3000HITお礼部屋 | ナノ
「あなたは特別な人」
拍手お礼SS(〇ッピーセット善逸)

「え、どうやって告白したらいいのかわからない?」

バイト先の更衣室で最近俺が頭を悩ませている一番の理由を打ち明けると、友人である炭治郎は腰に制服のエプロンを巻きつけながら素っ頓狂な声をあげた。

「連絡先を渡したんじゃないのか?」
「渡したよ!やりとりだって毎日してる!でもさあ!?相手は女子高生だよぉ!?よくよく考えたらなんか禁断っていうか、そんな感じがするじゃない!?」

善逸も数年前まで高校生だったのに何を言ってるんだ…と呆れた顔をされてしまったが、これはとても切実な問題なのである。俺も支給されている炭治郎のとは少し違うエプロンを巻いてから、ガッと勢いよく頭を抱えた。

「ココア淹れてあげるなんて軽々しく言っちゃったけどさあ、親御さんの同意なしに女子高生を部屋に連れ込んだら俺、逮捕されるよねえ!?犯罪者になっちゃうよねえ!?」
「…確かに、そういうニュースはたまに見るような気がするな。通報されてしまったら、デートだけでも誘拐罪になり得るとか…?」

ほらやっぱりいいいい!!と思わず叫び声が漏れた。世知辛い世の中だよ、まったく。そりゃ実際に犯罪なこともあるだろうから、警察の方々にはそれはもう頑張っていただきたいですよ。でもプラトニックなやつならさあ、許容する心の広さも必要なんじゃないの!?

「よくわからん金髪の男が、娘さんとお付き合いしたいですココア飲ましてあげたいから家に連れ込みたいでぇす!なんて突然挨拶に行っても絶対許してもらえねえよ!!殴られるの!?殴られちゃうの、俺!?イイヤァァァァ!!」

両頬に手を当てて叫ぶと、「こ、こら、外まで聞こえてしまうぞ、」とすっかり身支度の整った炭治郎に宥められた。でも仕方ないじゃないの。あの日エスプレッソをきっかけに言葉を交わしてから、俺はすっかり彼女に夢中になってしまったんだから。
恥ずかし気にしながらも毎日お店へやってきて、本当は苦手だというエスプレッソを一生懸命飲みながら、俺のことをちらちら盗み見ている。一度お話ししたときに、ふとしたことから俺へ抱いてくれているらしい恋心の音は覚えてしまったから、それからずっと、同じ音を鳴らし続けている彼女を無視し続けることなんてできるはずがなかった。

我慢ならなくてチーフ達にばれないよう内緒で連絡先を渡したら、その夜自室でゴロゴロしている頃にメッセージが届いた。そわそわと待機し続けやっと来たそれをかぶりつきで読み、彼女の名前がなまえちゃんだと知った時、天使のような彼女にあまりにもぴったりすぎる名前を付けてくれたご両親に五体投地で感謝すらした。

「っまずい!もう時間だ!」
「うわ、やば!」

炭治郎の焦った声にハッとして時計を確認すると、もうシフトに入る時間だった。このままではなまえちゃんのお義父様より先に、マネージャーの冨岡さんに殴られてしまう。俺は慌ててキャスケット帽をかぶると、炭治郎の後を追って更衣室を飛び出した。
ギリギリでしたね〜?と言外に色々なものを含んでいそうな微笑みを浮かべるしのぶさんに見守られヘコヘコしながら、ひとつ前のシフトに入っていた同僚と交代する。店内には放課後のひと時を満喫する学生たちの姿がだんだん多くなってきていた。
猪突猛進!と元気にデリバリーへ出て行く伊之助を見送りつつ、次から次に入る注文に必死で対応していると、待ち望んだ彼女の音が今日もやっと聞こえてきた。

