分岐/short | ナノ

うちの学校の風紀委員さんは顔が赤い。

と言っても、最初からそういうわけではなかったように思う。あの頃は、毎朝早起き大変そうだなぁくらいにしか気に留めてなかったから記憶は曖昧だけど。
なんせ私は、ザ・一般生徒だ。
毎朝彼が、我がキメ学の中でも個性強めで有名な人たちとワイワイ騒いでるのを横目に通り過ぎるだけ。身だしなみも模範生そのものなので呼び止められることはないし、挨拶すらしたことはない。

けれど、ふとした時に太陽の光を受けるキラキラの髪が綺麗だなと思ったのが始まりで。
ピアスをした男の子の校則違反を見逃すところや、冨岡せんせーに詰められて泣いているところ、時には可愛い女の子にデレデレにこにこするところも。
コロコロ変わる表情から優しくて楽しい人柄が滲んで見えるようで、とても素敵な人だなと感じた。

そしていつしか私の心臓は、その姿を目にするたびにトクントクンと甘い音を立てるようになっていたのだ。


今日も私は紅葉みたいに赤く染まる風紀委員さんの横を、表向き涼しい顔で通り過ぎる。
それにしても彼は何故いつも赤いんだろう。
ちょうど彼に恋し始めた頃、ふと盗み見た彼の顔が真っ赤に染まっていてギョッとした。熱でもあるのかと心配もした。
でもそれが三日、一週間、一ヶ月…と続いていくうちに、心配は疑問に変わっていった。

「…ねえあの服装チェックの風紀委員さんさ。毎朝顔赤いけど大丈夫なのかな?」。そう、クラスメイトに聞いてみたこともある。その子はいつも私より先に登校しているから、教室に入った瞬間視界に入って、その勢いで。
けれど「は?赤い?」と不思議そうにされた。
あんなに赤いのに気づいていないのか?興味がなくて見てないだけか?と思っていたら、次の日しっかりと確認してくれていた心優しき彼女は「今日気にして見てみたけど、赤くなんてなくない?」と一言。
それでもそのまた次の日、私の目には風紀委員さんの顔がしっかり赤く染まっているように見えて、自身の色覚異常を疑ったりして(結局異常はなかったんだけど)。

「まーたなまえはぶつぶつ言ってる」
「えっほんと?また出ちゃってたかな…。おはよ」

もう慣れたけどと言わんばかりの態度でおはよう、と返してくれるのは、私の数少ない友人たちのうちの一人。友人たち曰く、私は考え事をしているとひとりごとがめちゃくちゃ多くなるのですぐにわかるらしい。
小さい声だから何を言ってるのか聞こえはしないけど、とにかくぶつぶつ話してると。

初めて指摘された時はびっくりした。心の声が漏れてるなんて恥ずかしすぎる。
治そうと思っても治らないしと思って今では諦めているけれど、やっぱりもっと真剣に治療を意識すべきだろうか。…でも内容が聞こえない程度ならまあいいか、とすぐに気持ちを切り替える。なんせ私は呑気なのだ。
友人と他愛もない会話をしながら靴箱から上履きを取り出して、今日もなんの変哲もない一日の始まりだ。


***


次の日の朝。いつも通りの朝。
角を曲がると遠くに校門が見えてきた。
今日もあの風紀委員さんは通りすぎる学生たちの服装をバインダー片手にチェックしているようだ。偉いなあ。
…とくん。とくん。心臓が恋の音を立て始める。
近づくにつれ鮮明になっていく彼の顔は今日も赤い。

見つめているのがバレないくらいの距離で風紀委員さんからそっと視線を外した。
その直前、ちらっと私を見た風紀委員さんと目があってしまったように感じたのは気のせいだろう。きっと私の服装をチェックしてただけだ。

しかし、ここまで毎日顔が赤いとまた心配になってくる。ずっと続いているから熱でもないんだろうし…。
…はっ。まさか。
日焼け、か…?

「っぐふ、ン゛ン゛ッ!」

風紀委員さんが突然噴き出すように咳き込んだ。

毎朝毎朝校門で服装チェックをして太陽の光にさらされているから焼けちゃってるのかも。
でも肌が弱いから黒くならずにずっと赤くなっちゃってるとか。
それってまずくない?紫外線とか大丈夫なんだろうか。日焼けっていうけど一種の火傷なんだよね。

それっぽい答えが得られたようで少し興奮していたのに。
……やっぱ違うかも。慢性的な風邪?

冨岡せんせーに風化委員こき使いすぎじゃないですかって進言してみる?…いや怖いからやっぱやめとこう。
せめてクラスが同じだったらそれとなーく、のど飴いっぱいあるんだよねってみんなに配るふりして渡したりとか。
風化委員に立候補してみたら、委員会で毎朝の服装チェックを分担しようって提案できるかな。
なーんて考えているだけで意気地なしの私には結局何もできない。
到底届かないくらいの小さな声で「今日もお疲れ様です」と呟くのが精一杯だ。

こうして私は今日もまた、普通に挨拶すらできないほど好きな人のことを徒然なく考えながら、なんでもない一日をスタートさせるのだった。


れ全部聞こえてるわけで、


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