ブフオ | ナノ


kazuya.I

「名前っていつも時間通りだよね」

首を傾げる名前に一之瀬は構うことなく、時間を守るのは大切なことだよねーと向かいの席から笑った。何から何まで時間通りでなければ嫌な自分にとって、学校生活ほど癒しなものはない。決められた時間割に決められた活動をしていく毎日。それを初めて他人に指摘された。同じクラスの一之瀬一哉に。大して仲が良いわけでも、席が隣同士と言うわけでもない(今座っているのは違う子の席である)彼がいきなり話しかけてきて正直驚いたが、自然と話が出来る相手だと認識し「好きだから」と短い返答をして済ませた。とくに馴れ合うつもりも、考えを分かって欲しいというわけでもないので、当然の返答といえば当然である。そんな名前に興味を持った一之瀬はしきりに、ねえ!ねえ!と名前の名前を連呼した

「俺と付き合ってよ」
「何をですか?」
「だから!お付き合いだよお付き合い!恋人同士になろうってお誘い」

予想に反して、えーと言わんばかりの嫌そうな顔が返ってきたので一之瀬は驚く。今のは照れるところのはずなんだけどなと小さく肩を押してたが、こんなことで折れる一之瀬一哉ではなかった。ずいっと先ほどよりも顔を名前に近づけ、まっすぐに名前を見つめながら話を続ける

「そんなに俺と付き合いたくない?」
「付き合いたいか付き合いたくないか、どちらかと言えば後者です」

遠まわしのわりに随分胸に刺さるフリ方。名前はあまり気にしてないのだろう。「そもそもなんで私なんですか?」「なんでって、名前が好きだからに決まってるじゃ!」「…決まってるんですか?」「うん。決まってる!」普通に答えたつもりだったが一之瀬が困ったような顔をしているのが分かった。でも、どうしてそんな顔をしているのかは分からなかった。一之瀬はまだまだ話を続ける

「ほかに好きな人がいるの?」
「いませんよ。」
「俺のことが嫌い?」
「さあ。そこまで一之瀬くんのこと知らないから」

それならいいこと思いついた!一之瀬が元気よく立ち上がって名前の両手を自分の手の中に包み込んで引き寄せた。「どうしましたか?」「名前にとって時間って本当に大切なものだよね」「はい」「悪いんだけど、その大切な時間を少し俺に分けてくれないかな?」「はあ…?」きちんと説明をしてくれないとわけがわからないという顔をしていると一之瀬がまた口を開く

「名前が俺に惚れるまでの時間をちょうだい。」







好きだと想いを伝えられたのは生まれてはじめての経験。もともと恋愛事にはまったく興味が無かったが、いざ告白をされると嫌な気はしなかった。恋愛事には興味はないが、一之瀬くんには少し興味が出た。一之瀬くんの温かい笑顔が好きで、あの笑顔を見ると優しい気持ちになれる気がして、なぜか元気が沸いてくる。ずっとどうしてなのか気になっていたところだった。それでも一之瀬くんと付き合うかどうかは、やっぱり別の話のような気がしてならなかったけど


『名前が俺に惚れるまでの時間をちょうだい。』よりによってこんな時間に一之瀬の言葉を思い出してしまうなんて…。"夜は人を感傷的にさせる"いつか誰かが言った言葉が一之瀬の言葉と一緒に頭の中に渦巻いて、いつもなら完全に眠りに落ちている時間なのにさっぱり眠る気になれないでいた。

別に好きなわけでもないのに、一之瀬くんの笑顔が早く見たいと思う自分がいるなんて…


そんな午前3時


空 100817