昼休みに自販機で飲み物を買おうとした時に、天馬を見かけた。普通ならこの時間は各自昼食を取っている筈だ。それなのにあいつは高く積み上げられた段ボールを一人で重そうに抱えて歩いていた。そう言えば、さっき天馬と同じクラスの(名前は忘れたが)奴らが委員会の仕事を誰かに任せたとか何とか言いながら売店へと向かって行っていた事を思い出した。段ボールには男子生徒が言っていた委員会の名前が端っこに書かれていて、天馬の事だからそのクソ野郎の頼みを快く聞いたのだろう。全く、どんだけあいつはお人好しなんだ。自分の仕事じゃない事を何で無関係のお前がやらなきゃなんねぇんだ。チッと舌打ちをしながら俺は天馬に近付いた。
「おい」
「あれ?…京介?」
か細い腕で大きな段ボールを持ったまま、くるりと俺へと振り返った。嫌な顔一つもしない天馬にも苛々して自分でも不機嫌な顔になっていると分かった。俺は段ボールを取り上げつかつかと廊下を歩いて行く。何処に持って行くか聞くと音楽室と言った。音楽室と言えばこの学校で一番不気味な部屋だと聞く。怖いのが大の苦手な天馬にこれをあの部屋に持って行くように頼んだのか!?
「あいつら…」
フルフルと震えていると後ろから慌てた天馬の声が聞こて来る。何でお前が焦ってんだ。別にこれはお前の仕事じゃねぇだろうが。まぁ俺の仕事でもねぇけど。天馬の声を無視して音楽室へと早歩きする。
音楽室に着いて、段ボールを乱暴に近くにあった机に置く。綺麗に並べられていたペンがバラバラと段ボールの中で散らばった。
「あ…有難う…」
「…別に。――…おい」
「ん?」
「何で断らねぇんだ」
「へ?…あ、これの事?うーん…何でかなぁ」
天馬は誰かが自分を頼ってくれる事が嬉しいらしい。例えそれが良い様に使われているだけだとしても。ニコッと微笑むあいつの指は小刻みに震えていた。段ボールの中はかなり荷物が入っていて筋肉がそれなり付いている俺でも重いと感じたのだから、腕の筋肉があまりない天馬にとっては痛かっただろう。段ボールの指を入れる隙間は相当食い込んでいた筈。指を見てみると案の定真っ赤になって段ボールの跡が付いていた。それを見逃さなかった俺は手を取りぺろりと指を舐めた。ひゃうっ!と甲高い声を上げてビクッと跳ね上がる。
「こんなに赤くなって…。誰から頼まれたんだ。名前は?」
「えっ!?…そ、それは…。あっ!指舐めるの止めて…よぉっ」
「…言わないと止めねぇ」
「い、意地悪……うぁ!…わ、分かった!分かったから!」
言う!言う!と天馬が涙目をしながらそう言うから舌の動きを止めた。頬を染めて上目遣いで俺を見る姿を見て俺は理性が飛びそうだった。爆発しそうな自分自身を抑えて天馬の指から舌を引っ込める。それから天馬は小さな声で二人の男子生徒の名前を言った。ふぅん、成る程な。
「俺の天馬にこんな事させたらどうなるか、やさーしく教えてやるとしますかぁ」