分岐/short | ナノ

ふらっと街に出て、お気に入りの甘味処でお団子とおまんじゅうをふたつずつ。
愛しい愛しい俺の妻、なまえちゃんの家事が落ち着いたら二人で食べるんだ〜なんて上機嫌で家路に着く。
今日は絶対仕事しない!と決めて久しぶりにとった休日だけど、やっぱりいいもんだなあ!

家の前の通りに差し掛かったところで、近所の子供達が外で遊んでいる声が聞こえてきた。
鬼舞辻は倒した。悪い鬼はもういない。
元気に遊ぶ子供達の声はその平和を際立たせてくれるようで、聞いているだけで幸せな気持ちになってくる。
ぽかぽか陽気も気持ちいいし、このお団子とおまんじゅうは縁側で、

「ぜんいつごっこしようぜー!」

………?
いま俺の名前呼ばれなかった?

「いいよー!じゃあ最初はぼくが鬼やったげるー!ぐははーおいしそうだ食ってやるー!」
「きゃー!たすけてぜんいつぅー!」
「かみなりのこきゅーいちのかた!へきれきいっせん!!」
「ぐはあああ切られたあああ!」
「次ぼく!ぼくがぜんいつ!」
「ええ!ぼくもぜんいつやりたいのに!」
「ぼく『ろくれん』のぜんいつやるから、『しんそく』のぜんいつやってよ!」
「わかった!」
「はいはいはい!じゃあぼくは『ほのいかづちのかみ』のぜんいつやる!」
「ええー!ずるいよおー!!」

キャッキャッキャ。ついさっきまで幸せの象徴だなあなんて呑気に思っていた子供たちの声が途端に異国語のように感じられた。
思わず耳がおかしくなったのかと疑う。
なんだこれ。俺がいっぱいいるんだけど。
…どゆこと!?

「イイヤアアアアア!」

勢いよく開けた戸がスッパーン!と小気味いい音を立てたが気に留めている場合じゃない!
ドタドタと家の中に入ると家事がひと段落したのかなまえちゃんは居間でお茶を飲んでいた。

「おかえりなさい善逸、戸は静かに開けてね」
「ただいまあごめんよお〜…じゃなくて!!なんか外に俺がいっぱいいるんだけどおおお!なにあれえ!?」
「は?」

身振り手振りを交えて今さっき見た光景を必死で説明する。
それを聞いていたなまえちゃんの顔がみるみる曇っていった。
もしかしなくても、これは何か知ってるな…?
思いっきり、まずい!って顔に書いてあるもん。音もめちゃくちゃ動揺しまくっている。

「なまえちゃん〜〜??」
「だ、だって!お隣さんに子守をお願いされた時に、何かかっこいいお話してって頼まれて、それで、」

あっさり白状したなまえちゃんの話を要約するとこうだ。
童話の類をあまり知らないなまえちゃんは話せるものがすぐに底をつき困ってしまったらしい。
そこで、とある鬼殺隊士の話を物語のようにして話してみたところ、思いの外気に入られてしまって。
自分も嬉しくなってきて色々な話をしていたら、気付いた時にはどんどん子供たちの間で広まり、ごっこ遊びにまで発展していたそうだ。
その、とある鬼殺隊士というのが。

「本当は怖いのを我慢してみんなのために悪い鬼を倒してまわる、善逸っていう優しい男の子のお話…」

俺だったというわけだ。

「…かっこいい、っていわれるとどうしてもその、善逸のことしか思いつかなくて…………………勝手にこんなことしてごめんなさい。」

謝罪の言葉なんてもう消え入りそうなくらいの音量だった。
しおしおしお…と体が小さくなって萎んでいっているような錯覚まで抱いてしまった。
対して俺の顔はどろんどろんに、まるでつきたての餅のように幸せで緩みまくっている。
申し訳なさそうに下を向くなまえちゃんには見えてないみたいだけど。

かっこいいといえば俺だって!?
世界一愛しい奥さんからそんなふうに思われてるなんて、こんなに嬉しいことある!?

「謝らないでなまえちゃん!俺がかっこよすぎるのが悪いんだよね〜!」
「な、なんかそんなふうに言われると素直に頷きたくなくなるな…」
「もう!照れなくていいんだよおっ!お団子とおまんじゅう買ってきたから一緒に食べよ!そんでそのあとはなまえちゃんを美味しくいただいちゃおうかな〜…ウィッヒッヒッヒィ!」
「〜っ!ばか善逸…!!」

首まで真っ赤に染めるなまえちゃんをこれでもかとぎゅうぎゅう抱きしめる。
なんだかんだ言いながらなまえちゃんも、俺のこと大好きって音をめいっぱい響かせて抱きしめ返してくれた。
言ってることとやってることが逆だよねえ!全く、素直じゃないんだから!そういうとこも可愛いんだけどねええ!

それにしても、俺の活躍はそんなに子供達の心に響くものだったのか。
これは後世の子供たちへ向けて己の活躍を残すべく、筆を取ってみるのも悪くないかもしれない。
題名はそうだな、善逸伝、なんてどう?


はヒーロー


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