「ごめん、ってば」
雲雀さんが謝るなんて前代未聞な事かもしれないが私は全く動じなかった、ぐずぐす鼻水が行き来して目元は腫れぼったい、視界がいつもの半分真っ暗景色になっている
普通の、遠距離恋愛をしていた恋人ならば、今みたいな朝起きたら彼氏が仕事終りに会いにきてくれたなんて夢みたいで首ねっこに抱きついて久しぶりなんて言うのが其がフツウだけど私は条件が違うのだ、幾等わたしだって怒るときは怒るしそれは相手が大好きな雲雀さんだとしても
「いきなりいなくなって・・・っ連絡しても繋がらなくて、何してたんで、すか・・・っ」
「急な仕事が入ってね、ずっと地下にいたから携帯繋がらなかったんだよ」
「だから、って行く前に一言ぐらい・・・っ」
この三ヶ月間わたしが何れだけ心配したのか分かってないのか、なんて言えるほど私は強い性格じゃないけど其れでも分かってほしくってぐずってしまう、口内は噛み締めすぎて歯茎から少しだけ血の味がした
「わたしはっ雲雀さんの仕事の迷惑にはなりたくないし出来る限り我慢もしたいって、思ってます、でも、でも、私には貴方が必要で、っ」
死んでしまったかと思った、口には出してはいけない不吉な言葉さえ私を信じようとはしなかった、目の前にある安心にちかい雲雀さんもまた直ぐにいなくならないとは限らないと分かってまた何故か悔しくなる、自分には其を引き留める力は無いんだと思いしらされるみたいだ
「なんで・・・っわたし、ばっかり」
雲雀さんをどんなに愛したとしてもわたしの物にならないなんてわかっていた、人間に人権があるように束縛する権利はなくって、でもわたしばっかり頑張って空回りで彼は顔色一つ変えない
だんだん嫌気がさした、今までずっとひとりで寂しかったのに今こそ一人になりたいと思った、そのとき、だ、冷たい指先が毛布から覗いたわたしの頬に伝う
「ごめん、僕が悪かったよ」
こつん、雲雀さんのおでことわたしのおでこがくっついて私はびっくりして下にうつ向いていた顔を視点をずらした
ちゃんと見た雲雀さんの顔は、ひどく真っ青で走ってきたのか少し汗ばんで見える、少し余裕のない表情、口先はかさかさに乾いていた
其を目に入れた瞬間にわたしは目をまんまるく見開き反論しようとした口は舌が回らずぽかんと空けっぱなしになってしまった、だって、雲雀さんがこんなにも人間らしく、余裕のない姿なんて、わたしってば馬鹿だ
「・・・ひばりさん」
「何・・・?まだ言い足りない?」
「わたしのこと好きですか」
「・・・好きだよ、好き」
雲雀さんはわたしの耳元に何度も余韻を残していく、心の黒いもやもやはやっと阻むのをやめてくれたみたいだ
ちゅっとかさかさの唇に口をくっつければ雲雀さんはゆっくり口許を緩くした、それにともない私達は口を開く
寂しがりやの兎さん、ごめんね
ちょっとありきたりな嫉妬もまた愛しくなっちゃう
(0617)
寂しくて死んでしまう兎と雲雀
放置してすいませんでした記念