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秋は夕暮れ
季節は秋
この間まで長かった日もいつの間にか日の出が早くなって、日の入りは遅くなった
けど…
「あっちーぃ」
暑さだけは変わらない
「んぁ?アル、何見てんの?」
「空っ!」
大きく開け放たれた硝子扉の向こう、テラスのにスタイリッシュな椅子に腰掛けていたアルに近づくとそう返された
「1時間近くそうしてっけどさ、楽しい?」
「楽しい!」
「…あ、そう。ならいいけどさっ」
他に何をする訳でもなく、ただただ空を見上げるアル
何が楽しいんだか王子にはさっぱりだし
「兄様っ、すごーっく昔、日本にね秋は夕暮れがいいんだって言ってた女の人がいたんだよっ」
「あ?」
あー、なんかどっかで聞いたことあるなそれ
なんか呪文みたいに淡々と季節のいい所を言ってるヤツだよな確か
「ししっ、よく知ってんじゃん」
クシャクシャと柔らかな髪を撫でてやるとアルは嬉しそうに笑いながら空を指差す
「アルはね、空が一番好きなの」
「何でだよ?」
「苦しくなるとね、人って俯いちゃう。そしたらね、見えるのは地面だけなの」
「んまぁ…、確かに」
「そしたらね、どんどん気持ちが暗くなって、視界が狭くなっちゃう。まだ世界には沢山の楽しい事があるのにねっ」
ニコって笑って俺を見てからそのまた視線は空に戻る
「空は何処までも続いてるの」
「んなの海だって似たようなモンじゃね?」
頭の後ろに手を組んで硝子扉に寄りかかりながらそう言う俺にアルは首を左右に振って否定した
「海じゃ逢えないよっ」
「何に?」
「死んだ人に」
「あん?」
「父様や母様、ジル兄様には…逢えない」
「何、ジルに逢いたい訳?」
「んっ」
イラつく
王子が傍に居んのにあの糞兄貴の事考えんな
掻き立てられる想いのまま白くて細い腕を引っ張って自分の方を向かせる
「っ…」
「兄様」
「ん…だよ」
「それにそれにね、人はみんな最後には空の向こうに行っちゃうでしょ?」
「…」
「きっとそこはすっごく綺麗でね、アルがそこに行ったらジル兄様達がっ…」
「もう喋んなっ!!」
「へ?」
「もう喋んなよ、んな顔して喋んな」
今キョトンとした、歳相応の可愛らしい表情を見せるアル
そんなヤツが突然大人びた顔で
寂しそうな笑顔でそんな事を言うから何故だか分からないけど突然胸がザワザワした
何か、何かあるんじゃねぇの?
なぁ、アル
「…兄様、えっと…ごめんね?」
オドオドしながらそう謝ってきたアルは椅子から降り傍に駆け寄って俺の腰に腕を回してギュッと抱きついてきた
しゃがみ込んでアルが離れないように
何処にも行かないようにキツく抱きしめる俺の体は何故か妙に震えてて
どうしても止まらなくて
これじゃどっちが年上だか分かんねぇななんて思いながら内心自分に笑ってしまった
秋の夕暮れは綺麗な赤だけど何処か物寂しくて俺の大切なモノを奪われてしまうような気がした
......
(兄様…、怒った?)
(次糞兄貴の事言ったら怒る)
(んっ)
絶対、絶対何処にも行かせねぇ
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