びいどろ玉の恋模様 | ナノ


小説ネタががっつり含まれます。

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「なまえちゃーん!明日はここのお手伝いを一番最後に回してもらえたりできるかしら?終わった後、一緒に行きたいところがあるの!」

ある日のこと。
さて次は蛇柱様のところ、と屋敷を出ようとした時、恋柱様がそうおっしゃいながら、後ろからトテトテと駆けてこられた。

「しのぶちゃんも誘ったんだけどやっぱり忙しいみたいで…。なまえちゃんとだけでもご一緒できたら嬉しいんだけど、難しいかしら…?」

もちろん帰りはしのぶちゃんのところまで私が責任を持って送り届けるわよ!と、口元に手をやりながら控えめにそう尋ねるお姿は失礼ながらすごく可愛らしくて、日々鬼と対峙する鬼狩り様にはとても見えないほど。
けれど歴とした柱である甘露寺様のご要望をお断りする選択肢は私にはないし、回る順番を変えるなんて少し時間を調整するだけでいいので容易いことだ。

「かしこまりました。明日はどちらへお供すればよろしいのでしょうか?」

了承すれば、恋柱様がお花の様な笑顔を咲かせる。それからびしり、と人差し指を立てて、嬉しそうに宣言された。

「それはね!ずばり、温泉よー!」


***


予想だにしなかった行先にびっくりしたものの、翌日は言われた通りに順番を変えて、恋柱様のお屋敷を最後に訪れた。
ウズウズとしながら私の作業終了を待っていらした恋柱様と共に屋敷を後にし、その温泉とやらを目指す。
『温泉』というものは、知識として知ってはいる。地中から湧き出した湯が入浴できるようになっている場所で、そのお湯質によって様々な効能があるとか。けれど私はたまに買い出しに出る以外ずっと家に篭りっぱなしだった為、入ったことも見たこともない。
そもそもこの辺りに温泉があるなんて話聞いたことあっただろうか、と考えていたら、恋柱様がそれを察して今から向かう場所について話してくださった。

「今日はね、なまえちゃんも一緒にどうですかって、宇髄さんの奥様たちからご招待いただいたの!隊士の子達が基礎体力作りの一環として、温泉を掘りあててくれたんですって!」

なんと。そんな体力の作り方もあるのか。
掘り当てたということだから、どこに源泉が眠っているのかを探すことも、気配を探る練習になっていいのかもしれない。
私には考えつかない訓練方法。さすが元音柱様だ。今後の参考にさせていただこう。
恋柱様とお話をしながら山を登っていくと、中腹あたりで何人かの鬼狩り様たちがゼェハァと今にも死んでしまいそうな顔で崩れ落ちていらした。元音柱様のお稽古場所にはお手伝いに来ていないので、初めてお会いする方ばかりだった。

「ええと、この辺りのはずなんだけど…」
「こっちこっち!こっちでーす!」

呼ばれてそちらを向けば、木々の間から須磨様が元気に手を振ってくださっている。
須磨様に案内されてまたしばらく進んでいくと、ぽっかり開けたところに出た。雛鶴様とまきを様もいらして、そこには確かにお湯が湧き出ていた。

「きゃあー!素敵だわー!」

恋柱様が嬉しそうにぴょんと飛び跳ねられて、「今日はお招きいただきありがとう!さあ早速入りましょう!」と言いながらささっと隊服を取り払っていく。
惜しげも無く露わになったその美しく豊満なお体に、私は思わずぽーっとなって目を奪われてしまった。
すぐに我に返り、あまりジロジロと見ていては失礼になると慌てて視線を外した先、「なまえちゃんも遠慮しないで、一緒に入りましょうね」と話しかけてくださりながらお召し物を脱がれた雛鶴様たちも、同じく出るところは出て凹むところは凹んだ素晴らしい体躯をされていて。同性とはいえ、どこに目をやればいいのか、いよいよわからなくなってしまった。
確かに皆さんは、衣服をお召しになっている状態でもその女性らしい体つきを隠し切れてはいなかった。
それでも実際に直接目の当たりにするとあまりの衝撃で、見る先がないなら自分を見ていればいいと判断して着物を脱ぐ手つきまでどうしてもぎこちなくなってしまう。
それに…、比べて私の体の、なんと貧相なこと。ぺたんと頼りない胸部とお尻をなんとなくさすって、同じ人間、同じ女性でこうも違うものかとこっそりため息をついた。

では今日の目的である温泉はといえば、五人で一緒に浸かってもゆとりのある大きさで、湯温もちょうど良く、野外で湯に浸かることの気持ちよさを初めて知って感動してしまった。
もし家の庭にも温泉があれば休息に来られた鬼狩り様方に喜んでもらえるのでは…などと、ほこほこと立ち上る煙を目で追いながら考えていると、須磨様が笑って仰った。「この温泉を掘ってくれたの、善逸君と伊之助君なんですよ!」と。

「善逸君ったら、私たちと混浴するんだって張り切って掘ってくれたみたいで、」
「ばっか!こら!なまえちゃんの前であんたはいらんことを!」

まきを様が私をチラチラ見ながら、焦ったように須磨様の頭をぽかりと殴る。まきをさんが殴りました!とべそをかかれる須磨様を見る雛鶴様も「結局色々あって善逸君とは混浴してないからね」と弁明するように言いながら苦笑いをされていた。
…そうか。皆さん、私が善逸様ともう何でもないことを、ご存知ないから。
恋柱様は「えっ?なに?どういうこと?!」と染まった両頬に手をやってドギマギされている。

善逸様は女性好きだ。混浴を動機に温泉を掘り当てたと聞いても、今更驚きはしない。
けれど先程目にした、今は湯の下にある皆さんの魅力的な体つきを思うと、なんとなくもやもやとしたものが胸に渦巻くような気がした。

「善逸様もやはり、皆さんのように女性らしい体の方と、混浴したいものですよね」

大抵の男性は恐らく豊満な柔らかさを女性に求めるのだろうと思う。私のような貧相な体では、男性の、善逸様の希望に沿うことはきっとできない。
性欲処理のお手伝いを断られてしまったいつぞやのことも思い出しながらぽつりと呟くと、哀愁が漂ってしまっていたのだろうか、「なまえちゃん…」「いやそんなことは…」と、つい先程までわちゃわちゃと賑やかにされていた皆さんまでしんみりとなってしまわれた。
せっかくの温泉なのにこれはまずい。何か楽しい話題はないものかと必死に考えを巡らせたが、私の頭がそううまく働くわけもなく。
焦るばかりの私に、恋柱様がその勢いでバシャンと水面を揺らしながら身を乗り出して仰った。

「好きな人とする混浴が、一番幸せだと思うわ!」

そりゃあ女性なら誰とでもいいって人もいるかもしれないわ。でも、一番幸せな気持ちになっちゃうのは絶対に、好きな人とする、好きな気持ちの沢山こもった混浴よ!体つきなんて関係ないんだから!…と。

「そうですよっ!お着物も私たちと違ってなまえちゃんみたいな控えめなお胸やお尻の方が似合いますし!」
「ばか須磨!それ微妙に褒めてないから!」
「えええぇ〜っ!?」

再度まきを様に殴られてめそめそされる須磨様を宥める雛鶴様を見ながら、恋柱様の仰ったことが頭の中をぐるぐると回る。
善逸様の好きなお相手は私ではない。だから善逸様を一番幸せにすることはできない。
けれどもし私がお慕いする気持ちを込めて混浴したとすれば、それがたとえ一方的なものだったとしても、少しくらいは喜んでいただくことができるだろうか。

「それでっ?なまえちゃんは善逸君が好きなのかしら?善逸君ってあの金髪の子よねっ?私、気になっちゃうわ!」

恋柱様がワクワクと目を輝かせて私に詰め寄られる。恐らくこういったお話が大好きでいらっしゃるのだろう。さてどうしたものか…。

少しだけ迷いはしたが結局、出会いから今に至るまで特に隠し立てすることもなく全てお話しした。お付き合いを解消したことも含めて、全部。
恋柱様は「な、なんて切ないお話なの〜!」と恐れ多くも泣いてくださり、須磨様は「幼気な乙女心をもてあそぶなんて、お姉さんは見損ないました!今度善逸君に会ったらおしおきしちゃいます!」と、憤慨してくださる。
慌てて須磨様の興奮を宥めようとしていたら、雛鶴様とまきを様は顔を見合わせてなんとも言えない表情をされていた。やはり、不快にさせてしまっただろうか…。

「色々とお世話になりましたのに、こんな結果になってしまい申し訳ございません…」
「えっ?いや、うん、それはいいんだけどさ、ねえ…?」
「うーん、それはなんとも、ややこしいことになってるわね…」

天元様が知ったら善逸君また大変なことになりそうね、と困ったように雛鶴様がおっしゃった意味は分からずじまいになってしまったけれど。
その後も夜が深くなるまで、皆さんと色々な話をして温泉を堪能させていただいた。ずっと肩まで浸かっていたらのぼせてしまうから、足だけつけて風を浴びるのも気持ちいいのよ、と温泉の楽しみ方についても教えてくださった。
お稽古の合間ではあるのだけれども、それはとても楽しいひとときで。お誘いいただけて良かったと、また皆さんとこんな時間が過ごせたらいいと、思った。



***



「なまえちゃーん!今日も頑張ってるね!いつもありがとう!」
「善逸様。お疲れ様でございます」

翌日、岩柱様の元を訪れると、私の姿を見つけた善逸様がいつものように元気に声をかけてくださった。
その上半身を直視はできないもののそっと様子を伺うと、滴る汗や表情から隠し切れない疲労の色が垣間見える。

「…お疲れのご様子ですね」
「まあね!こーんなおっきい岩をさ、一町も押して運ばないといけなくて。なかなか大変だよ」

こーんな、と腕で表現された大きさは人の身長を超えている。確かに大変そうなお稽古だ。
善逸様のお疲れを何とか癒せないものかと考えた時、昨晩の温泉で疲労感の薄れた自身の体と、恋柱様のお話がふと頭に浮かんだ。

「温泉に入れば、疲労も吹っ飛びますか?」
「…うん?まあそうかな?疲れに効くって言うよね」
「そうであれば、善逸様は女性との混浴をご希望されているとのことですし、その、私でよければご一緒できればと思うのですが」

………。

「っっっ!?はははははははいいいいい!!??」

善逸様のお声が裏返る。驚きからか髪が蒲公英の花弁の様に広がって、お顔まで真っ赤に染まってしまわれた。

「なんで突然そうなるの!?いや混浴してみたいとは常々思ってるけどね!?ちょっと待てよわかったぞ!なまえちゃんが突拍子もないことを言い出す時は、どこかでおかしなことを小耳に挟んで何か勘違いしてる時なんだから!!誰から何を聞いたの!?今回は俺じゃないよね!?どこのどいつだよ!?宇髄さんか!?あのおっさんだな!?アイツいらんことばらしやがったな!?キイイェェェェ!!」

…どうやら私は、また間違えてしまったらしい。

その後騒ぎを聞きつけた炭治郎様が鎮めに来てくださるまで善逸様の絶叫が、本来凛と静かであるはずの山の中に響き渡り続けた。狼狽える私は、善逸様を余計に疲れさせる結果になってしまった…と反省することしかできなかった。

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