拍手SSまとめ | ナノ
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みんなで藤の花見をしないか?だなんて、炭治郎もまた唐突に、変わったことを言い出すなあ。
花見と言えばぱっと思い浮かぶのは桜だし、わざわざ藤の花を見に行くなんてことは今まで一度もしたことがない。まあもう桜はほとんど散ってしまったのと、しのぶさんが蝶屋敷のすぐそばで研究用に管理している藤の花園を使ってもいいと言ってくれたので、じゃあ藤の花を見ようか!ということなんだろうけれども。
本当に稀な、任務のない日。たまにはみんなでのんびりしようという提案には大賛成である。というわけで私は、私に割り振られた『甘味を調達してくる』という役を全うして、お饅頭やお団子でいっぱいの風呂敷を両手に持ち藤の花園までやってきた。
言い出しっぺの炭治郎はお弁当係、伊之助はその運搬補助、そして善逸はというと──…。

「…なんでそんな誇らしげな顔でぐうたらしてんの?」
「見てわかんねえのかよ?さいっこうの場所をしっかり取っておいた俺の功績がさあ?」

一番きれいに見える場所を探す係とかいう、それ本当に必要?と聞きたくなる役割を颯爽とかっさらっていったこのズボラ野郎は、敷布の上に横たわり、心底ムカつくどや顔を晒しながら私を出迎えてみせた。最高の場所ってさ…見渡す限り一面に咲き誇ってるし、どこで見てもそんなに変わんなさそうなんだけど。
よくよく見れば善逸の頭の下には竹籠が枕代わりに置かれていて、「それお弁当?炭治郎たちは?」と聞くと、「出てくるときにこれだけ完成してたから俺が持ってきたの。まだまだ張り切って作りまくってたよ」とのことだった。どれだけの量を用意するつもりなの炭治郎…?
甘味も結構多めに買って来たのに…とすこしだけ心配になったけど、多分伊之助あたりが全部平らげてくれるだろう。そう信じて、善逸が寝そべっている横へ私も腰を下ろした。
見上げれば、空さえ見えなくなりそうなほど咲き乱れた藤の花が途端に視界を埋め尽くす。時折はらはらと散り落ちてくる花弁のうちの一枚をてのひらでそっと受け止めて、その可憐さに思わず頬が綻んだ。鬼殺隊にいると、藤の花といえば鬼の苦手なもの、という考えに直結しがちで、もとはこんなに美しい花だってこと、すっかり忘れてしまっていた。

「藤の花見なんて炭治郎は不思議なこと言うな〜って思ったけど、こうやってゆっくり見るのも案外悪くないね」
「そうねえ。こうして下から見たらさ、『藤の花と戯れる少女』ってかんじで、お前も含めてすっごく綺麗だよ〜。見せてやりてえくらい」

普段はガサツで乱暴すぎて、『少女』にはあんまり見えないんだけどねえ?と失礼な言葉で結んでニシシと笑う善逸を、いつも通りの私ならきっとすぐにぐーで殴り飛ばしていた。でも、普段言われなれていない『綺麗』という表現をされてしまった私は、その驚きで藤の花を見上げたままぴしりと動きが止まって、何も返せなくなってしまっていた。というか、顔が、めちゃくちゃ熱い。

「な、なにしおらしく照れたりなんかしちゃってんだよ…。やめなさいよ、俺まで恥ずかしくなってくるでしょうが」

口に出さなくたって、この男には全部筒抜けだ。いつもより速い鼓動の音をどうすることもできずにいれば、それに気付いた善逸までほんのり顔を赤くして、恨めし気な目で眉間にしわを寄せた。お互い微妙な空気を払拭できないまま、刻一刻と時は過ぎていく。
あああ、なんてことだ。こんなどうしようもないスケベ男の一言で、ここまで嬉しくなってしまえるなんて。そんな自覚今まで全くなかったのに、まさか私は、善逸のことが…?

気付きかけた事実に心の中で強く首を横に振って、行き場のない視線をただただ藤の花へ送る。その時頭の中で必死に考えていたことは、善逸も私も、きっと全く同じだっただろう。

((お願い炭治郎、早く来てこの空気何とかして…!!))



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