そうそうわたしの学校のわたしのクラスのわたしの隣の席の、あのこが交通事故にあったらしいのです、なんでもニュースや先生のはなしを聞くと重症で右目がなくなりそうとかいっていた気がする、でもあたしは其れに関してあまり興味もわかなかった、隣の席と言えど会話したのはほんの指で数えられる程度で其れにあのこは全然声と言うものを使わなかった、まともにあの真っ赤な唇が動くのをみたことがなかったのだ
其でも隣の席と言う事実は変わらず担任の先生にプリントがぎっしり入った大きな封筒を渡されてしまう、態々入院してるとこまで何でわたしが、なんて思ったけどその子に仲がいいこなんていなかったみたいだからしょうがないと息をついてまだ真新しいローファーを空気中にふわふわ浮かべながら歩を進めた



「こんにちはー?」



ガラガラ大きな病院の、大きな病室のドアを控え目に開けたら父親らしきスーツ姿の男のひとがツカツカわたしと反対に病室から出ていった、偉そうな足取りはあのこの面影はありやしなく少しびくつきながら中へ入れば真っ白なシーツに埋もれる凪ちゃんがいた、ひどく肌は青くまるで髪の毛の色と同化してるみたい


「・・・」
「いきなりごめんね先生にプリント、頼まれて」
「あ」


ぴらぴら重い封筒を揺らせば彼女は一回大きく目を開いたあとに睫を下にむけてシーツをぎゅうと細い骨さえも溶けてしまったみたいな指で掴んで、申し訳なさそうにわたしを視界から外した


「態々・・・ごめん、なさい・・・」


か細い声はわたしの耳を透き通り病室さえも抜けていった、わたしよりも綺麗なその声はわたしが聴いてきたどんな音よりも弱く美しく小さく反響した、教室で確にきいたはずの無表情の言葉とは違う感情がわたしには見えた


「謝らなくていいんだよ?」
「え、で、も」
「こう言うときは笑ってお礼を言われた方が嬉しいものなの!」
「・・・」


なんだか、彼女の感情がもっとみたくって偉そうな事をいってみせた、後から後悔するのはわたしかもしれないけれど好奇心は抑えきれる訳なくわくわくしながら彼女を見れば少しだけ困った顔をしてわたしを見た、薄く光る紫のおおきな瞳は遠慮がちに瞬きをしてから小さな唇はゆっくり揺れる、その瞬間確にまやかしではなくその子は、


「ありが・・・と」


真っ白いシーツはまるで何も映さないおとぎばなしの水面、色をともさない肌は色素のない紙、きらきら太陽に反射する髪、か細く何にも変えられない声、ああ此はまるで、

だけど、其からその子の、美しい声をわたしは聴くことは二度とはなかった、凪ちゃんは人魚の末路へと亡くなったのだから


泡になったマーメイド



さよならおとぎばなし

(0411)
人魚みたいな凪

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