びいどろ玉の恋模様 | ナノ


「なまえちゃん、俺さ、聞いてほしい話があるって言ったよね?やるべきことをちゃんと終わらせられたら言うって」
「は、はい」

最終決戦で受けられた傷が外見的にはそれなりに癒えてきた頃、善逸様は真面目な顔でそう切り出した。たまたま二人きりになったとはいえここは病室で。あまりにも唐突すぎるそれに驚いたけれど、新しいものに変えようと手にしていた包帯を無意識に握りしめながら、ついにこの時が来たのか。お話とは一体なんだろう?と身構えた。でも。

「本当は今すぐにでも言いたいんだけどさ、その前にしっかり済ませていきたい順序があるんだよね。だから、もうちょっとだけ待っててくれない…?」
「は、はい、承知いたしました」

その時はどうやらまだ先らしい。「ありがとう」と微笑んでくださる善逸様の向こうでカーテンが風に優しく揺れて、思わず入ってしまっていた肩の力を抜く。
握りしめていたせいで少し皺が寄ってしまった包帯をいそいそと整えていると、善逸様のおっしゃりたいことにはまだ続きがあるのか、真剣な顔で手首をきゅうと掴まれたものだから、さらに驚いて折角伸ばしたそれをまた握りつぶしてしまった。

「でも…そうやってるうちにまた色んなもんに流されてうまくいかなくなるのは絶対に嫌だから、もう一回伝えとくね。俺はなまえちゃんに話したいことがあるから、その時になったら絶対、絶対、聞いてください。絶対だからね!忘れないでね!覚えててね!!」
「、はい…!」

肯定の返事をしたものの、善逸様の決意を秘めたような力強い笑顔に胸がドキドキと高鳴るだけで、『お話』の内容は結局わからないまま。


そうしてあっという間に時は過ぎていく。大怪我を負われた皆さんの看病を兎に角必死でしていたら、鬼舞辻を倒したあの日から気付けば三ヶ月も経過していた。

善逸様は炭治郎様達と一緒に竈門家へ帰ることにしたそうだ。本当の家族のように仲の良い皆さんだから、これから四人で仲睦まじく暮らしていかれるのだろう。
別れは、明日に迫っている。『その時が来たら善逸様のお話を聞く』という約束はあれだけ念押しされたこともあって頭の中にしっかりと存在しているけれど、善逸様はそのことに関してその後特に何もおっしゃらないので、こちらから話題に出すことはしていない。きっと『その時』がまだ来ていないのだ。

「なまえちゃんはこれからどうするの?」

手が不自由な炭治郎様たちの荷造りを代わりに進めていたところ、沢山のお土産をひとまとめにするのを一緒に手伝ってくださっていた善逸様が言った。炭治郎様たちは診察を受けに行かれている。初めはとても申し訳なさそうにされていたが、最後にやらせてくださいませんかとお願いしたら、炭治郎様も禰豆子様も顔を見合わせてから、そっくりな笑顔で快く了承してくださった。

「…正直にお話しますと、迷っています。胡蝶様はこれからもここにいて良いと言ってくださっていました。カナヲ様の目や皆さんの今後の診察のこともありますし、もし許していただけるならこのままお手伝いとして残るのも良いと思っています。でも…」
「…お婆さんのことが、気になる?」
「はい…」

私の生きる目的は、鬼狩り様方の支えになること、と決めていた。鬼舞辻が死に、鬼がいなくなったと同時に、その目的も必然的に宙ぶらりんになってしまって。
ただ、戦いは終わったといえど全て何の問題もなく、というわけにはいかないし、これからも私の人生をかけてお力添えしていければとは思っている。それでも、炭治郎様と禰豆子様が仲良くお話しされているのを見ていると、この世にたった一人しかいない大切な家族とこのまま離れ離れでいいのか、ということがどうしても胸に引っかかるようになってしまっていた。

「俺たちと一緒に家を出てから一度も帰ってないんだよね?」
「はい。文のやりとりだけは、少し。鬼舞辻を倒したといえど、皆さんを放り出して私だけ帰るなんてことは、絶対にできませんから」

