びいどろ玉の恋模様 | ナノ


「飲んだっけ!?俺昼の薬飲んだ!?飲んでるトコ見た!?誰かーっ!!」
「飲まれていましたよ。次のお薬もお待ちしました」
「イヤアアアア!もう次いいいい!?」

まだ俺たち三人とも療養中だったとある日。蝶屋敷はとても騒がしい。主に俺が叫んでいるからだ。

「善逸さんはまた騒いで!!いい加減に静かになさってください!!」
「なまえさんは甘すぎます〜!」

そのせいで、炭治郎と伊之助の包帯を変えにきたアオイちゃんときよちゃんはぷりぷり怒っているし、炭治郎は苦笑いだ。

嫌だ嫌だと騒いでいても、なまえちゃんは容赦なく寝台脇に立って湯呑みを差し出してくる。
ここで受け取れば自分の手で飲むことになって、拒み続けるとなまえちゃんの手で少しずつ飲ませてくれるというのがこの薬の摂取が始まってからのお決まりの流れだ。
どっちにしろクソ苦いのは変わらないけど、今回は自分で飲みたくない気分。飲まして欲しい気分!
絶対飲まないからねという風に顔を背けていたらいつも通りなまえちゃんがさらに俺に近づく気配がした。
けれど湯呑みを俺の口元へ近づける手の動きが途中で急に止まったので、ん?となまえちゃんを見る。
びいどろ玉の瞳も至近距離からまっすぐ俺を見据えていて、意図せず目が合ったことにどきりとした。彼女はそんな俺に気付くことなく爆弾発言を落とす。

「善逸様は、叱られるのを御所望ですか?」
「は!?なに言ってるの!?突然変な性癖持ち認定するのはやめてえええええ!!…あっでもなまえちゃんのならちょっと見てみたい、かも」

まるで俺が変態みたいな勘違いをするのはやめていただきたいが、興味はあった。
なまえちゃんはいつも優しいし、静かだし、表情も音もあんまり変わらないし。
他の顔も見てみたいなって、口にした言葉以上の意味はない。断じてない。

なまえちゃんは静止して何かを考えるようにしたあと、湯呑みを持つのとは逆の手の人差し指をぴっと立てて少しだけまゆをキリッとさせた。

「飲まないと、だめです。…めっ」

なんなのこの子。可愛すぎない?怒り慣れてないのがばればれなんだけど?
感情が荒ぶりすぎて逆にスンッと無表情になってしまった。
そのせいかなまえちゃんは「私ではご期待に添えないようなのでさらに精進いたします」と少し悔し気に呟いていて、違う違うと慌てて否定することになった。

距離の近さが何故かなんとなく恥ずかしくなってきて湯呑みを受け取る。
やっぱり今回は自分で飲もう。嫌だけど。

「これからもいつも通り甘やかす方でお願いします…」
「…甘やかしているつもりはないんですが、はい、承知いたしました」

やっぱり俺には女の子に怒られたい願望はないし、できればでろでろに甘やかしてほしいとさえ思う。
でもなまえちゃんにならたまには叱られてもいいかもなんて。

俺たちの一連のやりとりを他の全員からニヤニヤ顔で生暖かく見守られているなんて普段なら音を聞けばすぐわかるのに、なまえちゃんの可愛さとクソ苦い薬に四苦八苦していたこの時の俺は全く気付いていなかった。

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