精一が倒れたって、病気だって、そう知った時のわたしは重傷だったと思う、なんやかんやで半分いじめを受けてる様な気分の人生を生きてきた精一の幼なじみのわたしだけれどそれでも幼なじみなんて類は辞めたければ辞めれるもので今までどんなに真っ黒な腹を持つ精一に悪づかれてもファンクラブとかの女子に幸村くんの幼なじみとか気取ってるんじゃないわよ!とか言われても辞めないのはそれはそれでわたしが嫌いじゃない証拠でもある、だってなんだかんだで精一は精一なりに優しいしきっとそこら辺の女子には見せない顔をわたしに晒すのはわたしを認めてくれてる、ちゃんとみていてくれてるんだって、いつもは文句を言うけど本当は分かってたんだよわたし馬鹿って言われる程馬鹿じゃない
だから、確かに驚いて動揺もしたけれど泣きはしなかった、非情に思われるかもしれないけどそれでもわたしは泣きたくなくて、だって精一は泣いていなかった、まだ大丈夫なんだって、わたしが泣く理由なんてひとつも無いって思った
あれからいくつも月が変わったある日またもわたしはあの時みたいに驚いて動揺していた、病室にも関わらず大声をあげてしまう程に


「精一ー・・・え」


病室は空っぽだった、数日前にきた時は確かに真っ白なベットに横たわる精一がいたのに今みたら勿論ベットも空っぽでそれどころか添えられていた花や荷物や、精一が大事に育てていたはずの窓辺に置かれていた花たちもみんな無い、考えたらなんだかすごく嫌な予感がして急いで探そうと開けっ放しのドアを気にせず後ろに向きかえった、ぽす、そうしたらなぜだかわたしはそこから進めなくおでこにはほんのりとしたわたしのじゃない体温を感じた、びっくりして目の前を確認すれば立海のエンブレム、うそと頭の中で呟いてからおそるおそる上を見上げた、にっこり、いつになく顔色が良く笑った精一がいた、それにまたわたしは驚いて瞬きを異常にする


「せっ、精一」
「やあ、丁度いいタイミングで来たね」
「いや、じゃなくて、なんで制服きてるの・・・!?」
「え?なんだいそれまるで俺が制服着ちゃ駄目みたいな言い方」
「それに、この病室」


声が震える、多分もう答えはわたしは馬鹿じゃないから精一の幼なじみを伊達にやってる訳じゃないからその顔をみるだけでわかってるのになぜだか精一の声を便りにした、スカートをぎゅっと握るのは怖いとかじゃなくてただ単に動揺を沈めるために


「それはもう此処に俺の用は無いからだ」


なんでわざわざ遠回しに言うのか、とか、きっと結構前から精一が退院して完治をすることがわかっていたはずなのにわたしに知らせてくれなかったの、とか言いたい事は山ほどあるのに言えなかった、口をぎゅっと紡いで左目の目尻を手の甲で押さえた、そうしたらそれが合図とばかりにぎゅうと精一がふんわり苦しくないぐらいに空気を開けて抱きしめた


「せっ・・・いち、精一」
「はいはい」
「よかっ・・・た」
「泣くなよ」
「な、っ・・・泣いてない」
「じゃあその目からこぼれ落ちてるのはなに?」
「これは・・・心の汗だよ!」
「へえ俺に抱きしめられたら汗かくの、気持ち悪いし汚いなあなまえ」
「・・・もうそれでもいいや」


いつもなら反論するのにやっぱり今日ばかりは全部が全部狂っていた、精一の背中に手を回して間に挟んだ空気をなくして距離を無くす、今だけは溜まったぶんのこの目からでるものを文句を言わず見届けて



しょっぱい水の名前はなあに


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