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「わぁ、綺麗だね!京介!」
「おー、すげぇな…」

クリスマス当日の夜、恋人同士である天馬と京介は雷門町の中央にある公園のイルミネーションを見に来ていた。ハート型のものや星型のもの等、形は様々で巨大なクリスマスツリーに飾り付けられたものもあった。そんな綺麗な電飾に天馬の心を大きく揺さ振られた様子で、彼の瞳もまたイルミネーションみたいに輝いていた。沢山のイルミネーション夢中になっている天馬を横で見ていた京介の表情は優しい笑みを浮かべていた。

「でも人多いね…」
「まぁ…此処のイルミネーション結構有名だしな」

イルミネーションが見えるのは当たり前だが、それと同時に見えるのは人、人、人。京介の言う通りこの公園のイルミネーションは綺麗だと良くテレビや冬のお勧めスポットとして取り上げられている程。一通りイルミネーションは見たしこのまま此処にいては人酔いしてしまいそうなので、二人は家に帰る事にした。京介は天馬が人混みに呑まれない様に手をしっかり握り、人を掻き分けながら出口へと向かった。人混みを抜け少し疲れた様子で互いに顔を見合わせた後、小さく笑みを浮かべてから公園を出た。




「人ばっかりだったねー!」
「あんなに人がいたらイルミネーションより人見に来たみてぇだな」
「それそれ!もう最後とかイルミネーション見る所じゃなかったよー」

先程のイルミネーションでの出来事を話しながら自宅へと向かう二人。自分達以外に歩く者はいなくて、コツコツと彼等の靴の音だけが響く。さっきはあんなに煩かったのにねー、と天馬が言った。その答えと言って良い様に京介は微笑み天馬の手を握った。そしていつの間にか家に帰る為の分かれ道まで歩いて来ていた。天馬はそのまま真っ直ぐだが京介はこの道を右だ。天馬はもうお別れか…、と寂し気な顔をした。しかし、そんな我が儘なんて言えないから京介の手を離そうとした。するとギュッとさっきより強く握られた手の平。

「…え?え?京介?」
「もう、帰らなきゃ行けないか?」
「ううん。秋姉に今日は遅くなるって言ってるから大丈夫だよ?」
「そうか。―――なら、ちょっと寄り道して行かないか?」
「…うんっ!」

天馬は元気良く頷き、手を強く握り返した。京介は天馬の手を繋いだまま右の道へと進んだ。途中、左側に広がる林の中へと足を踏み入れた。まだ良く分かっていないまま天馬も京介の後について行った。茂みを抜けると広い場所へと出て来た。目の前に現れたのは満天の星空。キラキラと異なる輝きを放つそれは天馬の声を失わせる程であった。

「此処、お気に入りの場所なんだ」
「………う、わぁ…」
「確か…オリオン座のベテルギウスとこいぬ座のプロキオン、おおいぬ座のシリウスを繋げたら冬の大三角形になる」
「ん?どれ?どれ?」
「オリオン座は分かるか?あー、ほらあれだ三つ星があって…」

数多くある星から三角形を探すのは天馬にとって困難である。どの星か分かっていない天馬に京介はオリオン座を指した。

「あ、もしかしてあれ?昔の太鼓みたいなのに似た形の?」
「昔の太鼓って…もしかして、鼓の事か?まぁ、多分それだ。それの一番左上の星の横と斜め下に普通の星より輝いてる星がねぇか?」
「んんー?…あ!あった!逆三角形になった!」
「そう。それが冬の大三角形」
「俺、夏の大三角形は知ってたけど冬の大三角形なんて初めて知った…!」
「夏の大三角形の方が知られてるからな。あと、冬のダイヤモンドってのもあるぞ」
「京介、星に詳しいんだね!」
「兄さんが星座に詳しいからいつの間にか覚えてただけだ」
「優一さんって星好きな…――くしゅん!」

だいぶ冷え込んで来たからか天馬が嚔をした。そろそろ帰るか、と京介が言うと天馬は首を横に振り京介に抱き着いた。

「…天馬?」
「俺、もう少し此処にいたいな」
「気に入ったのか?」
「うん!…さっきのイルミネーションよりこの星空の方が俺好き。京介、素敵な場所を教えてくれて有難う」

ふんわりと笑みを浮かべる天馬の頬に京介は手を当てる。氷みたいに冷え切った京介の手にビクッと体を揺らす。冷たいよ、と口を開こうとしたがそれは京介の口付けによって止められた。それから天馬の口内へ入京介の舌が入って来る。京介の甘い口付けに酔い痴れた天馬の目は次第に虚ろになって行く。それに気付いた京介が唇を離す。すると天馬が背中に腕を回し、また京介に抱き着いた。何て愛らしいんだ、と言わんばかりの表情を浮かべた京介もまた天馬を抱き締めた。

「今日、天馬と過ごせて嬉しかった」
「うん」
「また…来年も此処で星空見ような」
「うん…!…京介、大好き」
「…俺も大好きだ、天馬」

二人が抱き締め合う中で頭上に輝く一つの星が彼等の幸せを祈るかの様にキラリと流れて消えた。



title.誰そ彼


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