拍手SSまとめ | ナノ
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「ほらぁ〜!見て!見てよこれ!かわいいよねえ、おいしそうだよねえ!禰豆子ちゃんからのぉ〜!チョ・コ!!」

昼休み。とろっとしたチョコレートがたっぷりかかったハート型のパンを、そのチョコレート以上にとろけまくった笑顔で見せびらかしにくる善逸。
私や炭治郎たちは善逸と学年が違うから教室も離れているのに、休み時間のたびにずっとこの調子なので、いちいち反応するのは早々にやめてしまった。
隣の席に座る心優しい炭治郎ですらさらっと流してお弁当を食べ始めてるんだもん、私の行いも許されるはずだ。

そして私はそんな善逸のことを秘かに想い続けているのだけれど、こんなにわかりやすく不毛な片想いも珍しい。
一応用意してきた本命チョコも、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきて。
昼飯買ってくるね!と、禰豆子ちゃんからのチョコパンをお神輿みたいに掲げて教室から出ていく善逸の背中を見つめながら、捨てちゃお、と唐突に思い至った。

「お前それ、食いもんじゃねえか」
「えっ?ああ、まあ、そうだけど」

教室の後ろまで歩いていって鞄から取り出したチョコをゴミ箱へ放り込む瞬間、ぎょろぎょろ目玉の猪頭が突然視界に現れ、にゅっと手元をのぞき込む。

「腐ってんのか?」
「そういうんじゃないよ。いらなくなったから、捨てようと思っただけ」
「じゃあよこせ。もったいねえ。俺が食ってやる」

…まあ、食べ物を粗末にするのはよくないし。それもアリか。
いいよと言って手渡すと、食べ物をもらって嬉しそうに輝くイケメン顔が猪の下から登場した。本来の役割は果たせずとも、これだけ喜んで食べてもらえたらこのチョコも報われるだろう。
けれど伊之助が早速食べようと包みを開け始めるより先に、善逸が教室へ戻ってきてしまった。

「は?なにそれ、伊之助お前、何持ってんの?チョコ?」

伊之助がどう見てもバレンタインのチョコです!と主張している箱を手にしているのを見て、善逸が眉をひそめる。

「ふふん!いいだろう!俺様の獲物だ!花子が捨てるって言うんでなあ、もらってやったぜ!!」

本来渡すつもりだった相手に詳細な説明をしてくれてどうもありがとう。チョコ自体に宛名とかは書いてないし、バレないだろうからまあいっか。そもそも私の名前、花子じゃないけどね。
なのに、伊之助の自慢を聞いた善逸の機嫌が、何故か地獄みたいに悪くなる。
ジト目でつかつかと近寄ってきて、伊之助が握っているチョコに向かって手を差し出した。

「それ、俺によこせ」
「あぁん!?伊之助様から食い物を横取りするなんて、いい度胸だな!」
「お前にはほら、これやるから。だからそれは俺によこせよ」
「なぬっ!?焼きそばパンか…まあ、いいだろう。物々交換成立だ!!」

ポカンとする私の目の前で勝手に取引が進んでいく。いや、既にあげたものだから自由にしてもらっていいんだけどさ。
早速焼きそばパンの袋を豪快に破って立ったまま頬張り始めた伊之助をよそに、善逸は私の前の席まで移動し、その椅子をうしろ向きにしてドカリと座る。
そのまま間髪入れずチョコを開け始めてしまったものだから、びっくりして駆け寄り思わず制止した。

「禰豆子ちゃんからの愛でおなかいっぱいにするんじゃなかったの」

それ食べちゃったら、私の愛までおなかにお邪魔しちゃいますけど。言わないけど、心の中でそう思いながら。
止められた善逸はまだ不機嫌そうな顔でちらっと私を見上げた。

「なんかやだ。俺以外がこれ食べるのは、なんっかやだ。なんでって理由はわかんないけど、とにかくやだ。お前が誰にあげるつもりだったのか知らんけど、もういらないなら俺が食う。ダメなの?」

なんかやだ、って何。禰豆子ちゃんのことが大好きなくせに、今も禰豆子ちゃんのチョコパンを大切そうに私の机に置いてるくせに、なんでそんなこと言うの。

「…ダメじゃ、ないけど」

やっぱりこの片想いは不毛すぎる。それでも、もうちょっとだけ捨てずに持っててもいいかもしれない。実は私お手製のトリュフをもりもり食べ始めた善逸を見ながら、何となくだけど、そう思った。



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