「京介!こっちこっち!」
「分かったから引っ張んな」

からんころん、と二人の下駄がリズム良く音色を奏でる。天馬は白藍の生地で薄くトンボが描かれた浴衣、京介は黒の生地で白の鯉と波紋が描かれた浴衣を着て、雷門町の夏祭りへと来ていた。ガヤガヤと賑わう屋台の中で天馬はタコ焼き屋の看板を指差して笑う。片方の手は京介の腕を強く握っていて京介が呆れた様子で頭を掻きながら一緒に店員にタコ焼きを一つ注文する。チラリと天馬を見ると、ワクワクとタコ焼きを見つめる姿が可愛くてついつい笑ってしまった。コテッと首を傾げる天馬に京介は何でもねぇ、と頭を撫でた。

タコ焼きが出来上がり店員が値段を元気な声で言う。お金を払おうと財布を取り出す天馬だったが、それより先に出された千円札。へっ?と天馬が上をみるともう店員からお釣りを渡された京介がいた。真っ白い腕でタコ焼きを貰い、それを天馬へと渡す。

「あ、ありがとう。えっと…400円だよね」
「良い、今日は俺が全部奢ってやる」
「えぇ!?そんな悪いよ!」
「俺が奢りたいんだよ。奢らせろ」
「本当に良いの?」
「あぁ」
「ありがと!京介!」

にへらと微笑みながら、天馬はタコ焼きが入ったビニール袋をしっかり握り締めた。それから色んな屋台を見て回った。輪投げや射的、金魚掬い等をした。サッカーは得意な天馬だが、こう言った分類の遊びは苦手で中々自分が思う様にいかない。それとは裏腹に京介は凄く上手で、ほぼ完璧だった。そんな京介を天馬は尊敬の眼差しで見ていた。

長椅子に座り、京介が取ってくれた物を大切そうに持つ天馬。京介は団扇でパタパタと首筋を扇ぐ。

「京介何でも出来るんだね!」
「あ?…あぁ、あんなの感覚だろ」
「俺は無理だなぁ。金魚掬いの時とか俺一匹も取れなかったし!」

どんな感じで取ったら良いのかなぁ、とポイを持った様な格好をして金魚を掬う練習をするのが可愛くて頭を優しく叩く。今度祭に来た時に掬い方を教えてやろうと思った。

ふと携帯を見ると、もう少しで花火が始まりそうだ。京介はパタンと携帯を閉じて長椅子から立ち上がった。

「花火始まるぜ」
「本当?じゃあ行こっか」
「天馬」
「ん?」

自分に向けられた真っ白い手。天馬は目をパチパチと瞬き、次第に顔が真っ赤になって行く。だが恥ずかしながらも京介の手を握り立ち上がる。絡められた手と手は微かに熱かった。

「ホラ、行くぞ」
「う…うん!」

花火が良く見える場所に移動している時に一番の花火が暗い夜を光らせた。

「来年も来れるかなぁ…」
「バーカ。来るんだよ」

来年も再来年もずっとずっと。



title.人魚

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