善逸くんは幼馴染 | ナノ

小学校3年生


私のクラスでは今、鬼ごっこが空前の大ブームになっている。とはいっても、それはよくある普通の鬼ごっこじゃない。
学校中、いや日本中で流行っている漫画『鬼退治の刃』にちなんで、鬼チームと鬼殺隊チームの二つに別れ、逃げる鬼チームの人間を鬼殺隊チームが紙を丸めて作った刀で斬る。全員斬られたら鬼殺隊チームの勝ち、誰か一人でも逃げ切れたら鬼チームの勝ちだ。結構時間のかかる遊びなので、それはお昼休憩まるまるかけて、ここ最近では毎日開催されていた。

今日の私は鬼チームらしい。鬼は、学校の中ならどこに逃げても、隠れてもいい。与えられた30秒をフルに使って、鬼チームのみんなはできるだけ遠くまで散り散りになって走っていく。
私も同じように教室から一番遠い校舎まで走ってきたけど、ついさっき給食を食べたばっかりなせいで、脇腹がちょっとだけ痛くなってきた。
どこか、隠れられるところはないかな。そう思ってキョロキョロしていた時だった。

「名前ちゃん、名前ちゃんってば」
「…?あっ、そこかー!」

後ろから善逸くんの声がした気がして振り返ったら、一階特有の階段下の物置がある空間から、顔をひょこりと出してこっちこっちと手招きしてくれている。その頭には私と同じ、市販のカチューシャに折り紙で作った鬼の角を貼り付けたものをのせていた。キリキリと軽く痛む脇腹を押さえながら、善逸くんの好意に甘えて、私も同じ場所へ隠れさせてもらうことにした。

「名前ちゃんもここまで一気に走ってきたの?疲れちゃうよねえ?」
「うん、お腹痛くなっちゃった。善逸くんはいつの間にここまで来てたの?早いね!」
「へへっ、走るのだけは得意ですから!」

小さな声で話しながら、善逸くんが誇らしげに胸を張って笑う。昔からかけっこではいつも一番だし、鬼チームの時捕まってるとこ見たことないもんね。逆に善逸くんが鬼殺隊チームの時は、どこに隠れててもなんでかみんな見つけられちゃうし、逃げたって絶対に追いつかれちゃう。
あれ…?ってことは善逸くんのいるチームがいつも勝ってるんじゃ…?と思っていたら、向こうのほうからバタバタと走る音が聞こえてきて、私と善逸くんは思わず目を見合わせて息を潜めた。
でも、階段下の奥まったスペースなんて隠れやすいところ、もう何度もこのゲームをやってきた慣れっこが探しにこないわけがなかった。

「あーっ!いたー!水面斬りーっ!」

クラスメイトの男の子が嬉々として大きな声をあげ、紙製日輪刀を振りかぶる。ちなみに首を狙って顔とかを怪我したら危ないから、斬る場所は自由だ。だめだ!斬られる!そう思って諦めた瞬間、目の前に黒色のもふもふとした髪が躍り出た。

「名前ちゃん!逃げて!!」

気付けば、私の前に立った善逸くんが代わりにばっさりと斬られていた。少女漫画とかで読んだことがあるような、ヒロインがヒーローにかっこよく守られるシーンみたいでちょっとドキッとしてしまった。
でも、鬼殺隊チームは連続で斬っちゃいけないなんてルールは今のところないし、逃げてと言われて咄嗟に逃げられるような身体能力も持ち合わせていない。結局、慌てて横から逃げようとした私まで続け様に斬られて、二人仲良く滅されてしまった。
やられちゃったねぇ〜と話しながら教室へ戻ると、その後鬼チームのみんなが続々と肩を下げて帰ってきて、今日は鬼殺隊チームの勝ちでお昼休みが終わる少し前に決着がついた。

鬼の角カチューシャと紙製日輪刀を明日もまた使えるように決まった場所へ片付けながら、ちらっと善逸くんの方を見る。
多分、善逸くんだけなら例え見つかってしまったとしても、その足の速さとすばしっこさを活かして上手く逃げられたんだと思う。なのに、私のこと、庇ってくれたから。

「あの、私がモタモタしたせいで斬られちゃって、ごめんね善逸くん…。せっかくの無敗伝説が…」
「む、無敗伝説?なにそれ?よくわかんないけどさ、あそこに隠れよって言ったの僕だし、名前ちゃんは気にしないで?むしろごめんねえ」

明日も同じ鬼チームだったら、今度こそ二人とも逃げ切ろうね!と太い眉をゆるゆると下げて笑いかけてくれる。幼稚園からずっと一緒の善逸くんは、今日も変わらず優しさでいっぱいだ。嬉しくなって、私はうん!と元気に頷いてみせた。

そして次の日、また鬼チームになった私は、鬼殺隊チームになってしまった善逸くんに追い詰められてじわじわと壁に追い込まれていた。

「ぜ、善逸くん!昨日のことは気にしなくていいから!斬って!ね!?」
「ヤダアアア!僕、名前ちゃんのこと斬りたくないよおお!ああっそうだ、僕今から寝たふりするからさ、名前ちゃんその隙に逃げてくれない?血鬼術で眠らされちゃったってことにしようよお!」
「そんなルールないから!お願いだよ!私、斬られるなら善逸くんにがいいの!」

バッと両腕を広げて善逸くんを見つめると、善逸くんはさっきまで泣きそうに歪ませていた顔をキョトンとさせて「えっ」と何かに驚いている。何だ?と不思議に思っていたら、善逸くんの後ろから他の鬼殺隊チームの子が走ってくるのが見えた。善逸くんもそれに気付いたんだろう、私を見つめ返しながら、紙製日輪刀の柄を握り直す。

「ごめんね、名前ちゃん。でもその、そんなカチューシャつけて、その台詞は反則だと思うわけで…!!」

肩口を、斬るというより優しく撫でながら、眉をぎゅうと寄せて物言いたげな顔をした善逸くんがぽそりと呟いた。何だろ、私、鬼チームのルールを何かしら破ってしまったんだろうか。
善逸くんはすぐにくるりと背を向けて、向こうから来たチームメイトと合流し「次行こう!次!」と駆けていく。善逸くんに確認できなくなった私はモヤモヤとした気持ちのまま一人教室へ戻り、他の子達に聞いてみたけど、特にルール違反したようなこともなさそうだった。

何だったんだろ…と不思議に思う私は、全員斬り終わって教室に帰ってきた善逸くんが私を見ながら軽く頭を抱えていたことを、全く知らなかった。

奇天烈な性癖がね?
芽生えちゃう寸前でしたよあれは、ええ。



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