お ち た

ドボンッ水が弾く音がしてわたしは同時にぎゅうと目をつぶり腕をぶんぶん振って酸素があるところまで顔をあげた、そこでやっとわたしは考える余地がでて濡れた服が気持ち悪いとか髪がはりついていてうざったいとかそんな事より前にわたしは確かに目の前にいたあの後輩に殺意をいだいた


「なに、するの!落ちたでしょうがあああ」
「いやーセンパイが馬鹿面下げていたので目覚ましがわりにー、ほら顔洗う感覚ですよー」
「だからって海に落とす!?寝不足でうとうとしてた人を海に落とすんですか!」
「あ、目覚めてますねー」


任務帰りの海沿い、確かに目は覚めたかもしれないけれど常識を持ち合わすわたしにとってはこんなリスクを失う目覚ましはいらない、というか普通するかな・・・でも職場の暗殺部隊に常識も何も無いからもう日常茶番で気にする暇もなかったり頭が痛かったり、常識人は凄く辛い立場だった
そんなぐたぐだ思考回路を回していたら人間が足をつくべき道路から身を乗り出してフランがべちょべちょになったわたしを見下していた


「うわー服が張り付いて気持ち悪い・・・」
「ドンマイですー」
「・・・生意気な後輩にはちょっとお仕置きが必要みたいだね」
「はあー?どうしたんですかセンパ、」


ボムッいいごろつきの感覚を得たわたしはにやり笑った、そうしてから三秒もたたないうちにドボン水が弾く音が勢いよくなってぷかり、カエル帽子が海をみつめた、いくら常識をもったわたしでもそんじゃそこらにいる奴と同じにされたくない、仮にもヴァリアー幹部なのです、スクアーロから拝借した鮫ちゃんボックスもたまには役立つものだ、わたしは主人じゃないからあんまり言うことをきいてくれないが突進だけはきいてくれるこのボックスも


「っ、なに、するんですかー!」
「お仕置き?躾かな」
「最悪ですー堕王子のナイフより最悪ですー」
「それは喜んでいいのか悲しむべきなのか」


眉間に皺を寄せてフランはカエルを脱いで濡れた髪を耳にかける、わたしはその姿をみて声をあげて笑う、フランはいつも生意気でこんなことは日常茶番であるがこんなにもしてやったという仕返しはあったことはない、これを気にぐねぐねに曲がった性格がなおればいいのに、でもフランだし治る訳ないか、自分の思考回路さえも笑いに麻痺してしまったみたい 「・・・センパイー?」
「なにー?」
「どうしたんですか、いきなり笑い出して、イカれましたかついにー?」
「あははっ」
「これは、まだ寝ぼけてるんですかー」


はあ、さっきのわたしみたいに溜息をはいたフランはまだ口元が緩いわたしの頭否、髪の毛をわしづかみ思い切り水の中におしやった、ぶくぶくそんな音さえも聴こえないのはわたしが酸素を取り入れていなかったからで、だす二酸化炭素はゼロに等しい、酸素を求めようにしてもフランの手の平がそれを阻む、本気で息が苦しかった、死ぬ、後輩の目覚ましで死ぬ!すごく笑えない!
そう思った途端酸素ボンベより柔らかいストローより生々しい温度をもつものがわたしの唇に押し付けられた、思わず口をほんの少し開けてしまうと何故か水は入ってこなくかわりに重たい空気が流れ込んできた
確かに空気、でも酸素ではなく確かに苦しいはずの肺だったのに金縛りのように痛みさえ感じなかった
おかしい、こわくて片目を水の中に晒せば一面エメラルドに包まれた


「っひ、ぷ、はっ、っ」
「・・・ふうー」


二人して海に波をつくり顔だけ回避する、咳紛いに酸素を求めるわたしを尻目にフランはまた息をつく、よくわからない反射でわたしはフランをみて、ぱちり、視線が交わる


「目、覚ましたー?」


にこり、いつもよりちゃんとした笑顔をみせたフランに夕焼けにかがやくエメラルドは反則だと思う、リップグロスがすっかりとれてかわりに塩水がついた唇を手で拭った



息を忘れた麻酔薬





(0828)
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