novel | ナノ


■ 瞳





「フォルカの目ってさ、おれと同じ色だよな」

トパックがおもむろにそんなことを言ってきた。

「…藪から棒になんだ」
「今気づいたから言ってみただけだよ」

くるりと俺に背を向ける。
相変わらず、何を考えているかわからん奴だ。

「…なぁフォルカ」
「なんだ」
「ききたいことがあるんだ」


【瞳】


「フォルカは今まで何人の人を手にかけたんだ?」

少し暗い声色。
しばし沈黙が流れた。

「さぁな、覚えていない」

覚えている必要もないから。

「おれも、人を殺した。だからおれはもう、昔のおれには戻れない」

顔は笑っていた。しかし、痛々しい。

「おれ、もうまっとうな人にはなれないな」
「馬鹿を言え」

ぴしゃりと言い放った。
トパックが驚いて目を見開く。

「お前は私利私欲のために戦っているのではないだろう?…本当のまっとうではない人間というのは、正当な理由なく、または私利私欲のため人を殺すことじゃないのか」

真っ直ぐにトパックの目を捉える。

「お前は少なくとも、そんな人間ではないはずだ」
「でも、」
「うるさい」
「俺の目は」

そこまで言って、トパックが口を閉じた。

「おれの目は、フォルカと同じだ。フォルカと同じ、血を映し出す赤い目」

トパックの緋色の瞳。

「おれの目は血に汚れた」

少しうるんでいる。


やめろ

お前にそんな顔は似合わない


そう思った瞬間、俺はトパックの喉元にダガーをあてがっていた。

「…、ぁ」
「そんなに今の自分が嫌なら500Gで消してやる」

口布の下で口角を上げた。
トパックの表情にうっすらと恐怖の色が滲む。

沈黙が流れる。

「…これでわかったか」
「え…?」
「お前の本当の気持ちだ」

ダガーを鞘に収める。

「お前はまだ、やらねばならないことがある。戦いはそのための手段だ。だから、やめることはできないし、かといって死をもってすれば目的は達成できない」
「…つまり?」

「今は殺しの是非について考えるよりも戦え。」

トパックは少し固まった後、静かに微笑んで目を閉じた。

「そうだな。フォルカの言ったこと、全部あたりだ。そのフォルカがそういうなら、そうしてみる」
「最初からそうしておけばいいものを」
「ごめんって」

笑顔を取り戻したトパックが、いつものように懐いてくる。

「…じゃあおれ、ちょっとムストンさんのとこ行ってくる」
「何か用事か」

立ち上がるトパックに問いかければ。

「武器、買ってくるよ。戦うためのな」

トパックの瞳はまっすぐに俺を向いた。

「…あぁ」

また後でくる、と行って走り去るトパック。



(…全く、俺もずいぶん甘くなったものだ)

少し自嘲気味に笑った。
あの小さな魔道士一人のために助言をするとは。

(あの『狂王』を倒すまで、あいつを見届けてやるか)

煙管を離した口元からこぼれた紫煙が、空へ吸い込まれて消えていった。





この瞳は血を映す紅

君の瞳も赤い色

でも君は違う

君の瞳は

赤く燃える炎

空を照らす明るい太陽だから

どうか自分を見失わないで







====

蒼炎の後の方のフォルカとトパック。
フォルカの公式絵の赤目見てやらざるをえなかったんです。




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