拍手 | ナノ

Clap

ご訪問&拍手ありがとうございます!
何かお一言でもいただけましたらば
飛び跳ねて喜びます。(返信はmemoにて)


↓以下、拍手感謝のSS(現パロ善逸君)。
よろしければ、どうぞ読んでいってやってください。


-------------

今流行りのオンライン飲み会でもしようか。

そう炭治郎から誘われていたまさにその日、俺はこっぴどい残業に見舞われて終電ギリギリの電車に揺られながら帰宅していた。まだ外にいるので通話に参加はできないものの、スマホで飲み部屋の様子を伺うとまだみんなオンラインになっている。その中には俺の想い人もしっかり含まれていた。
明日は土曜だし、画面越しとはいえ久々に顔を突き合わせての飲み会はこんな時間まで通話が終わらないほど盛り上がっているみたいだ。俺は一刻も早く自分も参加したいとじれったく思いながら一つ一つ過ぎていく駅を目で数えていった。
最寄り駅に到着し、駅前のコンビニで適当に酒とつまみを買って、家まで軽く走る。…よし、まだみんな居るな。俺は部屋着に着替えるどころか靴を脱ぐのも後回しにして、さっそく飲み部屋へと接続した。

『もぉー!みんなだけ盛り上がっててずるいぞ!』
『げっ』
『おっ。善逸、間に合ったな!仕事終わったのか?家?』
『あっ、ああうん家、だけど、え…?今『げっ』って言ったの誰…?』

本当は聞かなくてもわかる。もちろん声だけでもそうだし、恐らく『げっ』と言った張本人はそれと同時にカメラ機能をオフにしたのか、一人だけ突然アイコン表示に切り替わってしまったから。
それは俺が秘かに想いを寄せているあの子だったわけで、あからさまに焦ったような嫌そうな発言をされてしまった俺は疲れもあって一瞬で泣きそうになってしまった。玄関にコンビニの袋を置いて、両手ですがるようにスマホを握りしめる。

『わ、私デス…。いやごめん、もうこんな時間だし、まさか善逸くんが来ると思ってなくて、びっくりしちゃって…』
『なんなのォ…!?来ちゃダメだったわけえ!?』
『駄目とかじゃないけど!けど…!』

彼女の、ぬいぐるみ写真のアイコンがピカピカ光り、苦し紛れの言い訳が聞こえてくる。俺が玄関から先へ移動するのも忘れてその言葉の続きを待っていると、彼女以外の参加メンバーが皆くすくすと笑い始めた。何なの。一体何だって言うの!
俺がそう喚く前に、炭治郎が皆の代表を買って出て説明してくれた。

『実はな、今日はもうすっぴんらしいんだ。それを善逸に見られたくないから焦ってるだけだよ』
『あっ。ちょ、たんじろ…っ』
『善逸が来る前、善逸くんがいないならメイク落とそうかな、とか、善逸くんにスッピン見られたら死ねる!とか、ずっと言ってたんだぞ』

相当酒が進んでいるらしい。頬を赤く染めた炭治郎は珍しくぺらぺらと、恐らく彼女が内緒にしてほしいと思っているであろう理由を話してしまった。アイコン表示が点滅しなくなる。その隣にはぽかんとまぬけな顔をした、一人だけスーツ姿の俺が居た。

そろそろお開きにするかねェ。あとはお二人だけでごゆっくり〜。とまるで最初からそうすると決めていたかのような連携具合で、メンバーたちが一人、また一人と部屋から退出していく。最後に炭治郎が『今度またゆっくり話そう。おやすみ、二人とも』とどこか締まりのない笑顔で手を振ったのを最後に、俺と、彼女のアイコン、それらだけが画面に残った。

『……すっぴん!見たいんですけど!!!』
『見られたくないって話してたって聞いてなかったの!?』
『聞いてたけど!でもみんなは見てたんでしょ!?俺が来る前、存分に拝んでたんでしょ!?』

なんで俺だけ!?と続けてみても、彼女は『いやでもやっぱり善逸くんには見せられない…』と弱々しく返してくるだけだ。
でもそこで俺は、はたと気付いた。みんなが突然、俺とこの子を二人きりにした理由。すっぴんを俺にだけは見られたくないのだと言う理由。俺の勘違いじゃなければそういうことなんじゃないかと思ってしまうわけなんだけども、とんでもない自惚れ野郎になってしまわないよう念のため確かめてみることにする。

『ね、ねえ、すっぴんをさ、俺だけに見られたくないってどういうこと?どういう気持ちなわけ…?』

我ながら必死そうな表情の俺の隣で、彼女のアイコンはしばらく沈黙していた。けれどほんの少しだけ待っていると、突然ピカピカととめどなく点滅し始める。

『善逸くんも来ると思ってたから画面越しとはいえばっちりおめかししてたのに。残業で来れなさそうって聞いたから、だからメイク落として寝る準備したのに。なんでこんなに遅れて来ちゃうの、ばかばかばか!』
『えっ、ご、ごめんね…?』
『いーえっ。…お仕事、お疲れ様!!』

酒が回って普段より饒舌になっているのは炭治郎だけじゃなかったみたいだ。彼女の可愛らしい愚痴に思わず謝ってしまったけど、画面上の俺はそれこそ他人に見られてはいけないんじゃないかと思う程、でろでろに破顔している。

ああ、これが普通の飲み会だったら、今すぐ彼女を抱きしめられるのに。俺は早く普段通りの日常に戻れと強く願いながら、『ねえ色々落ち付いたらさ、今度は二人だけで飲みに行かない…?』と早速切り出した。

-------------

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -