「ガトーショコラが食べたいです」
「・・・そうですか、それは良かったですね」
「何してるんですか、早く買ってきなさい、あ、勿論ホールですよカード渡しときますからこれで払ってくださいね」
「な、っちょ!」
「さて、僕は書類をやりますか」
思い切り執務室からわたしは背中を押されて追い出された、ため息をはく前にまだ閉まり切れていないドアの隙間から見えたのはわたしの上司の届けた書類を片手にニヒルにムダに色っぽい口角を上げた六道さんの姿、完全にわたしを部下とかじゃなくてパシリだとしか思っていないひとであるがそれに反抗する術は無くてやっぱりいきなれたケーキ屋さんでガトーショコラをワンホールオーダーをした
「只今帰りました・・・てまた、いない、し」
ガラリと確かにさっきまでは六道さんがいたはずの執務室には誰も居なかった、こんな事は今が初めてと言う事ではなく結構、いや頻繁に有ることで別に驚く対象にはならないんだが空っぽの部屋を見たら何だか無償に気持ちが落ちてしまう
備え付けの冷蔵庫に箱のままケーキを入れたら冷蔵庫にもたれるように背中を預けて赤いカーペットの床に足を折り曲げて座った
ぼんやり見えた机の上にはいつも通り終わった書類が整えられていて暫く帰って来ないんだろうなあ、とやっぱり空っぽの部屋でわたしはうずくまった
冷蔵庫で死す
カレンダーをめくる頃、わたしがすっかり腐ってしまったガトーショコラをごみ箱へと投げ捨てた頃、もう夜深いと言うのに執務室に明かりが灯っているのを見かけ六道さんがいない今あそこの部屋を使うのは冷蔵庫の前に座って待つわたししかいない、消し忘れたかと思って寝巻のまま鍵を開ければオッドアイと瞳が衝突事故をおこす
「・・・やーっと帰ってきましたか、六道さん」
「ええ」
「いつまでわたしを待たせるのかと思いました」
「クフフ、それはすいませんね」
「おかえり、なさい」
「・・・ただいま、です」
わたしの挨拶に六道さんはぎこちなくまるで慣れてないように少しだけ目を細めて笑って返事をした、それがあまりにもわたしが今まで見てきた六道さんとは違って、ずっと行方不明ですこしだけ怒っていたわたしも思わず釣られて笑った
「さて君が買ってきたケーキでも食べますかね」
「何時の話をしているんですか、もう冷蔵庫の中で峠を越されましたよ」
「おや、本当ですか」
「・・・ということを予想してちゃんと新しいの、買ってあります」
冷蔵庫を指差しながらいえば予想外だったのか六道さんは目を見開いてからゆっくり顔を元に戻した、唇が開く
「僕はいい部下を持ちましたね」
「本当、そうですよね!」
「クフフ、調子にのるんじゃありませんよ」
「・・・すいません」
初めて褒められた、調子のるなと言えど柄にもなく六道さんはわたしの頭をふわふわ撫でる、居心地の良さのあとはあまいケーキがわたしたちを待っていた
冷蔵庫で生く
しょっちゅう行方不明な上司でも、わたしは冷蔵庫を掲げて待つのだろう
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