時刻は夜の7時になろうとしていた。夕日は沈みかけていて橙色の空は薄暗くなってきた。夏至の頃は長い時間薄暗い夜が続いていたのに、もう季節が秋に変わるのだなと思う。カナカナカナ…とまだ生き残っている蜩が何処かで小さく鳴いている。あれだけ鳴いていた蝉もだいぶ減った。暑い日は蝉の声が耳障りで苛々していたが、突然その蝉の声が聞こえなくなるとやっと解放されたと喜ぶ反面、何処かで寂しさがあるもの。天馬はふぅ、と息を吐き出す。歩くのを止めて沈みかけている夕日を見つめていたが、隣にいたサスケが突然ワンワン!と吠え出した。何かと思って見てみれば見覚えのある人物が此方に向かって歩いて来ていた。携帯を見ながら下を向いていて顔は見えない。しかし紺色の髪型で直ぐに分かる。

「京介!」

気付いた時にはそう叫んでいて、天馬の足は京介に向かって走っていた。名前を呼ばれた張本人は携帯の画面を見るのを止めてパッと顔を前に上げた。最初は少し驚いた顔をしていたが、次第に柔らかな笑みに変わった。

「優一さんのお見舞いの帰り?」
「…あぁ。お前は犬の散歩か?」
「うん!サスケって言うんだ。ほらサスケ、挨拶して」

その発言にワン!とサスケが元気良く吠えた。京介は前屈みになってサスケの頭を撫でた。サスケはうっとりと目を細めながら、尻尾を大きく振って喜んだ。その様子を見ていた天馬は笑みを浮かべて良かったねサスケ、と喜んだ。

「羨ましそうな顔してるぜ?」
「え…?」
「何だ、撫でて欲しいのか?」
「ち…違うよっ!そんな事思ってなんか…わ!」

京介の温かい手が天馬の頭を撫でる。天馬の髪は思った以上に柔らかくて、綿みたいにフワフワしていて気持ち良い。だからついぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き乱してしまった。もー、と髪を直しながら嬉しそうに笑う天馬が愛らしかった。

「…なぁ、天馬」
「ん?」
「今…携帯あるか?」
「携帯?あ、うん。あるよ」
「ちょっと貸してくんね?」
「うん」

ちょっと待ってね、とズボンのポケットから携帯を取り出す。京介に渡そうとしたが新着メールが1件来ていてライトがピカピカと光っていて誰からだろうと携帯を開いた。

「あ!ま、待て!」

何故か慌てる京介を無視して受信メールを開く。すると発信者の名前は剣城京介と書かれていた。貸せってば!と言いながら天馬の携帯を取り上げようとする京介の腕を避けながらメールを開いた。すると書かれていたのは四文字だけの短い言葉。



会いてぇ


「え…」
「あーくそ、消そうと思ったのに…」
「え…え…?」
「つーか何でメール送った瞬間に目の前いるんだよ…やべ、超恥ずい」
「京介…あ、あの…」
「な…何でか分かんねぇけど、目茶苦茶天馬に会いたくなったんだよ」
「―――――っ!」

どんどん顔が真っ赤になって行く二人をサスケは真ん中で天馬を見ては京介を見る、を繰り返していた。

「あ…ちょっ、ちょっと待って!」
「?」

天馬は携帯のボタンを何回か打つ。すると京介の携帯バイブが突然鳴る。携帯を開くと新着メール1件の文字。メールボックスを見てみるとそこにあったのは松風天馬の文字。メールに書かれていたのは又しても短い言葉。



俺も会いたかったよ


「わ、目の前にいるのにこんな文送るのって本当恥ずかしいね」
「か…」
「?」
「可愛い過ぎなんだよ畜生!」
「わぁ!」


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