「フッ、さっきまで間抜け面だったのにいきなり難しい顔になったな」
「笑い事じゃないよ!…で、お兄さんの病気はどんな病気なの?」
「…足が腐る病気だ」
「―――――ッ!」
「…元々兄さんは足が不自由で、最近その病が悪化した。…もう時間もあまり残ってない」

病を治す事は吸血鬼の魔術を使えば治療が可能だが、吸血鬼の兄の掛かった病を治すのはかなり難しく、大量の魔力を消費する。吸血鬼にとって今以上に魔力を生み出すには人間の血が必要で、それに彼は人間の血を嫌って全く血を吸わない為魔力は0に近い。

「今日何十人か人間を襲うつもりだったんだが…このザマだ」
「どうして今日にこだわるの?何度だってチャンスはあるんじゃん」
「…肌も青白い。目も赤い。耳も歯も尖ってる。こんな奴が街を歩いてたら可笑しいだろ」

赤い瞳が悲しげに下を向く。その姿を見た天馬の心はズキン、と痛んだ。吸血鬼とか狼男とか言った怪物達は人を殺す事しか考えてないと思っていたので酷く衝撃を受けた。そしてこんなに悲しい顔にさせた原因は自分達人間である事にもショックだった。彼らはただ生きたいだけなのに怪物だからと恐れられ、馬鹿にされ、貶され続けた結果、人がいない場所でひっそりと暮らすしかなかったのだろう。泣きそうな顔をしていたら吸血鬼がどうした?と顔を覗き込んできたので慌てて笑顔を作った。

「だが、こんな奴でも今日だけは何も考えずに街を歩いたり出来る。…今日は何の日だ?」
「―――…あ、ハロウィン!」
「当たり。…ハロウィンなら殆どの人間が仮装して街を歩き回る。俺は周りからしたら吸血鬼の仮装をしている餓鬼にしか見えないだろ?」
「確かに…」

そして、吸血鬼は漆黒のズボンのポケットから丸いクッキーが沢山入っている透明のオレンジ色の袋や様々な色の丸いキャンディなどを取り出して、嬉しそうにそれを見て暫くしてから再びポケットへと入れた。
ハロウィンの夜だけが吸血鬼にとって外での唯一の楽しみだった。歩けば知らない人間に話し掛けられ、笑顔でお菓子を貰える。笑顔なんてハロウィンしか見れない。ハロウィンじゃない時に自分に会ってしまえば人間達は恐怖に染まった顔しか見せないから。

「…じゃあ、俺はもう行く。最低でも今日は1人は必要だからな」

その場から去ろうとしたが、マントを強く掴まれて動けない。後ろを見てみると天馬が下を向いてマントを両手で掴んでいた。そして顔をバッと上げて吸血鬼の目を見た。その瞳はルビーと対照的なサファイアの様な輝きを放っていた。


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