宇随様たちが持ってきてくださったお菓子の風呂敷を弄りながら、そうだよね…と善逸様が眉を下げる。貴方様がそんなに申し訳なさそうなお顔をされることはないのに。

「明日俺たちがここを出たら、一応入院してる人は誰もいなくなるけど…?」
「そう、ですね。…皆さんが退院されたら恐らく手が空くので、どこかで時間を作ってとりあえず一度、顔を見に帰るつもりではいます」

『明日』。迫り来る別れの日を思い胸がちくりとなるけれど、今はその話をしているのではない。善逸様の下がってしまった眉をどうにかしたいと、今この瞬間に立てた今後の予定を告げたら、私の願い通り下がった眉が元に戻ったのでほっとした。

「そっか。よし、わかった」
「…?」

元に戻るどころかキリリとさせられている理由をうまく掴めず不思議には思ったけれど、私が家を出たきっかけは善逸様ではあったので、その責任を感じて気にしてくださっていたのだなとすぐに納得した。きっと、私が一時的にでも家に帰るつもりだと知って安心していただけたのだろう。

翌日、迎えた別れは意外とあっさりしていた。善逸様たちは沢山の人に愛されていらっしゃるから、お見送りの人数もそれはそれは多くて、私如きが沢山の時間を独り占めするなんてことは到底できなかった。
桜吹雪の中、泣き、笑いながら旅立っていかれる皆さんのお姿を、忘れないよう目に焼き付ける。と言っても今生の別れではないし、定期的に検査を受けに来られるとのことなので、そう遠くないうちにまたお会いできるのだが。


それからまた、あっという間に一週間が過ぎた。ずっとバタバタしていた蝶屋敷もようやく落ち着いて、ついつい後回しになりがちだった窓の縁等の細かい部分を念入りに拭き掃除してまわっている時だった。

「なまえさん」
「!…アオイ様、どうかされましたか?」
「善逸さんから聞きました。これからどうされるにしろ、一度ご実家の様子を伺いに行かれるつもりだと」

先程よく晴れた窓の外をチュン太郎君が飛んでいくのを見かけたから、文のやりとりでもされていてそういうお話になったのだろうか。雑巾を手にキョトンと考えを巡らせていると、アオイ様は優しく微笑んで話を続ける。

「急なお話で申し訳ないのですが、明日はいかがですか?診察予定は入っていませんし、ここ最近気候も安定していますから、ちょうどいいんじゃないかと思って」

…なるほど、皆さんの都合がいいというのであれば、お心遣いを無碍にすることはない。私自身に蝶屋敷でしなければならない用があるわけでもないし、お言葉に甘えることにしよう。そうさせていただきます、とありがたくお返事をした。
一時的にとはいえ帰るのであれば多少は準備の必要があるな、と掃除の切り上げを考え始めたのだが、アオイ様はまだ何か伝えた気に私を見ている。

「? アオイ様…?」
「私もカナヲも、なほもきよもすみもみんな、なまえさんがこれからもここで一緒に居てくれたらとても嬉しいと思っています。でも選ぶのはなまえさんですから、残るにしろ、ご実家に帰られるにしろ、それ以外も……私たちのことは気にせず、なまえさんが一番したいと思うことをなさってください」
「…ありがとうございます」

私を気遣ってくださる優しい言葉の裏に確かな寂しさが滲んでいる。それ以外とは何だろうかと少しだけ気にはなったが、私の選択によっては訪れるかもしれない別れを悲しんでくださるのかとつい嬉しく思ってしまう自分を律していたら、そんなことはすぐに頭から追いやられてしまった。ご家族の方に何か手土産をご用意しますね、とアオイ様が優しく微笑んだ。


次の日。
朝早くに屋敷を出て、家に帰り着いたのはお昼前のことだった。
長年見慣れた我が家の外塀を懐かしく思いながら表門へ向かうと、大きく描かれた藤の花の紋様の横に、今ここにいるはずのない方がお一人。

