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正臣くんは、あの子が好きだ
わたしは知っていたのだ、中学から一緒のクラスでまさかのまさか高校まで一緒だなんて思わなかったけれど、四年近くの間遠くから近くから隣から彼を見てきて嫌という程彼を知ってきた、わたしが彼を知ろうと思ったのは中学三年生、その時にはすでに時遅し、もう正臣くんはあの子の物だった


「行く、んだよね」


弱々しい声が響く、もう空は暗くて正臣くんは来良の制服を着ていなかった、彼はわたしを信頼してか池袋を出ていくとメールしてくれた、別れを惜しむ様な時間をわたしを欲してもう少しで駅のホームへとつく電車の線路を前に立った、彼の隣には顔色の良い沙樹さんが小さなキャリーバックを抱えていて、正臣くんはわたしの言葉にゆっくりと頷く


「帝人くんや、杏里ちゃんには何にも言わなくていいの?」
「あいつらは、・・・何も知らねえからさ、知らなくていい」


弱々しくたどたどしく言う言葉にはただそれだけじゃなくて深い物を物語っていた、多分正臣くんは会いたいんだろうか、でも会ってしまったら最後だから会わないでいこうと思ってるんだろう、帝人くんも杏里ちゃんも優しいからきっと引き止めるに決まっているのだろうから

「何かなまえには散々迷惑かけたよな」
「別に迷惑なんかじゃないよ、楽しかった」
「ならいいんだけどさ、」
「あ、沙樹さん泣かせちゃ駄目だよ!泣かせら絶交だから!」


そうわたしが言ったら沙樹さんは笑って正臣くんは少しおろおろと動揺をした、絶交だなんてもうこれから会わないかもしれないから意味もない言葉なのにこうやって動揺してくれる辺りわたしは彼に好かれている、のだろう、少しだけ胸を撫で下ろした


「俺、絶対お前に会いにくるから、待ってろな」
「沙樹さん浮気宣言されてますよ」
「あはは!」
「なっ、だから浮気でも冗談でもねえから」


なにそれ、まるで遠恋する彼女への言葉みたいなくさい言葉、正臣くん普段から女の子にちょっかいばかりだしてたからそんな言葉言えるようになっちゃったんだよ、冗談でも言っちゃ駄目だからね女の子は期待しちゃうんだから、ばーか
心の中でそう潮笑ったはずなのに、じわじわと目尻に涙がたまっていくじわじわ、ああ食べられるみたいに目の前が滲んでいく
怖かった、情けなかった、貪欲になった、わたしは正臣くんに飛びついた、首に手を回して絡み付いて彼の背中に顔をのせる、彼女がいる前でなんて事しているんだろうか
でも彼はわたしを受け止める、ぎゅっと強くも弱くもなくわたしを抱きしめ返した、それはハグに近く決して恋愛に近いものではない
ぼろぼろ、涙がとめどなく零れ堕ちる、止まる事なく水溜まりが出来てしまうくらいに
わたしは知っていた、正臣くんは沙樹さんがずっとずっと好きだった事、わたしがそんな彼を愛した事、彼はわたしを友達以上としてはみないこと、沙樹さん以上にはなれないことを、



「泣くなって」
「・・・むり、だよ」


彼がわたしの気持ちを知らないことを
それでもわたしは正臣くんが好きで、好きでたまらないの、もしかしたら沙樹さんが好きな正臣くんが好きなのかも知れないけど、それでも貪欲に彼を知りにわたしは抱き着いた
ぎゅっとまた抱き返してくれるそれと体温がひどく安心させる、幸せな気持ちになった、例えそれが友達に向ける感情だろうがわたしにはいっぱいいっぱいに満足を装える、ただ抱き返してくれるだけなのに愛しているとは言ってくれないのに、なのにそれだけで、
ああなんて安い恋愛なのだろう、か




(0325)
正臣が好きすぎる
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テーマ「人外ファンタジー」
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