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その日は雪が降っていた。ザク、とリズミカルに雪を踏みながら守と修也は白銀の道を歩いていた。

「修也さ、いつも寒そうだよな。マフラーとか巻かないのか?」
「付けない、と言うか…いらないな。俺、首に何かあったら邪魔に感じるんだ」
「そうかー?マフラー巻くだけで結構暖かくなるのに」
「…守が編んでくれたら巻くかもな」

ニヤリと悪戯な笑みを浮かべると守が顔を赤らめながら馬鹿…、と呟いた。その表情が子どもみたいで可愛らしくてついつい抱き締めてしまった。

―――これが、二人で過ごした最後の冬だった。




「聖帝」

部下の声で夢から覚めた。ボンヤリとしていた景色も次第にハッキリとしてきた。何回か瞬きをして部下の方を見る。部下は何やら箱の様な物を持って自分の前に立っていた。

「聖帝、お荷物が届いております」
「…誰からだ」
「それが、差出人不明で」
「何?」

部下が修也の元へと歩み寄りどうぞ、と箱を差し出した。確かに差出人に住所や名前等は一切書かれていない。だが、この文字の書き方で誰から送られて来たのか直ぐに分かった。部下に部屋に出る様に言うと、部下は何の躊躇する事なく無表情な顔で修也に一礼して、部屋を出て行った。何も音がしなくなった部屋で修也は箱を開けた。そして中に入っていた物を見て修也の瞳は大きく開かれた。赤い糸で一つ一つ縫われたマフラー。市販の物みたいに計算し尽くされた編み方ではなく、所々編み方がおかしな箇所があった。

「まさか…」

気付いた時にはマフラーを片手に部屋から飛び出していて、部下達が自分の名前を呼ぶ事なんて耳も傾けずただあの場所へと向かった。中学時代、大好きだった雷門町を一番見渡せるあの場所―――鉄塔広場は、彼と数え切れない程の思い出が詰まった大切な場所でもある。そこに彼はいる筈だ。否、きっといる。そう感じた修也は鉄塔広場へと走った。
外はあの時と同じ様に白に包まれていた。荒れた息を整える為に何回か深呼吸をする。息が白い霧に変わり直ぐに消えた。頂上に続く階段を登る際、ふと下を見ると既に誰かの足跡が残っていた。まだ足跡が消えてない事からまだ時間は経っていない。やはり此処に来ていたのか。修也は階段を一気に駆け上がった。階段を上り切った修也の前には自分が探していた人物が立っていた。

「まも――」
「来るな」

後ろに背を向けたまま守は言った。あと5メートルぐらいの場所でぴたりと止まった。行きたくても行けない、見えない壁があるみたいだった。

「俺とお前は…会ってはいけない存在なんだ」

守の言葉がちくりと刺さる。そうだ、昔はどうであれ、今の自分達は敵同士なのだ。サッカーを支配する者とそのサッカーに革命を起こそうとしている者。二人は決して交わる事のないとても悲しい現実。

「…差出人はお前だろう?あの時の約束、覚えていてくれたのか」

手に持っていたマフラーをギュッと握り締める。修也の発言に守は何も返さない。暫く静寂な時間が流れる。それを破ったのは守だった。ふるふると小刻みに震えている。寒いから、ではない。泣いているのだ。

「…お前が、何で…フィフスセクターの聖帝なのか、理由は…分からねぇけど…、けど…っ!まだ…何処かで、修也を想っている自分がいる…」
「……」
「忘れられ、ない…んだよ…修也の、事が…っ!…修也の事が…好き、なんだよっ…」

ザクザク、と雪を踏み締めながら守に近付く。泣いている事に気を取られ守は修也が真後ろに来た時にやっと気が付いた。ハッと慌て離れようとしたがもう遅い。腕を取られ口付けられた。逃げる体を抱き締めて、呼吸する為に開かれた小さな隙間に侵入する生温い舌で何度も何度も口内を攻めて行く。

「――…は…な、せ!」

ドンッ、と守が勢い良く修也の胸を押した。はぁ…はぁ、と呼吸を整える守の目からはまだ涙は流れ続けていた。

「何で…だよ…っ!何で、そんなに…悲しい顔、して…ん、だよ!」

ポロポロと溢れる涙を修也は人差し指で優しく拭き取った。指に付いた涙もあっという間になくなった。それから両瞼にキスを落として、また抱き締めた。最初は抵抗していた守だったが、今回の修也の抱き締める力には敵わなかった。

「すまない」
「え…?」
「…お前に、辛い思いをさせてすまない。…だが、俺はお前の所に行く事は出来ない」
「…うん」
「ごめんな…」
「…うん、うん」
「マフラー、有難う。」
「編むの難しかったんだからな…」
「守」
「ん?」
「愛してる」

そしてまた口付け。今度は触れるだけの短いキス。唇が離れ、自分の目の前にいたのは大切な想い人。くすりと微笑む二人は何処か悲しそうで、何処か嬉しそうだった。

「…じゃあな」

それだけを言い残し修也は守に背を向けて歩き出した。首にはいつの間にかマフラーが巻かれていた。守は修也!と大きな声で叫んだ。しかし修也は此方を向かぬまま歩き続けている。守はそれを分かっていても直、叫んだ。

「俺、いつまでも修也の事待ってるから!」

修也は一度も後ろを振り向かないで白い世界の中に消えていった。だが、守の顔には曇りはなく晴れ渡った太陽みたいだった。

それから家へ帰ると台所から夏未が箱を持って現れた。その箱には差出人が書かれていなかった。夏未の円堂君、誰からか分かる?の問いに守は口を開いた。

「遅刻して来た俺のサンタかな」

守の心の氷はもう溶けていたらしい。



title.誰そ彼

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