「い、いらっしゃいませぇ〜」
「こんにちは」

順番がきてカウンターに歩み寄ったなまえちゃんは、エスプレッソをひとつ、と指先でメニューをさしながら言う。ああ今日も可愛いなあとあまりにも見つめすぎたせいで目が合って、彼女は少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。あああ、ああッッ!!
もう、いいかなあ?告白しちゃってもいいかなあ?でも俺だってさすがに犯罪者になりたいわけではない。じゃあどうすればいいのか。少し考えてみたんだけども、俺となまえちゃんの関係性にとって重要なキーワード、それはずばり『透明性』だと思う。トレイを手に遠ざかっていくなまえちゃんの背中を見送りながら、俺は決意を固めた。ちょうど明日は前の人との兼ね合いで、いつもシフトに入るより1時間ほど遅れての勤務開始になる予定だった。

翌日、いつものようにお店にやってきたなまえちゃんは、入ってすぐの席についてコーヒー片手に「こっちだよ!」と声をかけた俺にとても驚いているようだった。小走りで駆け寄ってくるなまえちゃんも可愛い。「バイト中だとあんまり話せないからさ、今日はシフトに入る前に少し話したいなと思って」と説明すれば、彼女は途端に花が咲いたように笑って、「失礼します…」と言いながら俺の正面に腰掛けた。

「初めて、私服の我妻さん見ました…!」
「えへへ。確かにそうだねえ。変なとこないかなあ?」
「あるわけないです!その、かっこいい、と思います」
「あ、ありがとう!!」

和やかに話を交わす俺たちの様子を、既に働いている炭治郎がカウンターの中からニコニコ笑って見守ってくれている。アイツはつまり、『透明性』に必要不可欠な『第三者』である。俺がふしだらなことは決して行っていないと証明する役になってくれないか。そう昨日バイト上がりに頼んだら、優しい炭治郎は「ああ!いいぞ!」と快く引き受けてくれた。

さあこれで舞台は整ったというわけだ。今日はいい天気だねなんて世間話もそこそこに、俺は早速なまえちゃんをまっすぐ見つめて本題を切り出す。

「突然ごめんね。俺、なまえちゃんのことが好きです…!!」
「えっ!?わ、私も、我妻さんが好きです…っ」
「じゃあ俺とお付き合い、してくれる…?」
「もっ、もちろんです!よろしくお願いします…!」

あっさり。頬を真っ赤に染めたなまえちゃんは俺の予想通り交際の申し出を受け入れてくれた。聞こえてくる音でこうなるとある程度わかってはいたけど、それでも言い知れない喜びが体中を駆け巡って思わず震えてしまった。でも、重要なのはここからだ。俺が今から話すことを聞いたら、そういうことならやっぱりなしで、と言われてしまう可能性も、なくはない。

「でもね…、俺前に、なまえちゃんにならいつでもココア淹れてあげるって言ったんだけどさ、やっぱり家に連れてくのはまずいと思うんだよね。それどころかデートもまだ、未成年的な意味でグレーというか…」
「、あー……」

カウンターの方から「頑張れ、頑張れ善逸」と炭治郎が念を送ってくれているのがわかる。それに背中を押されて俺がぼそぼそと言い訳を重ねると、なまえちゃんもそういうニュースを見たことがあるのだろう、納得したように声を漏らした。だからこうやって『透明性』を確保したうえで、ちょっとずつ仲を深めていければと思うんだけど!俺がそう提案する前に、なまえちゃんは焦った顔でこちらへ身を乗り出してきた。

「あの!じゃあこれからも、私の方からお店に来ちゃ駄目ですか…!?制服の我妻さん、すごくかっこいいから、その、もっと見ていたいというのもあるし…」
「も、もちろんいいよぉ!?というかそうしてくれると嬉しい!俺もなまえちゃんに会いたいから!」

秒で振られてしまうかもしれないとビクビクしていたのは俺の方だったのに、俺の言葉を聞いたなまえちゃんは安心したようにほっと息を吐いて椅子に腰掛け直した。年齢のせいでこの恋が実らなくなってしまうかもしれないと、なまえちゃんも俺と同じように不安になってくれたのだろうか。
「こうやってバイトの前とか後に少し話すくらいならセーフ、ってことでいいよねえ…?」と情けなく眉を下げる俺にも、なまえちゃんは「はい、きっと」と嬉しそうにくすくす笑いながら同意してくれる。

