3000HITお礼部屋 | ナノ
日日是好日
びいどろ玉の恋模様(キメ学パロ)

高等部二年、我妻善逸。
中等部三年、みょうじなまえ。
この二人が交際していることを知らない人間は、このキメツ学園にはただの一人としていない。それくらい有名な話だった。ただし、あいつら変じゃね?という意味で。

「あー!こんなとこから音するから何してるのかと思ったら!やっぱり掃除してるじゃんー!」
「善逸様!委員会活動お疲れ様でした」
「ありがとう〜!なまえちゃん、高等部のトイレまで掃除することにしたの?そんなのいいのにぃー!中等部校舎のお掃除だけでも大変でしょ?」
「いいえ、やはり皆さんには綺麗な環境で用を足していただきたいですから」

みょうじなまえは生粋の働き者だった。三年前にこの学園へ入学してからだんだんと広がっていった彼女の清掃領域は、今や中等部校舎を飛び越えて高等部校舎まで侵食しようとし始めていた。
もともと家事好きのなまえにとって、人々の過ごしやすい環境を整えることは一番の生き甲斐だった。だからその一環として、休み時間や放課後を駆使し学園中をピカピカに磨き上げてまわっている。用務員である鱗滝左近次も、あの子が入学してきて途端に仕事が楽になった…としみじみこぼしている程だ。

そんななまえと、中高一貫だとはいえ普通にしていれば交流することもなかったはずの善逸。二人の出会いは、祖母であるひさが山で育った野生児伊之助の里親となり、その初めての登校になまえが付き添っていた時に起こった。

「到着しましたので前ボタンを留めてください」
「あぁ!?やなこった!!」
「留めます」
「おいこらやめろっつってんだろうが!」

校門の前で何やらわちゃわちゃと騒ぐ二人に対し、いちゃつくんなら他所でやってくれよ…と服装チェック中だった善逸は心底うんざりしていた。新学期一日目から風紀委員の仕事でテンション下がってたところにこれだから本当にさあ…と。
しかし、吹き抜けた春の風に煽られた髪を片手で抑えながら不意に善逸を視界に捉えたなまえのびいどろ玉の瞳と目が合った瞬間、善逸は恋という名の雷に、見事に打ちぬかれてしまっていた。もともと女の子好きの善逸ではあったが、その衝撃は今まで感じたどんなものより強く、そして情熱的だったんだよねえ…と、友人の炭治郎は後に耳にタコができるほど聞かされることになる。

「き、君、お名前は?そいつとお付き合いしてるの?してないなら、俺と、結婚してくれないか!!」
「…はい、わかりました」

このやりとりに一番ギョッとしたのは、当人達ではなく周りにいた登校中の生徒達だった。話の流れからしてこの二人はどう見ても初対面なのに、その状態で求婚をする善逸も善逸だし、ノータイムで受け入れるなまえもなまえである。でも二人とも、うまく説明はできないけれど強く感じていたらしい。この出会いは運命で、この人が人生を添い遂げる相手なのだと。伊之助はせっかく留めたボタンを全て外し直して鼻をほじりながら、見つめ合う善逸となまえを興味なさげに眺めていた。
そうして二人は、学園で知らない人がいないほどの変わり者カップルとして有名になったのだった。その上に、善逸の騒がしさとなまえの日課がさらに拍車をかけ続けている状態である。

「お待たせしてホントにごめんねえ!帰ろう!」
「はい。スーパーに寄っても構いませんか?」
「オッケー!今日は何を作ってくれるの?もちろん荷物はぜーんぶ!俺が持つからね!好きなだけ買っちゃってよ!」
「ふふ、はい。今日は何を召し上がりたいですか?」
「えー!ううーん!何でも美味しく食べちゃうけど、そうだなあ、やっぱりベタに肉じゃがとかかなあ!?」
「かしこまりました。うんと美味しいものを作れるように頑張りますね」

そう会話をしながら二人は仲良く家路に着く。交際を始めてから、なまえは男三人で暮らす善逸の家へ週に一、二日ほど家事をしに行くようになっていた。平日はその日食べる夕飯と温めるだけでいいおかずを幾つか作り置き、共に食卓を囲んで帰る。休日であればそこに家中の掃除も加わって、善逸の家は今や学校同様に、綺麗に整理整頓されていた。

夕方のスーパーは主婦や仕事帰りのサラリーマンで大変に混雑していた。耳のいい善逸にとってその環境は少しガチャガチャと煩すぎるところもあったが、それでも彼はとても幸せだった。買い物カゴを乗せたカートを押しながら、愛しい女の子とあれこれ相談しつつ歩き回るのがたまらなく楽しくて。

「…はい、ジャガイモ、と。これでお野菜もお肉もばっちりだね。他に必要なものはある?」
「調味料の不足もなかったはずなので、もう大丈夫です」
「よっし!じゃあパパッとお支払いしちゃおう!じいちゃんがお腹ぺこぺこにして待ってるよ!」

スーパーで善逸がそう言った通り、手早く買い物を済ませて彼の家に帰れば、育ての親である桑島慈悟郎が優しく微笑みつつ腹を撫でながら玄関まで出迎えにきた。

「おぉー、二人ともおかえり。なまえちゃんは今日もありがとう。夕飯には何を作ってもらえるんじゃろうか、ワシはもう腹が減って仕方ないわい」
「ほら、ね?ただいまー、じいちゃん」
「ふふ。ただいま帰りました。すぐに支度しますね」
「俺も手伝うよ!」

