ある日の昼の事



「まって!まってぇ!!」
「イヤだよ、僕そろそろ窒息死する」


バタバタと談話室を走り回るアル
伸ばした手の先、追いかけているのは見慣れた赤ん坊

人形サイズのマーモンを気に入ったアルとアルに抱かれると窒息死すると言い張るマーモンは毎日こんな感じで追いかけっこしている

アルは愛嬌のいい奴で生まれもった才能か俺や馬鹿兄貴とは違って直ぐに人に好かれる

それは独立暗殺部隊ヴァリアーの幹部(ボスも例外ではない)、も同じだったらしくアルはたった数日でヴァリアーに溶け込んでみせた


っても、俺としてはすんげー不愉快だけど
最初は俺の傍から離れなかったのに今じゃボスやオカマにまで抱きつくし

まぁアルの本能が危険だって察知してんのかレヴィには近づかねぇけどな


「兄様?」
「んぁ?」
「何か…怒ってる」


マーモンを追いかけるのを止めてソファーに座る俺の足を跨がるようにして向かい合って座るアル

別に顔には出してない
出て無かったはず
それでも分かるのは妹だからか?


「怒ってねぇ」
「怒ってるっ」

「…嫉妬だっての」


ボソッと言った言葉が聞こえなかったらしいアルは不思議そうに首を傾げた

その一々可愛いの何とかならねぇの?


「兄様?」
「なんでもねぇよ、ほらっ、遊んで来いって」

「…いい」
「何でだよ?」
「だって兄様寂しそう」


ったく、俺の気も知らないで
寂しいんじゃなくて悔しいんだっての
あの馬鹿兄貴が消えてやっと俺だけのモンになったと思ったのにな

でも、アルには広い世界で生きて欲しい
俺のつまらない嫉妬なんかでアルの世界を狭めたくない

だからアルを抱き上げて俺の膝から下ろそうとしたらキッと睨まれた


「っ…アル?」
「今アルを降ろしたら兄様嫌いになるから!」

「はっ?何でだよ?」
「嫌いになるから!」

「っ、分かった!分かったから嫌いになるとか言うなって」


アルに嫌われたら王子生きてけねぇ

下ろすのを止めてギュッと抱きしめたらアルは嬉しそうに笑った


「兄様っ、次から嘘つかないでねっ!」


アルは何もかもお見通しらしい

俺がホントは離したくないって思ってたのも、何もかも



アルがあまりにも幸せそうに笑うからだから俺は気づかなかったんだ







アルの力が弱っていたなんて…




......

(嘘つきは泥棒の始まりだよ!)

(王子暗殺者だぜ?泥棒より上だっての)



ごめんな、アル



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