第二話「チャー先生こんにちは!」

歩きに歩いて1時間。
ようやく夕瑛は、探し求めていた荒地の出口にたどりついた。

【イーアルトリップ!】

第二話「チャー先生こんにちは!」


「やっとついたぁ〜〜〜」
「おいおい何言ってんだ、チャー先生がいるところはまだまだ先だぜ?」
「…えへへ、でも出られたのがうれしくって」

突然訳もわからないうちに荒地に投げ出された夕瑛なら無理もないだろう。
ウーロンは、ふっと微笑んで夕瑛の手をひいて再び歩き出した。

「さぁ夕瑛、早く行かないと夜になっちまうぜ!!」
「はぁーい」

気の抜けた返事で夕瑛もウーロンについて歩いた。

「なぁ夕瑛」
「なんですか?」
「あのさ…その、敬語。やめてくれねぇか?」
「えっ?」
「なんか俺、敬語慣れてなくってさ…変に緊張しちまうから」
「そ、そうなんですか」
「おう」
「でも、ウーロンさんって年いくつなんですか?」
「俺か?18だ」
「あ、近いんですね。私は17です」
「なんで年きくんだ?」
「年上だったら敬意を払って敬語で、と思いまして」
「別に俺そういうの気にしねぇから、タメ口でいいぜ」
「はぁ」
「あと、『さん』づけで呼ぶのもやめてくれ」
「…わかった」
「そうそう。それでいーんだ」

満足げにウーロンが笑う。

「お、もうすぐ着くぜ」
「意外と近いんじゃない、さっき『早く行かないと夜になる』とかいってたのに」
「比喩表現だ比喩表現。ほら行くぞ」

ウーロンが少し早足になった。つられて夕瑛も早足になる。
止まったのは、木造で趣のある寺院のような場所。まさに格闘家の住処、という雰囲気が漂っている。

「チャーせんせーい!!帰ってきたぜー!!」

ウーロンが戸の前で声をはりあげた。


途端。


「こらぁあああああああウーロぉぉおおおおおおおおおおン!!!!!!!!」
「ひっ!?」

夕瑛が小さく悲鳴をあげる。対照的にウーロンは平然としている。

戸があき、目に入ったのは真っ白な長い髭をたくわえた老人。
さしずめ、この老人がウーロンの言う『チャー先生』だろう。

「そんなに叫ぶなよ寿命が縮むぜ先生」
「誰のせいだと思っとるんじゃこのアホ!帰ってくるのが早すぎる!酉の刻以降に帰ってこいと言ったじゃろ!!」
「あーもーうるせーなー」

夕瑛は想像していた『チャー先生』と実際の『チャー先生』のギャップに驚いていた。

(なんかもっとこう…寡黙で大人しい感じの人だと思ってた)

夕瑛がしげしげとチャー先生を眺めていると、ウーロンが口を開く。

「俺はこいつを送り届けに来たんだよ。そしたらちゃんと修行に戻るって」

ウーロンは夕瑛に目配せをした。夕瑛はおずおずと前に出る。

「はじめまして…夕瑛です」
「修行場で会って、なんか訳ありで行く場所ねぇっていってたからさ。こいつも弟子にしてくれ先生。いいだろ?」
「ふむ…」

チャー先生の皺の多い瞼の下の瞳に夕瑛の姿が映る。

「夕瑛といったか」
「はい」
「カンフーを極める気はあるか?」
「…今の私では至らないところもあるかとは思いますが、精いっぱい頑張ります」
「よろしい」
「とってくれんのか!?」
「うむ。しかし弱音を吐いたりしたら即破門じゃからな」
(ひえぇえええ!!)

夕瑛は途端に不安になった。
運動神経に乏しい自分が、本当についていけるのかが一層不安になったのだ。
弱音を吐けば即破門なんて。

(ウーロン…すごいな…こんな人に師事してるなんて)

夕瑛はウーロンを尊敬のまなざしで見た。

「じゃあ先生、俺は修行に戻るぜ」
「待てウーロン」

チャー先生がウーロンを呼び止める。

「ここのことを、いろいろと夕瑛に教えてやれ。」
「え?でも修行はどうするんだよ?」
「特別今日だけなしにしてやるわい」


チャー先生が優しく微笑む。

「ほんとか先生!」
「あ、ありがとうございますチャー先生…!!」

夕瑛とウーロンは二人で感謝の言葉を口にした。

「明日からはみっちり修行じゃからな。夕瑛、お前さんは今日はゆっくり休んでおくことじゃ」
「はい」
「じゃ、行こうぜ夕瑛」
「うん!」

ウーロンに手をひかれて夕瑛も歩き出し、二人は建物の中に入っていった。
二人で談笑しながら行ったので、どちらも気がついていなかった。

「夕瑛とやら…覇気に満ちている…いったい何者じゃ…」

チャー先生の、この言葉に。




つづく!

mae ato
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