とは言ってもなまえの作業スピードは常人がついていけるようなものではない。善逸は彼女の邪魔にならないよう、使い終わった調理器具を片付けたり食卓を綺麗に拭きあげたりしながら、エプロン姿で台所内を瞬間移動し続けるなまえを盗み見てニヤニヤする。慈悟郎はそんな善逸を、全くあやつはデレデレと鼻の下ばかり伸ばしおって…と呆れ半分愛しさ半分で見守っていた。
肉じゃがを煮込んで一旦冷まし味を染み込ませている間に完成した作り置きのおかずも全てタッパーに詰めたところで、なまえは漸く、ふうと息を吐いた。するとリビングで慈悟郎の肩を揉んでいた善逸がすぐに気付いて台所まで飛んでくる。

「完成したの?あとは盛るだけ?」
「はい。もう少しだけお待ちくださいね」
「運ぶのは俺がやるよ!お疲れ様、なまえちゃん!」

艶々の白ごはんに、ほうれん草の白あえ、絶妙な塩加減の焼き魚、なめこのお味噌汁と、善逸リクエストの肉じゃが。一汁三菜が見事に並べられた食卓につきながら、慈悟郎は幸せそうに頬を緩めた。

「ほほー!今日も素晴らしいもんじゃ!ワシが言うのも何じゃが、君のように完璧な子の相手が善逸で本当にいいのかのう…?」
「ちょ、ちょっとじいちゃん!?」
「いいえ、まだまだ、今の私では善逸様と釣り合わないくらいです。善逸様ほど心優しく素敵な方は他にいらっしゃいませんから」
「なまえちゃん………!好き……!!」
「私も好きです、善逸様」
「はっはっは!今日も仲が良くて何よりじゃな。さあ、冷めないうちにいただくとしよう」

美味い美味いと食事を平らげていく二人を見てなまえは今日もほっと胸を撫で下ろす。台所の方にラップをかけて置いてあるもう一人分のそれも、こんな風に食べてもらえていたらいいんだけど…と、ちらと目をやりながら思った。そんななまえの変化にも音で気付いた善逸が「兄貴、いつも綺麗に完食してるよ。素直に美味しいって言えばいいのにねえ?」と眉を下げ苦笑してみせた。

学校でのこと、ひさと伊之助のこと、沢山の話をしながら食事を終え、片付けまで済んだ頃にはもう20時を回っていた。いつも欠かさず送っていく善逸と一緒に玄関に立ったなまえを、慈悟郎が見送りにくる。

「今日も美味かったよ。ひささんにもよろしく伝えておくれ」
「はい。祖母も、また近々お茶を飲みにきてくださいと言ってました」
「ほっほっ。是非そうさせてもらおう。二人とも気をつけてな」

慈悟郎に手を振り開けようとしたドアがちょうどそのタイミングで向こう側から開き、善逸はあれ?と首を傾げた。現れたのは不機嫌そうに顔を顰めた制服姿の獪岳だった。

「あれ、兄貴?おかえり。今日早くね?」
「うっせえよカス」
「おかえりって言っただけなんだけど!?ひどくない!?」
「邪魔だ。とっとと失せろ」

何をしているのかまではわからないが、常に帰りの遅い獪岳となまえが顔を合わせたのは、久しぶりのことだった。なまえは「おかえりなさいませ」とだけ声をかけて、それ以上機嫌を損ねないよう素早く壁際に寄り、前を通り過ぎた獪岳に背を向けて家を出ようとした。しかし彼は靴を脱ぎながら「………オイ」と声だけでなまえを呼び止めた。オイって何だよこの子にはなまえちゃんっていう素敵で可憐な名前があるんだよちゃんと名前を呼べよなまえちゃんが怖がるだろうが!と一息で喚く善逸を一切無視し、ボソリと呟く。

「ゼリー。あれは悪くなかった」
「…!」

言葉足らずなそれでも、なまえにはすぐにわかった。先週、ひさの知り合いからいただいた桃を使って作った桃の果肉入りゼリー。わざわざ口にしたところを見ると、悪くなかったという表現を用いてはいるが相当お気に召したらしい。

「また、お作りしますね」

獪岳は振り返らずリビングへ入ってしまったが、なまえはそれで十分だった。夜道を歩きながらもまだ弾んだ音を鳴らしているなまえに、善逸は良かったねと自分も嬉しく思う反面、他の男のことばかり考えられるのも癪だな…と口を尖らせる。
だから、なまえの手を握った。そうすれば彼女はぽっと頬を染めて、自分のことだけをそのびいどろ玉に映してくれるとわかっているから。

「週末は時間ある?俺、なまえちゃんのこと独り占めしたい気分なんですけど」
「ひ、ひとりじめ、ですか…?」
「そう!家来てもらってばかりで今まで全然できてなかったからさ、デートしよ!デート!どこに行きたい?映画館?ショッピングセンター?遊園地?」
「善逸様と一緒になら、どこへでも。これからゆっくり順番に、全部行きましょう」
「うん!じゃあとりあえず今週は映画ね!」

たまに酷いと泣き叫ぶようなこともあるけれど、毎日大切な人たちに囲まれていて、隣では愛しい愛しい女の子が自分と同じ気持ちで微笑んでくれている。そんな日々が何より幸せで、善逸は満足げになまえの手をぎゅうと握りしめながら、今日も鼻歌混じりに歩いていくのだった。ああ、毎日が良い日だ。




雪音様『キメツ学園の生徒になった二人』『既に付き合っていて現代でもラブラブする』というリクエスト内容でしたが、いかがでしょうか?
ヤマもオチもないお話になってしまったのですけれども、戦いのない平凡な毎日をただただ幸せに生きていく二人…というのをとにかく意識して書いてみました。雪音様のお気に召していただけたら幸いです。
『びいどろ玉』は好きだと言っていただける機会が多くて本当に嬉しいです。そんな二人のキメツ学園パロ、書いていて私もとても楽しかったです。
この度は素敵なリクエストをどうもありがとうございました!

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -