3000HITお礼部屋 | ナノ
垣間見た未来は幸せに満ちて
びいどろ玉の恋模様(その後)

なまえちゃんと二人で山を降りて売りに来た炭も、ありがたいことに完売間近となった頃。次はあっちの通りへ行こうか、と二人で相談していると、馴染みの奥さんが「善ちゃん!なまえちゃん!すまないが頼まれごとをされてくれないかい?」と慌てた様子で声をかけてきた。

「子守、ですか?」
「そうなの。うちの子二人を半刻ほど見ててもらえないかい?どうしても行かなきゃいけない用事ができちまって…。代わりと言っては何だけど、残りの炭は全部うちで買わせてもらうから」
「もちろん構いませんよ。家の中で見させてもらえばいいんですか?」
「ああ、そうしとくれ!じゃあ申し訳ないけど頼んだよ!!」

快諾すると、奥さんは本当に時間がなかったらしく大慌てで駆けていった。俺もなまえちゃんも兄弟がいた経験はないから多少の不安はあるけど、半刻ならまあどうとでもなるでしょ。ひとり前のお客さんに炭を渡すため地面に下ろしていた籠を持ち上げ、カララ、と戸を開けて早速家の中へお邪魔する。入ってすぐ隣の二畳間にいた小さな女の子と男の子が二人、不思議そうに俺たちを見返してきた。

「こんにちは。さっきのお話は聞こえていましたか?お母さんがご用事で出掛けられたので、少しの間私たちと遊んでいましょう」
「お名前は?お名前はなんていうのかなあ?」

見た感じ、女の子がお姉ちゃんで、男の子が弟。五歳くらいと二、三歳ってところか。二人仲良くお手玉で遊んでいたらしい。「わたし、ゆきこ。この子は、たろう」とお姉ちゃんの方が教えてくれて、こっちもそれぞれ自分の名前を伝えたところ、なかなか人懐っこい子達みたいですぐに俺たちの方へ駆け寄ってきて足元に抱きついた。

「おねえちゃん、おはじき遊びしよう?」
「はい、わかりました」
「じゃあたろうはこっちだな。おはじき間違って食べちゃったら危ないし、お兄ちゃんと遊ぼう」
「はぁーい」

ゆきこちゃんは早速二畳間に駆け戻って、自分のものらしい折り紙で装飾された小さな玩具箱の中からおはじきを取り出し始める。なまえちゃんもそれについて行ったから、俺はたろうを抱え上げ、奥にある居間の方へ足を進めた。
どうとでも、なんて甘く見ていたけれど、二歳児の体力というのはなかなかに無尽蔵だった。部屋の中で追いかけっこをしたり、足が痛くならないよう小休止で坪庭に出てちょっとした水遊びをしてみたりしても、疲れて止まってくれる気配は全くなかった。その勢いにたじたじになりながら今度は笑い転げるたろうの足の裏をこちょこちょとしつつ、少しばかりの癒しを求めてなまえちゃんの様子を盗み見る。柔らかい笑顔を浮かべてゆきこちゃんを見守るその眼差しに、胸がどくんと高鳴った。背後の窓から差し込む外の明るさがまるで後光のように見えた。
ああ、いいなあ。子供と接するなまえちゃんは、あんな顔をするんだあ。そう顔を溶けさせていたら、おはじきの次はあやとりをして楽しげに遊んでいたゆきこちゃんが突然もじもじとし始めた。すぐそれに気付いた桜ちゃんが「どうしましたか?」と問うと、ゆきこちゃんは恥ずかしげに「かわやに、いきたい」と呟く。

「ねえおにいちゃん、ついてきて…」
「ん?俺?俺でいいの?」
「うん…。かわや、お化けがいるの。怖いから、おにいちゃんについてきてほしい…」
「ああーなるほどね、用心棒ってわけね。もちろんいいよ!」

坪庭に繋がる縁側を進んだ先がちょうど厠になっているみたいだ。とててと駆けてきたゆきこちゃんが俺の手を引っ張ってその前まで連れて行き、「おにいちゃん、ぜったい、そこにいてね。離れないでね」と念を押して中に入っていく。少しだけ経って、ありがとうと問題なく出てきたゆきこちゃんと一緒に居間へ戻れば、なまえちゃんはちょこんと正座をしていて、その膝の上にたろうが向き合いまたがる形で乗っていた。
さして広くない家の中、厠の前にいてなまえちゃん達から目を離していたのはほんのちょっとの間だけだ。なのに彼女からは、さっきまではさせていなかった、目一杯戸惑う音が何故か聞こえてくる。
なんで?と不思議に思ってさらに近付くと、見える角度がずれ、たろうの形のいい頭の向こう側にあった衝撃的な光景が視界に飛び込んできた。小さな手がなまえちゃんの両襟をむんずと掴み、その胸元をそれはもう大胆にはだけさせていた。慎ましやかな谷間が、俺の煩悩をこれでもかと刺激する。

「ッッッぬぁにしてんだ、こんガキャァァアァァ!!??」
「ぜ、善逸様…!子供のすることですから…」

目が飛び出るかと思った。いや、もう出てるかも。それくらいの勢いのまま怒鳴りつけてしまったせいで、たろうの小さな体がびくりと跳ねた。堰を切ったように激しく泣き出したたろうを大慌てで抱き上げれば、なまえちゃんはその下でいそいそと崩れた胸元を整えながら俺を宥める。ああ、ごめんね、ごめんね。でも女性にあんなことするのはよくないと思うよ!?
ゆきこちゃんも加わって三人で一生懸命あやしたおかげで、たろうはその涙の勢いを思うと予想外に早く落ち着いてくれた。だけど潤んだ瞳はまだ一心不乱になまえちゃんの胸元を見つめ続けている。そして、「…ぱい!」と一言。俺もなまえちゃんも、言葉の意味が一瞬理解できなくて固まってしまった。