「なまえちゃん!」
「善逸様!?」

手をあげ笑いかけてくださるそのお方、善逸様に、慌てて駆け寄る。善逸様は私の驚きをよそに、禰豆子様と一緒に繕わせていただいたお師匠様の形見の羽織を着て、快活に笑っていらっしゃった。

「蝶屋敷からここまで遠くて大変だったよね。疲れてない?」
「えっ!?だ、大丈夫でございますが、善逸様は何故ここに…?」
「えっと、なまえちゃんが今日お婆さんのところに帰るって、アオイちゃんから教えてもらってさ!そしたら俺もお婆さんに会いたくなっちゃってさあ、一緒に会えないかなあって、来ちゃった!」

ぽりぽりと指先で頬をかきながら苦笑いされている善逸様をぽかんと見上げていたら、途端にしゅんとなってしまわれて。私より背が高いのに、その上目遣いは反則だと思う。どうしても、胸がぎゅうっとなってしまうから。

「だめ、だった…?」
「いいえ!祖母も喜びます」

…それから、私も。思いがけず善逸様と再会できたことに心が躍ってしまうのは仕方がないことだと許してほしい。

連れ立って家に入ると、お婆様は特に変わらぬ様子で優しく出迎えてくれた。善逸様もいらっしゃるので三人で玄関横の客間に入り、風呂敷包みをおろしてから「お茶を淹れてまいりますね」とすぐに席を立つ。
お台所へ行くと、流しにはまだ洗われていない茶器が一つ。お婆様がこういったものを放置されるのは珍しい。玄関にはどなたのお履物もなかったので、直前まで他のお客様が来られていたのだろうか。
それからしばらくは三人で、お茶を飲みながら私が家を出てからこれまでのことを話して過ごした。善逸様は私以上に一生懸命になって、私がいかに皆さんのお役に立っていたかをお婆様に話して聞かせてくださった。握り飯の塩加減が丁度いいとか、そんな些細なことまで褒めてくださるものだから恥ずかしくてたまらなかったのだけど、お婆様が嬉しそうにしてくれていたから良かったと思う。

善逸様のおなかがぐうう、となったのを合図に昼餉の準備に取り掛かろうとしたら、お婆様が自分がするから善逸様とゆっくりしていていいと言ってくれた。準備している間お客人の善逸様を放置するわけにもいかないし、今日はありがたく甘えることにした。

お婆様がお部屋を出ていかれて、二人きりになる。静かな客間で、自然とちゃぶ台を挟んで向かい合うかたちになった。開け放った縁側の障子から吹き込む春の風が心地よく、自然と笑みがこぼれてしまう。
そういえばこの部屋は、あの日善逸様に捕まってしまった部屋だ。初めて鬼狩り様に、男性に、直接触れられた日。あの時は本当にびっくりしたなあと懐かしく思った。

「ご、ごめんね、お婆さんとせっかく久しぶりに会えたのに、俺ばっかり喋っちゃって…」
「いいえ。善逸様目線の思い出話はすごく面白かったですし…私でも善逸様のお役に立てていたのだとわかって、とても嬉しかったです」
「役に立つとか!!そんなもんじゃないからね!?居てもらわないと困るっていうか、もうなまえちゃんが一緒に居ない人生は考えられないっていうか……!」
「っ!!」

春の陽気と懐かしさで緩んでいた心が、ドクン!と大きく脈打ったのを皮切りに、落ち着きなく動き始める。聞き間違いでなければ、善逸様は今、とても深読みしたくなってしまうようなことを、口にされなかったか。
速くなった鼓動がその耳に届いたのかもしれない。善逸様のお顔まで一瞬で真っ赤に染まってしまった。と思ったら、そのまま真剣な表情になって、私をまっすぐ見つめる。

「…今まで待たせて、ごめん。今日やっと準備が整ったから、だから話、聞いてもらってもいい…?」

ついに『その時』が来たのか。居住まいを正して、はい、と答える。この流れで話を切り出すなんて、どうやったって自惚れ、期待してしまいたくなることを、この方はわかっているのだろうか。

「なまえちゃん、俺は君のことが、世界で一番、誰よりも大好きです。始まりから色々間違っちゃったけど、今度こそ俺と、結婚を前提にお付き合いしてください。そんでこれからは、俺と一緒に炭治郎の家で暮らしてほしいです」

善逸様の話す一言一言が、温かい湯のようにじんわりと心に染み渡っていく。期待なんてもの、軽く飛び越していってしまった。もしかしたらこれは夢なのかもしれない。あまりに自分に都合の良すぎる現実が信じられなくなってしまう。それくらい幸せで。
感動で呆けてしまって何も言えないでいる私を前に、善逸様のお顔が少しだけ泣きそうに歪み、声の調子が一段低くなる。

「人ん家なのに何勝手に誘ってんだって思うよね。でも炭治郎たち、ここはもう善逸の家だと思っていいからって言ってくれてて、そういうのがなくても、俺は炭治郎が…いつか旅立ってしまうまで、出来るだけ一緒に過ごしたいって思ってて…」

別れ際の炭治郎様が脳裏に浮かぶ。「痣を出した人間は、二十五の歳を前に死んでしまうらしい。冨岡さんも不死川さんも、…俺も。だからそれまでに、なまえともまた沢山沢山話がしたいな」そう言って、少しだけ寂しそうにしながらも決して下を向かずに前だけ見て笑っていらした。

「わがままになっちゃうんだけどさ、俺、なまえちゃんとも一緒にいたいんだ。二人で任務に出てた時みたいに、ずっとずっと一緒にいたい。遠距離なんてやだ。この一週間だけでも、死ぬほど辛かったんだから。炭治郎達の許可も、お婆さんの許可も、ちゃんともらってあります!」
「お婆様、の…?」

いつの間にそんなお話をされていたのだろうか。思わず声に出てしまった。やっと何かしらの反応を示した私を見て、善逸様が安心したように微笑んだ。

「実はね、なまえちゃんと合流するより先に、お婆さんとちょっとお話しさせてもらってたんだ。前はさ、なまえちゃんからお婆さんに話が通ってるだろうからって都合よく解釈してたけど、そういうのはもうやめにしようと思ったから。なまえちゃんに話す前に、お婆さんにもちゃんとご挨拶して、交際の許可をもらっておきたくて」

意識の端を、流しにおかれたままの使用済みの茶器がよぎる。そういうことだったのか。

果てのない嬉しさと、幸せと、夢かもしれないと疑ってみたり、でもやっぱり現実であってほしいと願う気持ち、色々な感情がぐちゃぐちゃになって上手くまとまらない。
けれど話を終えられた善逸様は口を一文字に結び、今にも緊張で昇天してしまわれそうなお顔で私の返事を待ってくださっている。何か、言わなくては。

「善逸様が本当にそう望んでくださるなら…私は、それを拒否したりなんて、そんなことは、」

目を泳がせながら思いつく言葉をただ思いつくままに必死で並べていたら、ちらりと伺った善逸様の表情がみるみるムスッと曇っていき、余計にどうしたらいいのかわからなくなってしまった。でもそんな私の混乱を収めたのも、善逸様の一言で。

「もう俺は鬼殺隊士じゃないんだけど。なまえちゃん自身はどうしたいのかを、今度はちゃんとなまえちゃんの言葉で、教えてほしい」

そう、か…。今からする私のお返事は、『鬼狩り様の要望』に応えるものではない。善逸様も私も、もう鬼狩り様とそれを手助けする者という関係性ではないから。私自身の気持ちをただ正直に話してもいいんだ。
すうっと深呼吸してみたら、私が今、善逸様にお伝えしたいと思う言葉が、自然と溢れてくる。

「私は善逸様のことを、心からお慕いしております。善逸様の行かれるところなら、どこにでも共に参ります。誰よりも近くで、お傍に居させてください」

藤の花の香りをのせた風が、さぁっと室内に吹き込んだ。
その時の善逸様の涙と笑顔を、私はこの先ずっと忘れないだろう。


***


善逸様の涙がある程度おさまった完璧な頃合いで運び込まれた昼餉を見て、お婆様にはきっと一生かかっても敵わないんだろうなと思った。私と善逸様が大切なお話をすると全てわかった上で昼餉の準備を買って出てくれていたらしい。
絶対に長生きしていただいて、その空気の読み方や技術を盗まなければ、と心に誓った。

そんな大切な家族に見送られて、善逸様と共に家を出る。今度は本当に、恋人として。
道すがら、このまま善逸様と行きたい気持ちは山々なのだけれど、私が帰らなかったらアオイ様たちが心配するかも…ということを相談すると、「実は、ね」と指先をモジモジさせながら善逸様が話し始めた。

「アオイちゃんに教えてもらったって、嘘なんだぁ。俺の方からアオイちゃんに、今日お婆さんのところに帰るようなまえちゃんに勧めてほしいってお願いしたんだよね」

告白がうまくいったら炭治郎の家に連れていくって話は通してあるから大丈夫だよ。…とのことらしい。

「一週間もかかっちゃったけど、やっと色々落ち着いてきたからさ!なまえちゃん用のお布団とか着物も、とびきり可愛いのをちゃんと用意してあるから、心配しないでね」
「あ、ありがとうございます」

アオイ様のことといい、お婆様のことといい、居候に関することといい、私の知らないところで随分と骨を折ってくださっていたのだなと、思わずきゅんとしてしまった。

「もちろんお婆さんのところも蝶屋敷も、いつだって遊びに行ってもらっていいからね。荷物とかも取りに行かないといけないだろうし」
「はい。…あの、その時は、善逸様も一緒に来てくださいますか?」

自分の想いに素直になってもいいんだと思ったら、善逸様と片時も離れたくない、ずっと一緒にいたい、と願ってしまうこれまで我慢し続けていた気持ちを、うまく制御できなくなってしまって。
恥ずかしくてそこまで正直には口に出せなかったけれど、恐らく汲んでくださった善逸様のお顔が真っ赤に染まる。

「っっっ!?もっもももちろんですとも!?なまえちゃんがそうお願いしてくれるなら、どこまでだってついていっちゃいますから!歩くのとか大変だったら、なんならおぶって連れてってあげるからね?!」
「ふふ、ありがとうございます。でもそれは大丈夫です。善逸様の方が脚に後遺症が残られていますし、…今は平気ですか?すぐにでも背負わせていただきましょうか?」
「それこそ本当に大丈夫です遠慮させていただきます!!女の子に、ましてや好きな子に!背負われてばかりなのって、男としてすんごくすんごく恥ずかしいんだからねぇ!?」

なるほど、それで私が善逸様を担ぎ上げるたびに微妙な顔をされていたのかと、やっと合点がいった。今後は気をつけることにしよう。もちろん善逸様の脚の具合が最優先だけれど。

「あ、あの、背負うのが駄目であれば、別のことをご検討いただきたいのですが…」
「うん?なあに?」

背負うことを諦めた私にほっと胸を撫で下ろしていらした善逸様が、キョトンと首を傾げられた。
本当はずっと、してほしいと、したいと思っていたことを、今ならやっと言える。

「善逸様と、手を、つなぎたいです…!!」

恥ずかしくてたまらなくて目を瞑りながらお願いすると、一瞬の間の後、右手が大きくて温かいぬくもりに包まれて。ハッと目を開けたら、幸せに染まる満面の笑みがそこにあった。

「そんなの、お安い御用だよ!!」




人喰い鬼のいなくなった世界はどこまでも穏やかで、空は抜けるように青く澄み渡り、隣では誰よりも愛しいと想う善逸様が、手を繋いで笑いかけてくださっている。

鬼狩り様の役に立つことだけを考えて生きてきた私はもういない。
愛する人と共に歩んでいく人生にはどんな明日が待っているのだろう。まだ全然わからないことだらけだけれど、不安はない。
隣に善逸様が居てくださるならそれだけで、幸せに満ちた一日になるだろうことは、間違いないのだから。


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