「兄さん」
病室のドアが開き入ってきたのは俺の弟の京介。手には病院の近くにある本屋の名前が書かれた紙袋と三本のペットボトルが入ったコンビニのビニール袋。あれ?いつもは京介と俺の二つなのに何故今日は一本多いのだろうか、と不思議に思っていたけど京介の後ろから一人の少年がひょっこりと顔を出した。嗚呼、成る程。今日は一人で来たんじゃないのか。
「こ、こんにちは!」
硝子玉の様に輝いた瞳をした少年、確か名前は天馬君だったかな。天馬君は京介の後ろで俺にお辞儀をした。俺も座ったままだけど軽く頭を下げて微笑んだ。
「えっと…天馬君、だよね?」
「覚えてくれたんですか!?」
名前を覚えていたのがよっぽど嬉しかったのか、大きな声を出して喜んでいた。横で京介が静かにしろ!と天馬君の頭を叩いて大人しくさせたのに思わず笑ってしまった。痛そうに頭を押さえている天馬君を無視して京介は俺に本屋の袋を渡した。中を見ると、今日出版された俺が毎回見ているサッカー雑誌だった。京介は雑誌が発売される度に俺に買って来てくれる。
「いつも悪いな」
「気にすんなって」
ニッと微笑む京介を見て、良く笑う様になったなって思った。俺の足が不自由になってから京介はあまり笑う事がなかった。だけど中学になっていきなり笑う回数が増えた。多分、いやきっと彼の御蔭なんだ。
「天馬君」
「?」
「弟と仲良くしてくれて有難う。こいつかなり不器用だから大変だろうけどこれからも宜しくね?」
「兄さん!」
カァッと顔を真っ赤にさせて怒る、と言うか照れている京介の隣で天馬君はフワリと笑顔を見せてくれた。
「京介の不器用なところありますけど俺の事一番に思ってくれるし、不器用ながらも優しくて…俺、京介のそんなとこも好きです!」
「…っ!?」
えへへ、と恥ずかしそうに頬を染めて天馬君はまた笑った。この時京介は隠しきれていると思っているみたいだけど、京介の頬も林檎みたいに真っ赤になっていた。
ああもう、二人とも可愛いなぁ。
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