「ぱい、のみのみしたいの。ちょーだい、ぱいちょーだい!」

たろうはそう訴えかけながら、俺の腕の中からなまえちゃんの胸元へ必死に両手を伸ばす。ぱい、つまりは母乳を求めてあんなことをしたのかよ、こいつは。でもそんな無理難題言われたって、はいどうぞと対応できるものでもない。なのになまえちゃんは眉間に皺を寄せ、めちゃくちゃ深刻そうに、言った。

「どうしたら良いんでしょうか。私、まだ出ません」

………。
っええ!そりゃあそうでしょうね!?そういう特異体質の人を除いて、赤子を産んでない人間はたとえ女性であっても出ないでしょうよ!!
なまえちゃんは「とりあえず咥えさせるだけでも…?」なんてさらにとんでもないことを呟きながら先程整えたばかりのあわせを弄り始めたものだから、思わず昇天しそうになった。将来を誓い合った仲である俺だってまだ見ることさえ叶っていないそこを、何が悲しくてその辺のガキに咥えさせなければならんのか。
つまりあれだ、俺とたくさん遊んだから、たろうは喉が渇いてしまった。それで何か飲みたい、そういうことでしょ!?

「たろうくん!?君、もうパイ以外も飲めるお年頃だよねえ!?飲めるものならお茶でもお白湯でもいいんだよねえ!?今すぐ用意してやるから、ここでちょっと待ってなさいねえ!?」

もう鬼殺隊士だった頃みたいに素早くは動けない。でも気持ち的にはそれくらい急いで台所へ移動し火を起こす。湯を沸かしている間も、今もぐずり続けなまえちゃんにしがみついているたろうがまたその胸元を不必要にまさぐらないか、ギンギンと目を光らせ見張ることは怠らない。
団扇で仰ぎ倒してなんとか飲める温度に冷ました白湯をゼエハア息切れしつつ飲ませていると、用事の済んだらしい奥さんがようやっと帰ってきてくれた。

「助かったよ、本当にありがとうねえ!……何かあったのかい…?」
「いやまあ、はは、何でもないです。二人ともいい子だったんで」

不思議そうにする奥さんの前ではなんとか取り繕ってみせたけど、なまえちゃんは少し赤い顔で苦笑していたし、気を揉み体も酷使した俺は相当クタクタになってしまっていた。子守は、大変だ。といってもこの二人はまだおとなしい方なんだろうな。たった半刻だけだったのに、俺となまえちゃんは子育ての大変さを痛感した。世の中の母ちゃん達には感謝してもしきれねえよ…。



別れを渋るゆきこちゃんとたろうとにまた遊びに来るからと約束をして、空になった籠を背負い山を登る。同じく空のそれを背負ったなまえちゃんは不意に、ふふ、と頬を緩ませた。なまえちゃんまで籠を背負っているのは、炭治郎の家を出る時俺が全部持つと言っても頑なに了承してくれなくて、結局は半分ずつにすることで渋々納得してくれたからだ。

「今日はまるで、未来を先取りできたみたいでとても楽しかったです」
「あ、それは俺も思ったよ。子供ができたらなまえちゃんはこんな風にお世話するんだろうな〜って」

そういう話題になれば、まだ祝言をあげていないといえ何れそうしようと約束している二人だもの、男の子と女の子のどっちが欲しい?なんて話に発展するのは当たり前で。俺から問われたなまえちゃんはうぅーんと少し悩んだ後、にこと微笑んで俺を見上げた。

「私はやはり男の子が来てくれたら良いなと思います。きっと善逸様にそっくりな、優しくて勇敢で格好のいい子になります」
「えー。俺はなまえちゃんにそっくりな可愛い女の子が欲しいよー」

さっきゆきこちゃんと遊んでいたなまえちゃんの表情や音をぽわぽわと思い出す。なまえちゃんと、なまえちゃんに似た可愛い我が子達に囲まれたら俺、幸せ過ぎてどうにかなっちゃうかも。一人と言わず、二人三人、いやもっと欲しいな。俺うんと頑張って稼いでくるからさ。何人いたって、不自由な生活は絶対させないからさ。
そんな風に、子供たちに囲まれた未来を思い描いていたのは俺だけじゃなかったみたい。

「たくさん、こさえましょう。男の子も、女の子も。きっと賑やかで楽しい家になります」
「うん!そうだねえ!」

でもできれば女の子だらけがいいな。男の子だと俺が嫉妬しちゃいますからね。
それにね、未来を想像して幸せそうに笑っているなまえちゃんの横で、純粋なことだけでは終われないのが俺という人間なわけでして。たくさん子供を作ろうと思ったらその分たくさん励むことになるんですが、なまえちゃんはその辺りどうお考えなんでしょうか。直接聞けるわけないから、胸の内でちょこっとだけそう思った。




未玖里様『近所の幼子を預かる事になった二人の擬似子育て』ということで、『子供とヒロインちゃんのセットに善逸の暴走』という部分を特に意識して書いてみました。敢えて割とベタな展開にしてみたのですが、いかがでしたか…?
お祝いと、ストライクだなんて勿体ないお言葉をいただきまして、すごく光栄です。善逸くん素敵ですよね。私も大好きです。笑
今後も少しずつにはなりますが読み物を増やしてまいりますので、お時間ある時にまた遊びに来てやってください。
素敵なリクエストを送っていただきまして、本当にありがとうございました!!


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