で卒業したら会わないんだよ」
「え?だって、私どこかのお城に就職したくて…」
「なんだよそれ…」
「はっちゃん?」
「…お前を!」
「?」
「お前を、最後まで面倒見るって言っただろ!」
「え、」

ぎゅうっと強く抱き締められて、混乱する。
だって、あんなのは小さい頃の約束で、きっとはっちゃんはもうそんな事忘れてる筈で。
そんな事をぐるぐる考えて頭が壊れてしまいそうな私は情けない声を出した。

「は、はっちゃん、私…」
「お前に最後まで一緒にいて欲しい」

壊れそうな頭でも、私はすぐに理解した。
そんな風にはっちゃんに言われてしまえば私の進路なんてもうひとつしかないのだと。

「…はっちゃん、大好き!」

そう言って力いっぱい抱きつけば、はっちゃんは嬉しそうに笑うのだった。


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