人魚姫 | ナノ

人魚姫は短剣を使う事はなかった、愛する王子を殺す事が出来ない人魚姫は死を選び海に身を投げ出したのだ、その頃王子は結婚という名の祝福を受けていた






「綺麗や・・・!」


きらきらの瞳はウエディングドレスを纏うわたしだけを映し幸せそうに微笑んだ、罪悪感に塗れていくが今更後戻りは出来ない、わたしは蔵さんと結婚をする
謙也さんや財前さんもあれから何もいってこない、告げ口をした様子もなければわたしを庇うような事も、だけれど謙也さんは何かと話かけてくれたり財前さんはあの時と同じく頭を優しく叩いてくれる、二人ともひどく優しくしてくれる、わたしはそれに甘えていた


「なんや緊張するなあ」
「蔵さんでも緊張するんですね」
「俺やって人やからな!それになまえとちゃんと結ばれると思うと、」
「・・・」
「あーあかん、何て言うたらいいかわからんわ」


顔をすこし赤くして正装をぎこちなくなおす蔵さんは幸せに満ちていた、わたしはどうすればいいのかわからなくなる、このまま結婚をしていいのか迷ってしまう、きっと蔵さんはわたしが嵐の日に救ったからわたしを姫にしようと選んだんだろう、勘違いで塗られたわたしに本当は愛していないわたしと結ばれて幸せになれるのだろうか
麻痺していた表の顔から感情が生きるような、そんな気分がビリビリと走る、もう感情に任せるしかないのだ、といいきかせた



「蔵、さん」
「んーなんや?」


へらりと返事する彼に初めて彼と会った時わたしがされたように蔵さんの手首をとってそのまま結婚式控室から出た、蔵さんはわたしの行動に意味がわからない顔をする
その顔をみたくなくてだから無理矢理走り出した、パンプスが走りづらくって仕方がないけどそんなの気にしてられなかった、走れば走る程何故か沸き上がった嫌な予感、王宮を飛び出してあの海沿いへ砂を踏み鳴らし走った


「なまえ何処までいくん、結婚式間に合わ・・・」
「蔵さん」
「ん」
「前もいいましたけど貴方を助けたのはわたしじゃないんです」
「またその冗談かいな」
「わたしじゃ、ない!」


叫んだ、走りながら叫んだから息がずいぶんと肺に流れ込まなくなって苦しい、足は慣れない靴を掃いてだんだん痛くなって悲鳴をあげている、ああもう嫌になる、蔵さんじゃなくてこんなにも彼を想うわたしが



「信じてくださいっ、あなたを助けたのは人魚姫さんなんです・・・っ」
「人魚姫・・・?」


海岸についた、わたしの嫌な予感は最高潮に達しざわざわと心臓が無理に握られるようなそんな風に気持ちが悪くなる、目を細めてまわりをみたらあの金色がみえてそこまで走るそうしたらあの青色がパチリとわたしの瞳とあった、間に合う!、そう思ったのにその人魚姫さんは海へと赤い足をのせて身投げをした、頭の中で警報音がうるさく鳴り響いた

「人魚姫さんっ!」

後ろでピクリと反応するのがわかるがそれよりも前にわたしは身をのりだして海岸から人魚姫さんが浮かぶ海へ飛ぼうとしていた、なのに後ろから大きな腕がわたしを支配する、あたたかい香がわたしを包みぼたり涙が落ちた


「離してください!蔵、さん!」
「駄目や!」
「離し、て・・・人魚姫さん、なんでっ」


それは美しい水に滴る彼女はわたしとおんなじでぽろぽろ涙が真珠のように綺麗に泣いていた、両手に短剣を持ち、それでも満足そうに、唇を動かした、音は勿論きこえない、でも直ぐにわかった「 ありがとう 」ゆっくりとそう告げて、彼女は持っていた短剣を自身の胸に刺した、手を伸ばしたのに当たり前にそれは届かなくて、血は不思議とでていなくぶわっと広がった泡に飲み込まれるように彼女は綺麗に消えた、ガラガラわたしの何かが崩れ落ちる
力が抜けて蔵さんの腕もぬけその場に座り込んだ、ぼたぼたコンクリートに涙が零れおちるだけだった



ああなんて哀れな人魚姫、泡に姿を変えた人魚姫はチリ一つとてなくなり空気の精となって天に召されたのであった



おとぎ話に終わりの音が響く

わたしはありがとうなんて言われるようなこと、していない



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