「・・・」

またいた、とばかりに其処を見た、沢田綱吉が死んでからと言うものそこには一人のまっくろの女が毎日のように蹲っている別に最初のうちはめだたないものだから全然気にもしなかったが毎日毎日、一ヶ月もたてば自然と気になるのが人間と心理と言うものだ
今日も棺桶の前に昨日と同じ色のスーツとワイシャツを着こなした彼女がただ何も音をたてずに赤いパンプスを湿った土に食い込ませるように体重をかけていた


「毎日毎日、そんなとこにしゃがんでいて楽しいかい?」
「・・・ひばり、さん」


弱々しいこえは姿を消すには丁度いい森全体に響きわたった、地面に向けていた真っ青の顔を僕へと向ける、なんだかきにくわない其に目をそらすように木に背をついた


「楽しくなんかないですよ」
「じゃあ何でいるのさ」
「なんとなく、です」
「へえ」
「雲雀さんこそ何でこんなとこにいるんですか?」
「なんとなく」


僕がそう言えば彼女は罰の悪そうな顔をした後にその場に立ち上がって次にはクスクスわらいはじめた、よく分からない思考を持っている等とぼんやり思えばスカートについた土をほろい一息ついた彼女が顔を上げ口角を下に向けた


「わたしが此処にいても何もならないなんて、分かってるんです 」
「なら、」
「でも、それ以上に恐くて」
「・・・」
「彼の中からわたしが、なくなるのが」


それとももう、なくなっちゃったかもしれませんね、苦い舌先で彼女はいやに笑う、痛々しいだけなら無理に笑わなければいいのにプラスチックの心臓なんて誰も欲しがってはいないから
馬鹿だ、と口を開く前に溜め息をはいた、しとしと、終に雨が降ってきた服が濡れるのを避けるためにも呆然立ち尽くす彼女の腕を引っ張る、だけど、何も動きやしなかった


「ねえ」
「・・・何ですか」
「そんなに沢田に何かを残したいなら此れでも植えれば」
「・・・は、い?」
「此が有れば君の変わりになるでしょ、忘れられない」
「はあ・・・?」
「だから、君を今は僕に頂戴」


早くしないと濡れるでしょ、そう言ってわたしたばかりの花の種をひったくりぽつりと地面に落とした、そこに丁度雨があたりゆるい地面へ埋もれる
そして彼女の腕を再度引っ張る、今度は世界が動き


彼女は泣いていた




我が儘な僕らは


誰かに何かを残し誰かを物としたくなる、欲張りしかいないこの世界こそ我が儘のカタマリにしかみえなかった




死人と君と雲雀
(0308)
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