拍手SSまとめ | ナノ
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高校の時好きだった子と社会人になってからばったり再会して「せせせっかくだし?宅飲みなんてどうかな〜…?」なんてダメ元で誘ってみたら、「いいね〜!やろうやろう!」と快諾されちゃってさ、俺はここ最近で一番舞い上がっていたと思う。
だからだろう。失言が、ついぽろっと出てしまったのは。


コンビニでお互い好みの酒とおつまみを買い込んで、今は一人暮らしをしているという彼女の自宅へお邪魔した。こっちから誘っておいて「あっでも俺ん家は爺ちゃんが…」と焦り始めた俺に彼女が、「じゃあうちにおいで〜」とすんなり提案してくれたからだ。ガードの緩さが多少気になるけど、そのおかげでこうしていられているので今は追及しないでおく。

「綺麗ってわけでもないからあんまりまじまじ見ないでほしいよ〜」

なんて少し恥ずかしそうに笑いながら先を行く彼女は高校生の頃から変わらない愛らしさに何とも言えない大人の色香が混じりあって、一言で表現するとめちゃくちゃ俺のタイプドンピシャな女性に成長していた。
綺麗じゃないと謙遜したその1Kの部屋も適度に整理整頓されていて、きっちりしすぎているよりこれくらいの方が好感度高いよね、なんて思いながら、ジロジロ見ていると思われない程度に部屋を見回す。
「おつまみとか軽く盛ってくるから座って待っててね」と木製の丸いローテーブルの周辺を示されて、その勧めのままふわふわしたラグの上にそろっと腰を下ろしてみた。すると、テレビボードの上に置かれた『それ』がふと目に入った。

「あれ、これって…」
「ああ!うん!かわいいでしょ!友達と遊びに行ったときに買ってきたの」

それは、某テーマパークのキャラクターがお内裏様とお雛様に扮した雛飾りだった。キッチンからも俺が何を見ているのかわかったのか、元気な返事が飛んできた。陶器の仕切り皿に見栄え良く盛り付けられた、元はコンビニで適当に買って来たものには見えなくなったおつまみを手に、彼女が戻ってくる。

「もうひな祭り終わっちゃったけど、可愛いから飾ったままにしてるんだ」

普段の俺ならそうニコニコと腰を下ろした彼女に「へえそうなんだ!」と当たり障りなく返していただろう。だって女の子と二人きりで話すのとか慣れてないし、あんまり踏み込んで嫌われたらいやだし。けどこの時はつい『一緒に遊びに行った友達』の性別が気になって。なんとか話を広げて聞き出せないかと思ってしまった。

「でもひな人形ってさ、三月三日が終わったらすぐにしまわないと婚期が遅れる、って言わない?」

落ち着いて考えればわかることだ。こんなの絶対、年頃の女性にする話じゃない。しかも超久々に再会した、こんな短時間一緒にいただけで淡い恋心が復活しつつある女の子に。言ってしまってから自分の失言に気付いて、さぁっと青くなってももう遅い。慌てて彼女の様子を伺うと、最初はきょと、と俺を見ていたその頬がぷくりと膨らんで、みるみるうちに不満げな表情に変わっていく。

「現在進行形で彼氏いない社会人の女に、その話題は禁句だよ〜!!」
「ああああそうだよねごめんねこんな話するもんじゃないよねえ!?で、でもさ、実際は『きっちり片付けもできないルーズなやつは素敵な結婚できませんよ』っていう戒め的な話らしいしね!?所詮迷信ですよ、迷信!」
「ううううう〜!!全然フォローになってない!!」
「ええぇ〜!?」

あれ、でも、俺自身やってしまったと思ったよりは、そんなに本気で怒ってないみたい。どうせルーズですよ〜と言いながらテーブルに突っ伏す様子は、機嫌を損ねたというよりは拗ねている、そんな感じだった。
…ああ、やっぱり可愛いなあ。女の子と話すとついつい力んでしまって引かれがちだった俺の話でさえも、彼女はいつも楽しそうに聞いてくれた。時には話の流れで「我妻君なんてしらない!」とわざとらしく拗ねて机に突っ伏してみせた高校生の頃の彼女の姿が、今の彼女とすこしだけ重なって見えた気がした。

「俺、ただの迷信だって証明できるよ」

あの頃と同じように、横から彼女の顔を覗き込む。隙間からちら、と俺を見る瞳の輝きは、何もできないまま別れの時を迎えて交わることがなかった幾年かの年月を経た今もずっと変わってない。

「俺と、結婚してください」

驚きに染まった顔で、彼女がバッと起き上がる。いやちょっと待って、俺は突然何を言ってしまったんでしょうか!?彼氏いないってわかって気が緩んじゃった!?まだ1ミリも酒飲んでないのにさあ、この雰囲気だけでもう酔っぱらっちゃってますか!?

「ていうかその、結婚ていうか、それを目標にお付き合いみたいな、だから君が良ければなんだけど行き遅れたりはしないっていうかんじの、そういうやつです、!?」

自分が何を言ってるのかももう訳が分からなくなってしまって、汗と動機が止まらない。わしゃわしゃと手を動かして必死に取り繕おうとする俺に、彼女は赤く染まった頬を隠そうともせずに微笑んだ。

「…実は私、高校生の時、我妻君のことが好きだったの」

まずはお付き合いからでお願いしてもいいですか。そう恥ずかしそうに俺を見つめる彼女が舞い上がった結果見えてしまった幻覚じゃないなら、もうなんでもいい。ただの宅呑みが初めてのおうちデートになるなんて、失言もたまにはあってもいいのかも、なんて的外れなことを考えてしまった。



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