腕時計を確認すると、あと10分と少しでバイトの時間だった。俺がシフトに入ったら、この子はきっといつものようにカウンターへやってきて、エスプレッソを頼むんだろう。前に一度、お金は俺が払うから甘いの飲みなよ、と言ってみたこともあるんだけど、なまえちゃんは頑なに首を縦に振らなかったから。
本当は苦手なそれを飲む時の苦しげな音を思い出して、俺は今日告白が成功したら伝えたかったもうひとつの話を切り出した。

「なまえちゃんが会いに来てくれるのはめちゃくちゃ嬉しいよ。だから無理しない範囲で来てくれたらって思うの。でもさ、これからはやっぱりエスプレッソはやめて、マカロンにしなよ」
「…? どうしてですか?」
「なまえちゃんは、マカロンを贈り物にする意味って知ってる?まあ俺の場合は、贈るっていうか注文されたものを渡してるだけなんですけど…」
「わ、わかりません」

キョトンとする、その顔すら愛しい。いよいよ時間がないのと、恥ずかしくて言い逃げてしまいたい気持ちもあって、俺は飲みほしたコーヒーのカップを片手に腰を浮かせながらなまえちゃんのスマホを指差した。

「じゃあそれで調べてみて。エスプレッソと違ってマカロンは既製品だけどさ、俺はこれからいつもそういう気持ちでなまえちゃんに渡すことにするから」

それじゃまた後で!と計画通り颯爽と席を後にした俺は、滑り込んだスタッフルームのスライドドアから、少しだけ隙間を開けてなまえちゃんの様子を遠目に確認する。不思議そうにスマホをタップした後、目を丸くしつつ真っ赤になって画面を凝視しているところから察するに、俺のお願い通り早速調べてその意味を把握してくれたらしい。ああー、可愛いなあもう。
何もかもが幸せ過ぎて、思わずスキップも飛び出すルンルン気分で制服に着替えてからカウンター内に立つと、なまえちゃんがいつもよりさらに恥ずかしそうにしながら、もじもじとこちらに近付いてくる。

「す、ストロベリーのマカロンひとつと、お水をください」
「はい、かしこまりました!」

カウンター越しに目があって、俺たちは思わず笑い合っていた。だってお互い、可笑しなくらい顔が真っ赤だったから。お会計を済ませ注文されたマカロンとお水をトレイに載せてから、約束した通り想いを込めてなまえちゃんに差し出す。
受け取ったなまえちゃんはまた頬を染めて幸せそうに微笑みながらそれを受け取ってくれた。昨日と同じように、離れていくその背中を見ながら悶える。あああ、ああッッ!!あの子、今日から俺の彼女なんですよ。可愛すぎでは?可愛すぎますよね?

未成年を卒業するまでなんて、到底待てそうにない。なまえちゃんのお義父様とお義母様から認められる立派な男になるにはどうすればいいんだろう。これは近々、炭治郎と魂の話し合いをする必要があるな。視界の端で悪寒を感じたのかぶるりと震えた炭治郎を捉えながら、通常業務に励む傍ら俺なりに作戦を立て始めたのだった。その間も、向こうに座って幸せそうにマカロンを頬張るなまえちゃんからは、甘い甘い恋の音が響き続けていた。




由美様いつものmailに加えて、素敵なリクエストをどうもありがとうございました!
『善逸くんがヒロインちゃんに告白するお話。告白は面と向かって、悩んだり焦ったりする可愛い善逸くん』とのことでしたが、いかがでしたでしょうか…?
告白そのものはさらりと済みましたが、二人の今後の関係性について悩ませてみました。
実は元のSSを書いた直後にマカロンの意味を知って、ああ〜どこかでこれ出したいな〜と思っていたので、こうしてリクエストしていただいたことで実際に書く機会ができて嬉しかったです。
由美様のお気に召していただけましたら幸いです。いつも本当にありがとうございます!

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -